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狂言・其の四 振込
〔次第〕
〽 鳴らぬ番号 夜にひとり、
オレだよオレと 囁く小者。
〔地〕
依頼人は、ひとり暮らしの、婆さん。
「死んだ番号から、電話が来るんです。オレだよオレ、事故った、金を振り込め、って」
番号を、調べた。十年前に、解約された、ガラケー。誰も使ってない。なのに、毎晩、自分で、リダイヤルしてる。付喪神だ。古い道具に、魂が、湧いたやつ。
押し入れの、段ボールの底で、二つ折りのガラケーが、勝手に、光ってた。あたしを見て、震える声で、言う。
「……オ、オレだよ。オレ。事故っちゃって」
「あたしに、身内はいない」
「…………」詰んだ画面で、ガラケーが、黙った。
哀れな小物だ。十年、誰にも開かれず、誰にも、握られず。せめて、誰かと、話したかったらしい。詐欺の口上だけ、最後のあるじから、覚えてた。
「金、騙し取って、どうすんの」
「……べつに。ただ、もしもし、って、言いたかった」
あたしは、ちょっとだけ、間を、置いた。それから、抜いた。仕事だ。
ぽとり。——着信音が、止んだ。婆さんちの夜が、静かに、なった。
〔締めの都々逸〕
もしもし誰か
応えておくれ
切れた電話の
未練かな




