家族と別れて王様と相見えました
僕の名前は雲隠陽陰。
前々世と前世の行いが良すぎたおかげで、地球で死んだ僕は記憶はそのままに異世界へと転生する事になった。
神様が言うには(もう死んじゃったけど)今世は普通だったらしい。
(記憶引き継ぎだけど)普通に転生させるだけだと過去の行いに見合わないからって、異世界にスキルを授けて転生させてくれたんだ。
そのスキルは『量産』。読んで字の如く、物を増やすスキルだった。
機械のない異世界においては異質なスキルを持つ僕は、それなりの大きさの商人の次男として産まれた。
中流の、それも商人の家庭に産まれた僕は、そのスキルを使って家業を手伝ってたんだけど…。
「王命によって、貴殿、シヴィ・ダンシャクを御隠居として扱い、王城敷地内別屋敷にて余生を過ごされたし」
まあ、早い話しが市場を荒らしすぎたらしいんだよね。マイダディが。
「王命によって、貴殿、ホーマー・ダンシャクに対し、3ヶ月の営業停止処分を課す。尚、この文が読み上げられた時を以てしてから、命は執行されるものとす。以上!」
との事なので、僅か10歳にしてご隠居様となりました。
まあ、家督は兄がいるから平気だし、僕はゆっくりと余生を過ごす事にします。
たまに会いに来てね、ダディ、マミィ。ついでにブラザーも。
ん?別に仲は悪くないよ?ついでって言うのは冗談だよ、ははは。
場所は移って王城にて。
「そちの行い、看過出来ぬのもであるために家と離した。今後は、この城の離れにて過ごせ。年若いそちには責が無いことは知っておる」
とは、王様のお言葉。
ありがたくも、直接のお言葉を頂いている訳なんだけれども、転生する時に神様ともお話ししてるからか全く緊張しないや。
なんて言うのかなぁ…校長先生と直接話してるみたいな感じ?こっちは喋れないけど。
「離れとはいっても、そちの住んでいた家の5倍はあるそうだから、ゆるりと過ごすが良い。生活は王家が負担する故、好きなことをして過ごせ」
王様と謁見する所作なんて知らないから、正座して頭を下げてるだけ…。まるで御奉行様の沙汰を待ってるみたいだなぁ。
でも、要するに、離れで好きに暮らして良いって事でしょ?
政治に使われたり国に使われたりしないなら、この際何でも良いや。
「家族との面会は、2ヶ月に1度と制限する。城壁の外に出る際には、お供を最低10人付けることとする。今のところはこの程度にしておくが、何かあれば増やす事も有る」
脱走防止の監視役と僕の能力を悪用しようとする不届者への護衛役を兼ねるってことね。
わかりました。
「取り敢えずの所は以上だ。今後、そちの力を政治や商売などで使う事は禁ずる法令を発する」
これは僕に向けての言葉じゃ無いな。周りにいる御貴族様への言葉だろう。
「そちが己がために、良識の範囲内で使うとするのであらば、咎めることは無い」
というか、僕を殺さない限り止める事なんて出来ないけど。
「退室せよ」
「はっ!」
宰相様の言葉になら反応しても良いらしい。
権力者って面倒だなぁ。
ま、取り敢えず公式の場での言葉だから、書状になってない部分があっても効力は発揮されるだろうし、僕は今後安泰だね。
日本には、働かざる者食うべからずって言葉があったけど、僕は死にたくなくば働くな、だね。
「それではシヴィ様、お住まいの方へご案内させて頂きます」
「はい」
僕は前世の知識があるから、学があると言っていいけど、この世界だと一般家庭じゃ読み書き計算ができたら良い方だって。
敬語とか言葉遣いが丁寧なのは、経済力のある中流家庭とか御貴族様だけらしい。
産まれが商人の家でよかったよ。変に思われないし、学ぶ機会があった。
「今後、シヴィ様のお世話をさせて頂くメイド達を束ねます、メイド長のウイルンと申します」
「シヴィです。よろしくお願いします」
「主従の関係となりますので、敬語は御辞めください」
なるほど。確かに、今までは商人の子だったから相手に敬語の方が良かったけど、ウイルンさんの言う通りかも…。
日本人の気質なのか、目上の人には敬語を使いたくなるんだよなぁ。
10歳の僕が言うのもなんだけど、ウイルンさんもかなり若そう…20歳前後かなぁ?
なのに、メイドさん達を束ねる地位にいるなんて凄い人だ。
「それと、私は親しい人たちからはウィーと呼ばれていますので、宜しければ、そうお呼びください」
「僕の名前と似てるね。シヴィとウィーって」
「…言われるまで気が付きませんでした。ご不快な御思いをさせてしまいーーー」
「いやいやいや!そんな事ないから!頭をあげてよ!」
僕が貰った新しい家ならともかく、まだ王城の中なんだから…。
引越し早々、あらぬ噂を立てられたら居心地が悪くなっちゃう。それだけは阻止しないとね。
「こっちこそ、お城に仕えるために努力してる人たちを、僕みたいな御貴族様でもない子どもの担当になっちゃったことを謝りたいよ」
本当なら、お城に来た貴族の当主や次期当主達の滞在中のお世話をしたりするんだろうし、そこで目に止まれば妾…要するに側室になって、玉の輿を狙えるだろうし。
「この話は終わりにしよっか」
「かしこまりました」
「所で、屋敷には何人の使用人がいるの?」
「私を含め、メイドが15人、執事長を含めた執事が5人となっております。また、王城の料理長の孫弟子さんが料理長を務めて下さいます」
家族と住んでた家も、一階の店舗も兼ねてたとはいえそれなりに大きかったから、メイドさんを3人雇ってたんだ。
我が家は両親とベックス…お兄と僕、一家全員で接客とかしてたし、その間に家の掃除とか洗濯とか、従業員の分も含めた昼食の用意もお願いしてた。
でも、僕に執事さんは必要無いと思うんだけどな。執務なんて無いし。
「小さいながらもお庭もございますので、庭師も2人ほど居ります。他に何かご要望はございますか?」
「そう言われても、まだ見てすら無いからわからないや」
庭があるなら、日本庭園風にしたいなぁって言う要望ならあります。
例えば、枯山水とか鹿威しとか。
日本庭園は水があってこその日本庭園だって聞いた事があるけど、わざわざ庭園を作るために水の流れを作るなんて事は出来ないよね?
それでも、やっぱり庭園には水が必要だって事だから、石を水やその流れに見立てる事で代用したんだとさ。それが枯山水。
確かに、実際に水があった方が綺麗だし涼しいし、季節の花々や木の葉が浮かんだり、月が映ったりして良いんだけど…、僕は枯山水の方が好きなんだよなぁ…。
日本にいた時、修学旅行で京都に行って実際に見た事があるけど、それから好きになったんだ。
水は鹿威しに使うくらいなら用意してくれるかな?
「あちらがこれからお住みになるお屋敷でございます」
「…本当に大きいや」
目測だけど、学校にある体育館が、縦に三つ分で横に四つ分くらいはありそう。奥行きは、並列に並べて二つ分くらい?
ただの子どもが住むには広過ぎるし、それをメイドさん15人と執事さん5人で管理するなんて大変だと思うけど…。
「働き甲斐のあるお屋敷で、私達は意欲に燃えて居ります」
ほっといたら休み無く働きそうな人だ。ここは一つ、屋敷の主人として初めての命令をするべきかも。
「使う場所なんて限られてると思うから、毎日掃除するのは普段使いの場所とお客様用の場所だけで良いよ。使わない所は、手が空いた時にゆっくりやってくれれば良いさ」
ブラック企業にはなりたく無いし…。
「そういえば、ウィー達使用人ってどこで暮らす事になるの?」
「城壁の敷地内には、王城勤めの使用人たちが住む寮の様なものがございます。私たちはそちらに住んでおりますので、今後もそれは変わらないかと存じます」
まあそうだよね。わざわざ自宅から通うなんて事は、よほど家が近くじゃ無いと無理だろうけれども、お城の周りは騎士団の詰め所だったり、魔道師団の建物があったりするし…。
「それなら、住みたいって人だけで良いから、このお屋敷に住み込みって事にできないかな?朝は少しでも寝てたいだろうし、夜は少しでも早く帰りたいだろうしさ」
「それは……宜しいのですか?人によっては、使用人と顔を合わせたく無いからと言って、屋敷内では鉢合わせないようにしているお方もいらっしゃるようですが」
確かにそう言うのを気にする人もいるみたいって事は、地球に居た時に何かの拍子で調べたことがあったから知ってたんだ。
「そう言うのは気にしないよ。僕は御貴族様じゃ無いし、アットホームな職場ですって言いたいしさ」
「アットホーム…聞きなれない単語でございますが?」
「簡単にいえば、仲の良い仕事場にしたいってことかな。家族のようなってのは難しいかもしれないけど、友達のようなら然程難しくは無いと思うんだ」
少しズルいかも知れないけど商売の手法を使わせてもらったよ。
最初に提示する事を大きく見せて、こっちの本当の提示や及第点に落とす事で受け入れ易くさせる。落とし所って言うのかな?
そんなこんなを話しているうちに、屋敷の入り口に辿り着いた。
王様たち御偉い様方は、多分僕を飼い殺す為にこの大きな屋敷をくれたんだと思う。
退屈しないようにって事なのか、これだけの大きさがあれば満足でしょ?って事なのかわからないけど、大き過ぎるよ。
普通に日本の一軒家くらいの大きさで十分だったんだけどなぁ。
テレビもゲームも携帯も、ラジオすら無いんだから仕事が娯楽みたいな感じだった僕は、これから何をして暇を潰そう。
医療の発展してないこの世界で、僕が何歳まで生きられるのか分からないけど、少なくみても50年くらいはある筈。
何をすれば良いんだろう。
「本日は使用人との顔合わせがありますので、全員がこの扉の向こうに集まって居ります」
「うん、わかった」
「それでは…」
『お初に御目にかかります、ご主人様』
一糸乱れぬってのは、こう言う事を言うんだろうなぁとしか感想が出なかったです。