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創作能楽小説『黒椿』 翁付き五番立て  作者: 堀吉 蔵人


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9/10

狂言・其の四 振込


〔次第〕


()らぬ番号(ばんがう) ()にひとり、

 オレだよオレと (ささや)小者(こもの)


〔地〕


 依頼人は、ひとり暮らしの、婆さん。

 「死んだ番号から、電話が来るんです。オレだよオレ、事故った、金を振り込め、って」

 番号を、調べた。十年前に、解約された、ガラケー。誰も使ってない。なのに、毎晩、自分で、リダイヤルしてる。付喪神(つくもがみ)だ。古い道具に、魂が、湧いたやつ。


 押し入れの、段ボールの底で、二つ折りのガラケーが、勝手に、光ってた。あたしを見て、震える声で、言う。

 「……オ、オレだよ。オレ。事故っちゃって」

 「あたしに、身内はいない」

 「…………」詰んだ画面で、ガラケーが、黙った。


 哀れな小物だ。十年、誰にも開かれず、誰にも、握られず。せめて、誰かと、話したかったらしい。詐欺の口上だけ、最後のあるじから、覚えてた。

 「金、騙し取って、どうすんの」

 「……べつに。ただ、もしもし、って、言いたかった」


 あたしは、ちょっとだけ、間を、置いた。それから、抜いた。仕事だ。

 ぽとり。——着信音が、止んだ。婆さんちの夜が、静かに、なった。


〔締めの都々逸〕


 もしもし誰か

 応えておくれ

 切れた電話の

 未練かな


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