表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる  作者: フオツグ
神竜の寝床

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/63

「痛みは幻だった」

「はは……ハハハ! なんだ。やはり、偽物なんじゃないか!」


 ピエーロは変わらず笑っている。


「シャルルルカ様なら、あんな竜なぞ一捻りだ。それが出来ないから、土下座なんて惨めなことをしたんだろう!」


 シャルルルカがピエーロの髪をガッと掴んだ。


「お前が指示したのか」

「……何の話だ?」

「とぼけるな。お前があのガキに結界へ触れろと言ったんだろう」


 ピエーロは鼻で笑った。


「知らん。あれが勝手にやったことだ」

「ピエーロ先生……?」


 キョーマが青ざめた顔でピエーロを見つめる。

 次の瞬間、シャルルルカはピエーロの左頬を殴っていた。


「ぶえ」


 ピエーロが情けない声を上げて、地面に倒れ込む。


「な、殴ったな!? この、我が輩を!」


 ピエーロは甲高い声で喚く。

 シャルルルカはピエーロの懐から魔法の杖を奪い、鼻先に向けた。


「《幻影(アリュシナシオン)》」

「はっ。この期に及んで、幻影魔法などと……。そんなもの、痛くも痒くもないわ……ん?」


 ピエーロがふと腕を見ると、無数の痣がじわじわと浮かび上がっていた。

 ピエーロは驚いた。

 しかし直ぐに、その痣が偽物だと思いつく。


「この痣は……幻影だな? もう騙されんぞ」

「そうか」


 シャルルルカは興味なさそうにそう返した。

 痣が、ピエーロの足、腹部、背中、そして、顔にも広がり、最終的には全身を覆い尽くした。

 ピエーロはそれが幻影だと頭でわかっていたが、その異様な光景にぞわりとした恐怖を感じた。


「あ……?」


 その瞬間、痣がずくりずくりと痛み出した。


「なあ、幻肢痛って知ってるか」


 シャルルルカが問いかける。


「げ、幻肢痛……?」

「昔、魔物に四肢を食い千切られた人間がいた。おかしなことに、そいつは失くしたはずの部位が痛むと訴え始めたんだ。……痛みは幻だった」


 シャルルルカはピエーロの腕を踏みつけた。

 ピエーロの悲痛な叫びが響き渡る。


「幻影魔法でも、それが再現出来ると私は考えている」


 ぐりぐりと腕を踏みつける度、ピエーロは痛みにのたうち回る。


「痛みは命の危機を知らせる警告信号だ。脳が怪我を知覚すれば、その怪我に相応しい痛みを引き起こす」


 暴れれば今度は、地面に触れた痣が悲鳴を上げる。


「知能の高い人間を騙すは非常に難しい……。故に、一度でも騙されたら何処までも信じ切ってしまう」


 シャルルルカが足を離すと、ピエーロはその場で蹲る。


「ううっ……」


 黙って動かないようにして、痛みが引くのを待つしかない。


「その痛みは幻影だ。黙って待っていて自然治癒するとでも?」

「痛いぃ、痛いぃ……。助けてくれぇ……」


 ピエーロは涙を流して懇願する。

 シャルルルカはそれを黙って見下ろすだけだった。

──あんなに怒っているシャルルルカ先生、初めて見た。

 いつもはへらへら、ニヤニヤと笑って、のらりくらりとしているのが、シャルルルカだった。

 しかし今、彼の目はピエーロを射殺さんとばかりに血走っている。

 ヒッヒッ、とピエーロの呼吸の間隔がだんだんと短くなる。

 シャルルルカはピエーロの頭に向かって、徐に足を振り上げた。


「シャルルルカ先生!」


 レイがシャルルルカに後ろから抱きつく。


「それは駄目です! 死んじゃいますよ!」


 シャルルルカはレイをギロリと睨んだ。

 血に飢えた獣のような目。

 恐ろしかったが、レイは決して目を逸らさなかった。

 じっと、目を逸らさずに見つめ返す。

 腕を踏みつけただけで、ピエーロはあれほど絶叫したのだ。

 頭を蹴り上げたらどうなるのか……。

 幻で痛みが引き起こせるなら、幻で死に至ることもあるかもしれない。

──あたしが先生を人殺しになんかさせない……!

 シャルルルカは観念したように目を伏せて、足を引っ込めた。


「痛い。離せ」

「あ、すみません……」


 レイは反射的に手を離す。

 シャルルルカは先程腹を貫かれたばかりだ。

 傷に触るといけない。

 シャルルルカはピエーロに背を向け、パチンと指を鳴らす。

 すると、ピエーロの皮膚に現れていた痣がフッと消えた。

 レイはほっと胸を撫で下ろした。


「──これは一体、何の騒ぎですか」


 透き通った声が辺りに響いた。

 声のした方へ振り向くと、白い法衣に身を包んだ集団が立っていた。

 神官であろう彼女らは、怪我人の多さに驚いている様子だった。

 神官の集団の中心に、一際目を引く法衣を着た女性がいた。


「あ、貴女は……!」


 ピエーロはその女性を見てサッと立ち上がり、背筋をぴんと伸ばした。


「アレクシス学園長!」


 レイはアレクシスと呼ばれた女性を見た。

 木の葉のような色の長髪。

 伏し目がちの瞼から覗く、青空のように澄んだ瞳。

 シミ一つない真っ白な神官の服を身に纏っている。


「あの人が、大神官アレクシス・シュークリーム……」


 レイはぽつりと呟く。

 アレクシスの姿を見て、レイは違和感を覚えた。

 アレクシスの羽織っていたケープと、服の袖が風ではためく。

──両腕が……ない……?

 アレクシスには肩から先がないようだった。

 レイはシャルルルカに届いた手紙の幻影と、王都の広場にある英雄達の銅像を思い出す。

 確かに、大神官アレクシスには両腕があったはずだった。

──本当に、あのアレクシスさんなの……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ