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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第5章 魔王討伐編

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142話 決戦前夜

 そして、さらに半月の時が流れた。

 エグザミート国で特訓を続けていた俺たちは、エレーナ王女からの連絡を受ける。魔王軍の侵攻が明後日にもノワラ国の首都カーヴァインに到達するとのことだった。

 俺たちは訓練を切り上げ、カーヴァインに向かうことを決めた。俺にとっては約1年ぶりの帰郷だ。


 エグザミート国のサランドラ王が、ノワラ国の人々を自国で匿う提案をしたおかげで、ノワラ国には一般市民の姿はなく、国を守る兵士と、魔王討伐に名乗り出た冒険者たち、そして俺たち以外はほとんどいなかった。


 ディレオス王の指示で、街の住民たちは『特殊部隊』の護衛を受けながらエグザミート国に避難している。


 カーヴァインへと向かう馬車の中、俺たちは迫りくる魔王軍に備えた静かな緊張感を共有していたが、ルミエラがぽつりと呟いた言葉がその空気を破った。


「本当にこれから魔王が来るんだな…。正直、実感が湧かないよ。」


 その言葉に、アルマが少しにやけながら言葉を返す。


「なにルミエラ、もしかしてビビってるの?」


 挑発的な口調に、ルミエラはアルマの頭をぐしゃぐしゃとかき乱しながら反撃した。


「ハッ!誰がビビってるだってぇ?あんたこそ震えてるんじゃないか?」


「頭撫でんな!」アルマはムッとしながら手を払い、頬を膨らませる。


「フン、今更ビビるわけないでしょ。ここまで来たんだから怖いものなんて何もないわ。」


 そんな二人の軽口を聞きながら、俺は少しだけ気持ちが軽くなるのを感じていた。この数日の訓練で心も体も追い込まれた俺たちは、こういう何気ないやりとりが救いになっていた。



 そんなやり取りをしているうちに、馬車はノワラ国の王城へと到着した。


 久しぶりに見るカーヴァインの街並み、そして目の前にそびえ立つ威厳ある王城。その姿は1年前、俺が魔法適性検査で訪れた時と変わらない。

 しかし、この城を見ると当時の屈辱的な記憶が蘇り、少しだけ胸が苦しくなる。


 馬車を降りた俺たちは、城の中へと足を進める。長い廊下を歩き、やがて大きな扉の前に辿り着いた。そこは謁見の間に繋がる唯一の大扉だ。

 扉の前に立つ兵士たちが俺たちを一瞥し、お辞儀をすると、重厚な扉をゆっくりと開いた。


 扉の向こうには、玉座に座るディレオス国王の姿があった。

 彼の隣には、エレーナ王女と王女によく似た品のある女性――おそらく王妃であろう人物が座っている。

 そして玉座の下には、数十人の冒険者と兵士たちが整列していた。彼らの表情は皆引き締まっており、この場に集められた者たちが、全員相当の実力を持つ猛者であることが一目で分かる。


 その中に立つ俺たちは、ルミエラ、アルマと共に並び、玉座に座る国王を見上げた。国王はゆっくりと口を開き、低く響く声で俺の名を呼ぶ。


「よくぞ…よくぞ来てくださった、勇者カイル。」


 その一言に、謁見の間にいる冒険者や兵士たちがざわめいた。しかし、ディレオス王が手を軽く上げると、すぐにその場に静寂が戻る。


 国王は続けた。


「明後日、エレーナの未来視の通りであれば、魔王軍が我が国の首都カーヴァインの目と鼻の先に迫るだろう。我々にはもはや退路はない。ここで奴らを迎え撃つ以外に道はない。」


 国王の重い言葉に、謁見の間の空気がさらに張り詰めた。


「すでに我が国の住民たちは、エグザミート国王の提案を受け、避難を完了している。ここに残った者たちは、すべてこの国の存亡を背負う覚悟を持つ者たちだ。勇者カイル、そしてその仲間たちよ、我々と共にこの危機を乗り越えてほしい。」


 ディレオス王の目が、真っ直ぐに俺を見据えているのを感じる。その視線に押されるように、俺は一歩前に出た。


「…分かりました。俺も、全力を尽くします。しかし、この国のためではない。」


 その言葉が響いた瞬間、謁見の間にざわめきが広がる。冒険者たちや兵士たちが驚きの表情を見せる中、俺は視線を下げることなく続けた。


「俺は、エレーナ王女の覚悟を踏みにじらないために戦う。命を懸けてこの国を守ろうとする彼女の決意に報いるために。そして”友人”たちのために戦う。」


 言葉に力を込めながら、一瞬だけライガやフィーニャたち、そして…ノアとフェンリを思い出す。


 俺の言葉を聞いていたディレオス王は、厳かな表情を崩さずに頷くと、低く、はっきりとした声で言った。


「うむ…それで良い。人のために戦う。君にその意志さえあってくれるのなら…私は…。」


 国王の目は真剣で、そこには微塵の揺るぎもなかった。俺は国王の目を見据え、さらに言葉を続ける。


「――そして…」


 俺は拳を握りしめ、全員が見守る中、言葉を紡いだ。


「俺自身のためにも戦います。そして、ここにいる皆が、自分の力を信じて立ち向かうように、俺も俺を信じて立ち向かう。」


 その言葉に、冒険者たちや兵士たちから自然と低い歓声が上がった。それは少しずつ大きくなり、やがて、全員が士気を高めるような声援へと変わっていった。


 ディレオス王は満足げに頷くと、改めて全員を見渡しながら声を張り上げた。


「皆の者!これが我々の『希望』だ!勇者カイルが、この戦いの最前線に立つ!共にこの危機を乗り越え、ノワラ国を守るために力を合わせよう!」


 その言葉に、謁見の間にいる全員が拳を握り、揃って声を上げる。その中にいる俺もまた、自然と拳を握りしめていた。


 この場に立つ全員の覚悟が重くのしかかる。それと同時に、俺はこれまで以上に強い決意を抱く。


 戦いは、もう目の前だ。そして、俺がこの世界で”求めていた物”を、自分の手で掴む時が来た――。



 ―――。



 決戦前夜の緊張感が漂う中、王城では兵士や冒険者たちが出陣式と称して酒を煽り、戦勝を祈願していた。この世界にも、戦いの前に士気を高めるためのこうした風習があるのだろう。


 彼らの騒々しい声が遠くに聞こえる中、俺はエレーナ王女からの呼び出しを受け、王女の部屋へと足を運んでいた。


 王女に呼び出されたのは俺だけだった。場所は彼女の私室。王女の部屋の前に立つと、俺は軽く扉をノックした。

 すると、扉が開き、今までのきっちりした襟を整えた姿とはまるで違う、フリルのついたワンピース姿のエレーナ王女が現れた。その姿に、俺は一瞬言葉を失う。


 これまでの毅然とした態度や厳格な振る舞いを見て、つい忘れていたが、エレーナ王女はまだ子供だったのだ。その年齢に似つかわしい服装を目の当たりにして、改めて彼女の若さを思い出す。


「カイルさん!さぁ、どうぞ入ってください!」


 王女は柔らかい笑顔を浮かべながら俺を部屋に招き入れる。彼女の促しに従って中に入ると、部屋の中央に置かれた豪華なソファへと案内された。


 俺がソファに腰を下ろすと、エレーナ王女も向かいのソファに腰を下ろし、じっと俺を見つめる。


「…あの?」


 彼女の真剣な眼差しに、少し居心地の悪さを覚えた俺が口を開こうとすると、王女は慌てて姿勢を正した。そして、改めて深々と頭を下げる。


「カイルさん。改めて、祖国のためにお力添えいただき、本当にありがとうございます。」


 その言葉に、俺は一瞬どう反応すれば良いか迷った。しかし、そんな俺の心の迷いをよそに、王女は頭を下げたままテーブルにゴツンと額をぶつけてしまった。


「いっ…!」


 思わず声を漏らす王女の仕草が、何とも可愛らしく、俺は思わず苦笑いを浮かべる。


「あ、頭を上げてください、エレーナ王女。」


 俺が促すと、エレーナ王女は赤くなった額を手で押さえながら、涙目で顔を上げる。その表情がどこか幼く見えた。


「ふふ、格好つきませんね…」


 王女がそう呟くと、思わず場の空気が緩んだ。張り詰めた緊張感がほぐれ、少しだけ穏やかな雰囲気が流れる。


「その…カイルさんには、本当に感謝しています。」


 額を擦りながらも、王女は真っ直ぐに俺を見て続ける。


「私にとって、今回の戦いは、祖国を守るための戦いであると同時に、私自身の覚悟を試される場でもあります。どんなに未熟でも、私はノワラ国の王族として、この国の未来を守らなければならない。そのために、どうしてもカイルさんの力が必要なのです。」


 彼女の言葉は真摯で、真剣そのものだった。その幼さの残る顔に浮かぶ覚悟の表情を見て、俺の中にある何かが揺さぶられる。


「カイルさん、どうか…あなたの力で、この国の人々を守ってください。」


 再び頭を下げるエレーナ王女に、俺はしばし黙り込んだ。そして、少し照れくさい気持ちを抱えながらも、静かに口を開く。


「…分かりましたよ、エレーナ王女。でも、一つだけ言わせてください。」


 王女が顔を上げ、俺の目を見つめる。


「俺が戦う理由は、国のためでも、王族のためでもありません。あなたが必死にこの国を、家族を守りたいと思っているその覚悟に――俺は応えたいと思っただけです。」


 俺の言葉に、エレーナ王女は驚いたような表情を見せた後、微笑を浮かべた。


「ありがとうございます、カイルさん。その言葉だけで、私は十分です。」


 そう言って、王女は静かに頭を下げた。その仕草が、いつもより少し大人びて見えたのは、俺の気のせいだろうか。


 いつの間にか時刻は周り、決戦は明日に迫る――俺は王女の覚悟を背負い、戦う。

 これが俺自身のためなのか、彼女のためなのか――それすらも曖昧だ。でも、一つだけ確かなことがある。


 今回の戦いで、俺は夢に大きく前進する。夢を叶えるための一歩を踏み出す。どれだけ険しい道のりだとしても、一歩を踏み出さなければスタート地点にすら立てないのだから。


 俺は拳を握りしめた。


「さぁ、やるぞ。」


 自分に言い聞かせるように呟き、決戦の日に備えるために歩みを進めた。

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