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「とは言え、構えて聞くほど大した話ではないから、過度な期待はしない方が良いわよ」とリノが一言断りを入れると、フィーネは小さく頷いた。
無言で待ち構える相手に対し思わずリノが「期待するなって言っているのに…… 人の話、聞いているのかしら」と続けると間髪を容れずに「無駄話を聞くつもりはないから要点だけ話してくれるかしら」と返ってきた。
「今から話すんだから黙って聞きなさいよ」
腹黒青年同様、この露出癖のある女も好きになれないと思いながらリノは話し始める。
「私のお兄ちゃんが本気を出せば誰より凄い精霊術を使えるのは間違いないの。 何故なら、お兄ちゃんは精霊術を正式に学ぶ前にも関わらず、火の精霊術で街の郊外に現れた悪魔たちを一瞬で消し炭にしたことがあるんだから」
「術を学ぶ前というのは、いったい何年前になるのかしら?」
「凡そ十年間。 お兄ちゃんが六歳の時の話よ」
「ということは、あなたが五歳の時の話ってことよね? 今まで忘れずに覚えていたの? それは凄いわね。 でも、そんな小さい頃の記憶だと信憑性に乏しいと言わざるを得ないわ」
「私は作り話をしている訳ではないわ。 あれは忘れたくても忘れられない出来事だったから、よく覚えているの」
「その出来事ってのは何なのかしら?」
「悪魔と初めて遭遇した経験なのよ。 街の郊外に出かけた時、しかも両親と逸れた時に遭遇してね。 とても怖かった。 その時、必死になって助けてくれたのが隣にいたお兄ちゃんだったの」
「そこが何かの記憶違いで、実は親かハンターが助けたってオチでは?」
「あなたって疑り深い人なのね。 断じて記憶違いなんかじゃないわ。 お兄ちゃんが悪魔を倒した時、間違いなく私と二人きりだった。 その後、親のいる方向も判らないのにお兄ちゃんと一緒に無我夢中で走って…… 両親を見つけた時、安堵感から二人で大泣きしたんだから」




