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ひつまぶしを作ろう!……んん?



 ここに移り住んで1週間が過ぎた。

 暇だ。やる事は、朝昼夕の3食を食べることとお風呂とトイレと歯磨きと寝る事だけ。

 もう一度言うけど暇だ。


 とは言っても、僕は商家の次男坊。将来は、家督を継いだお兄を助けるか、家を出て自分で店を建てるかの2択を考えられてきたから、しっかりとした教育を受けてる。

 早い話しが字が読めるって事だね。


 この世界で本は貴重品扱いなんだけど、一般庶民の識字率は高く無いらしいから読むのは一部の中流家庭と、今の僕と同じように暇してる御貴族様のご令嬢がほとんど。

 学者さんとかが書いた資料本や、歴史本なんかは超超高価。

 いつの時代も、情報は高い金積んでも買うべしと言うのは同じなのかな?って思ったりもした。


 そしてここは王城と同じ敷地にある…。

 つまり、王城図書室の中の書物を読んでも良いと言う事!もちろん許可は取ったよ?


 条件として、使用人が本の貸し借りを代行する事と、司書さんが必ずチェックと記録することの2点を言い渡された。

 そりゃそうだよね。閲覧してはいけない本もあるだろうし、間違えてそんな本を読まない仕組みにしてくれてるのはこっちとしてもありがたい限りだよ。


「シヴィ様、お食事の用意が出来ました」

「うん、ありがとう」


 屋敷のみんなは僕のことをシヴィ様と呼ぶ。

 たまにふざけて『ご隠居様』って呼ばれることもあるけど、それに対して怒る姿勢を見せる所までが一つの遊びになってるんだ。


 みんなと打ち解けるのが早くてよかったよ。


「わあ!今日のディナーはハンバーグだぁ!」

「シヴィ様のお好きな、チーズ入りでございますよ」

「ありがとう!サックス!」

「美味しそうにお食べ頂ける事こそが、料理人冥利に尽きると言うものでございますよ」


 王城の料理長…王様とかの食事や、他国の使者とか王と会食する料理を作るそう責任者の、お弟子さんのそのまたお弟子さんらしい。

 料理の知識は完璧に叩き込まれたみたいで、代々伝わるレシピとかも伝授されてるそう。


 本当なら、次々代の料理長はサックスなんだろうなぁ。

 一度会ったことがあるけど、サックスの師匠とその師匠…つまり大師匠が口を揃えて言ってたんだよ、彼はまだまだ青二才で修行中の身だって。


 職人魂ってものに感銘を受けた。

 今でも十分すごいと思うのに、まだまだだって言うんだからさ。


「ご馳走でした!」

「はい、見事な食べっぷりでございました」


 礼を失すること即ち、人心離れて死寄るべし。


 地球にいた時におじいちゃんに言われた事なんだけど、まさにその通りだと思う。

 人は1人では生きていけない。とは言わないけど、人と人との関わりや交わりがあるからこそ、人生に色や輝きが出てくるってものでしょ?

 それを深めれば、自ずと自分の価値も上がるんだって教わった。


 価値って言っても、値打ちって意味じゃ無く、他人からの評判みたいなものかな。

 レビューの星の数とか、いいねの数みたいなものって言ったら分かりやすいかな?




 さて、お腹も膨れた事だし、昨日寝る前に考えてた娯楽を作ろうと思う。

 この世界にもチェスがあった。

 家の手伝いをしてた時は知らなかったけど、それも頷ける。


 僕の家の商店は、一般人に向けての商売をしていたから、チェスの様な娯楽品は扱うことが限りなく少なかったんだ。


 僕は地球にいた時はボードゲームが好きだったんだ。チェスは勿論、オセロや将棋が特に好きでやっていたんだ。

 だから、自分で作ろうと思う。


 オセロも将棋も盤はすぐに出来るし、オセロなら表裏の色を分けるだけで良いから簡単に作れるし、もしも石がなくても、銅貨や銀貨の裏表を利用して即席で出来るからね。

 将棋は駒がチェスと同じ様に、少し複雑だから代用は効かないけど、新しいルールを追加して遊べばもっと楽しく出来る筈!


 僕が考え付いたのは、王将を取られれば負けって言うのはそのままなんだけど、金が2枚残ってれば行動プラス一回。銀が2枚残ってれば、2ターンにつき行動プラス一回。

 銀が一枚取られたら追加行動は無くなるけど、金が一枚取られた場合は銀2枚と同等の扱いになる…って言うもの。


 金は将軍と宰相、銀はその副官たちと見立ててるから、王以外の司令塔って事で行動をプラスしてるんだ。

 最終判断は王様と仮定してるから、情報伝達に若干の時間を必要にしてるかなぁって考えた。


 説明書も作らないと。


「ああ、暇だと思ってたけど、やりたい事ができると時間があっという間に進んでいくなぁ」


 さっきお昼を食べたばかりなのに、気がついたらもうおやつの時間になってた。

 ティータイム。


 まるで、中世ヨーロッパの貴婦人たちの様な時間を過ごすのは嫌いじゃ無い。紅茶美味しいからね。

 もちろん、コーヒーも好きだったんだけど、転生した影響なのか、まだ10歳の僕の舌には苦味が強く感じて飲めないんだよ。

 もう少し経てば…そうだなぁ、14歳とかそのくらいかな?になれば、飲める様になると思う。

 地球にいた時も、中学生までは毎朝紅茶…ホットミルクティーを飲んでたし、中学生に上がってからはホットコーヒーを飲んでたから、そのくらいの歳になれば慣れる筈。


 子供の体はエネルギーが有り余っててパワフルなんだけど、なんだかなぁって部分もたくさんある。苦味と辛味に弱い所とかね。

 これを、味蕾が発達していないと取るか、はたまた味覚が鈍感化してないと取るかは人によって違うのかな?


 まあ、物は言いようって言うし、僕は明言しないでおこう。


「お茶とお茶菓子をお持ちいたしました」

「うん、ありがとう」


 毎回ウィーが運んできてくれるけど、そう言えばお休みしてないのかな?


「ウィーはいつがお仕事休みなの?」

「本日はお休みをいただいておりますが?」


 え?ならなんでお茶を持ってきたんだろう。


「でも、お仕事してるじゃん」

「おやつを食堂で食べていましたら、シヴィ様の

おやつの時間となりましたので…」


 うん?どう言う事だろう。

 ウィーがお休みで、おやつを食べてたのは良いとしても、それでなんで僕のおやつを運んでくる事になったんだろうか。


「そっか…じゃあ今もお仕事をしてるわけじゃ無いんだよね?」

「そう…ですね」

「なら、一緒に飲んだり食べたりしよ?」

「宜しいのですか?」


 意外だった。

 もしかしたら断られるかもって思ってたんだけど、意外にも受け入れてくれた。


「いいよ!」

「それでは失礼して」


 地球にいた時は1人でコーヒーを飲んでたけど、テレビとかスマホを見てたから退屈する事はなかったんだよね。

 でも、この世界にはテレビもスマホもないし、雑誌も勿論ないから……なんて言うか、贅沢な悩みなんだけど退屈してたんだよ。


 だから!ウィーと一緒にお話ししながら過ごせるなら退屈しないや!

 今後も付き合ってもらおうかな。ウィーだけじゃなくて他の人にも。


「本日のお茶菓子は、最近、庶民で話題となって人気のお店から取り寄せました」

「へぇ!」


 と言うか、僕も一応庶民なんだけど?


 目の前のお菓子は…お菓子というよりはパンに見える。それはもう、まんまクロワッサンに見える。


「いただきます!はむっ…んむんむ…美味しい!」


 おしぼりで手を拭いてから一口。

 うん、クロワッサンだ!はちみつの香りがするクロワッサンだ!


 中世に似てるからか、甘味は貴重な筈なんだけど…。

 いくらここが、この国の王様が住む都市だとはいえ、はちみつはかなり貴重な筈。


 僕の実家でも取り扱う事は一度もなかったと記憶してるけど、一般庶民が口にできる品物じゃないと思うんだよなぁ。


「値段はいくらだったの?」

「一つ、銀貨8枚です」

「高っ!…くはないか」


 銀貨8枚って言えば、日本円に換算して大体八千円くらいかな?

 はちみつの入ってる壺に、人差し指を根元まで突っ込んでくっついた量でも、大体金貨1枚くらいの値段はするらしい。

 養蜂の技術が無いのか、その発想に至らないのか、出来ても量が確実じゃ無いのかわからないけど、同量の砂糖の5倍は値段がつくらしい。


 まさに、一攫千金を狙って山に入り、蜜蜂では無い違う蜂の巣を突いて命を落とす…なんてザラにある事らしく、『蜜蜂一見、金一生』という言葉もあるくらい夢のある食材なんだって。


 あ、ちなみに、実家でやってたお店の店員さんの月給は銀貨1枚半

 これでもかなり弾んでいる方なんだって。


 月給1500円相当って、一体いつの時代の話なんだろうね?


「シヴィ様、メイジュです」

「メイさん?どうぞー」


 メイジュことメイさんは、このお屋敷のメイド副長の役についてるメイドさんで、ウィーの一つしたなんだって。

 女性に年齢を聞くのは礼を失する行為だと思うけど、相手の方から教えてくれたのならその限りじゃ無いよね?


「失礼します。今朝、実家の方から送られて…」

「ん?」


 何やら手にしてるお皿の上にある物に既視感があるなぁ。


「既にお口になされてましたか…」

「あはは、そうだね」

「メイの手にしてるソレは」

「最近話題となっている菓子パンよ」


 さっき実家から送られてきたって言ってたけれども…そんな高価なものを送ってくれるなんて裕福なのかな?


「実は、私の実家がパン屋を営んでおりまして、そこで新しく開発したと言う新商品が好調の売れ行きらしく…」

「と言う事は、このパンを作ってるのはメイの実家という事?」

「そう言ったつもりなんだけど?」


 まあまあ、その辺にしてくださいな。

 賃金払ってるのは僕じゃ無いとは言え、主人の前で喧嘩は辞めなされ。


 まあ、本気で喧嘩してるなら声に出して言ってたけど、これはおふざけだからね。

 ウィーは休日だし、メイさんだって休憩中みたいなものだし。


 彼女たちの仕事はそう多くは無いらしい。

 もちろん、城内や他のお貴族様のお屋敷内なら別だけど、我が屋敷には住んでる人が僕と使用人の彼ら彼女らだけ。

 その上、使用人の仕事着は王城の使用人たちと同じだからって、御用達の洗濯屋に依頼して洗ってくれてるみたいだから、実質洗濯物は僕のだけなんだって。


 そりゃあ暇だよね。


「わあ!こんなにも!?」


 実は、この世界に来る前は甘いものがそこまで得意じゃなかったんだけど、子供の体って言うのと、そもそも体が違うって事から甘いものはそれなりに口に合うようになってた。

 だけど、やっぱり女性の甘いもの好きの方が僕より上だと思うんだよね。


 だから…。


「せっかくこんなに頂いたんだから、仕事中のみんなも呼んで一緒にお茶しない?」


 一瞬の間をおいて、満面の笑みを浮かべて立ち上がったかと思えば、綺麗で素早い一礼をしてから瞬時にみんなを呼びに行ってしまった。


 1分後には、ティー会場が食堂に移されており、さらに1分後には全員が集まっていた。

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