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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第7章 影の五騎士編

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216話 成長の可能性

 工房の奥にある炉に火が入る。


 セレナが手際よく木炭をくべ、ふいごを使って温度を上げていくと、徐々に赤々とした光が工房内を照らし始めた。

 その光に照らされる彼女の横顔は、どこか懐かしさを帯びながらも、決意の色が宿っていた。


「……これからですね。」


 俺の言葉にセレナは頷き、工房の奥にある作業台の前に立ち、鉄の塊を見つめた。


 しかし、そのときセレナの脳裏にある思いが横切る。


(……やっぱり、だめかもしれない。)


 セレナの手は、かすかに震えていた。かつて鍛冶師として働いていたとはいえ、一度すべてを投げ出した身。もう自分には、剣を生み出す資格などないのではないか。


 そんな彼女の背中を、ぽん、と軽く叩く者がいた。


「何震えてんのさ、セレナちゃん。」


 ルミエラだった。彼女は腕を組み、にやりと笑っている。


「アンタの手は、まだ剣を作るためにあるんだろ? だったら、アンタの思う通りに作ればいいじゃん。」


「……でも……私……。」


 セレナの迷いの言葉を遮るように、俺も口を開いた。


「セレナさんは一体何を無理だと思っているんですか? 手もある、道具もある、知識も技術もある。なら、あとは気持ちだけですよ!」


 俺の言葉に、セレナの目が輝いた気がした。


「俺は、セレナさんが自分の手で最高の(レイピア)を作るところを見てみたいんですよ。セレナさんが昔の自分を取り戻す瞬間を――。」


「……昔の、私……。」


 セレナは、かつての自分を思い出す。剣を打つたびに生まれる火花の輝き。鋼を叩く音が響く工房。自分の作った剣を手にした剣士たちが戦場で輝く姿。それこそが、自分の誇りだった。


「……そう、だった。私は、”鍛冶師”だったんだ……。」


 気づけば、彼女の手はしっかりと金槌を握りしめていた。


「……やってみる。」


 セレナは深く息を吸い込み、鉄を炉に入れて熱し始めた。炎の赤い光が、彼女の紫色の髪を照らす。


 俺とルミエラは黙ってそれを見守った。


 最初はぎこちなかった。打ち込む力も弱く、形もなかなか整わない。しかし、一振りごとに感覚を取り戻していく。鉄を打つ音が工房に響き渡る。


(私は、作れる……作れるんだ!)


 セレナの目に迷いは消え、真剣な光が宿っていた。


「んんっ!」


 振り下ろされるハンマー。


 硬く、重い音が響く。


 最初の一撃で鋼の塊がわずかに変形する。

 それを繰り返すうちに、鉄は徐々に細く、しなやかな形状へと変わっていった。


「いい感じじゃない。」


 ルミエラが腕を組みながら、にやりと笑う。


「やっぱり、体が覚えてるんだね。」


 セレナは返事をしない。ただ、ひたすらに打ち続ける。


 力加減、ハンマーの角度、叩くリズム。


 すべてが絶妙なバランスで成り立っている。


 彼女の表情は真剣そのものだった。


 時折、火に戻して温度を調節し、再びハンマーを振るう。そんな作業を繰り返しながら、鋼は少しずつ理想の形に近づいていく。


 作業の途中、セレナはふと手を止めた。


「……また、しっぱいするかもって思ってた。」


 ぽつりと、そんな言葉がこぼれる。


 俺とルミエラは黙って彼女の言葉を待つ。


「鍛冶師としてもケンシとしても、てき当で……どっちも頑張れなくて……。だから、また後でイヤになっちゃうかもって。」


 彼女の手は微かに震えていた。


「でも、カイル君の言ったとおりだった。」


 俺の方を向き、セレナは小さく微笑んだ。


「”せいちょーするかのうせい”を、自分でヒテイしちゃだめなんだって。」


 そう言うと、彼女は再び作業に戻る。

 俺たちは、それを静かに見守った。



 ―――。



 そして数日が経ち、ついに彼女は一本のレイピアを完成させた。それは今までのどの作品よりも洗練され、見た目だけでなく、バランスや強度も計算され尽くした最高の一振りだった。


 ルミエラが満足げに頷きながら、声をかける。


「ふふっ、なかなかの出来じゃない?」


 セレナは静かに剣を持ち上げ、光に透かしてみる。


 どこか誇らしげな表情を浮かべながら。


「うん……今までで、いちばんの”作品”ができた。」


 その言葉に、俺とルミエラは笑った。


「おめでとう、セレナさん。」


 俺がそう言うと、彼女は少し照れたように目を逸らす。


「まだまだ、これからだから……。」


 そう言って、もう一度レイピアを見つめる。


 この一本は、彼女にとって新たな一歩。


 そして、鍛冶師としての再出発だった。

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