おばあちゃんとあの丘と。
おばあちゃんのおいなりさんを堪能し、お風呂に入って布団にもぐる。
「ああ、 幸せだ」
心身共にリフレッシュできたかな?いい夢見れそう……。
幸せ気分で眠りについた。
『貴女があの櫛を……?』
何か誰かの声がする……。誰?
私は夢を見ているのか。でもはっきり声が聞こえた。男の人の声……。
『櫛を渡して下さり、 有難う……』
か細い声に目を覚ました。
「何? 誰もいないよね……」
薄暗い部屋を見回した。
隣の布団ではおばあちゃんが寝息をたてているし。
でもはっきり聞こえた男の人の声。小さくて切なげで。でも有難うって……。
暫く考え、あっと思った。
「おばあちゃんの……」
おばあちゃんの想う人!そうに違いない。夢かも知れないけれど、櫛を渡してくれて有難うと言っていたし。
喜んでくれたのだろうか……。そうならいいけど。
「おばあちゃん、 おはよう。 あのね、 夕べ不思議な声を聞いたよ」
翌朝私は早速夕べの話をした。
「へぇ……。 そんな事があるんだね。 有難うって言ってたの?」
朝食の準備をしていたおばあちゃんの手が止まった。
「うん。 櫛を渡してくれてって」
お茶碗を食器棚から出しながらそう言った。
「不思議な事もあるんだね……」
おばあちゃんは、お茶碗にご飯をよそりながら呟いた。
「もう一度おばあちゃんの手に櫛が戻ったの、 喜んでるんだよ」
「そうかも知れないね」
朝食を済ませた私は帰り支度をした。
流石に余りゆっくりはできない。それにおばあちゃんもおばあちゃんの想う人も喜んでくれたみたいだし。
「もう一回あの丘に行ってから帰るね」
「そう。 寂しいね。 今度はもっとゆっくりおいでね」
荷物を持ち、おばあちゃんに別れを告げた。そしてあの丘へと向かう。
柿の木のある丘は、とても静かで。時折風の音が聴こえるだけの寂しい丘。
だけど素敵な想い出の残る丘でもある。
「あんたまだいたんだ?」
ふっと振り返ると私の後ろに前に会った人が立っていた。
おばあちゃんの想う人のお家の人。
「今から帰ります」
「この丘の話知ってる?」
「はい。 でも何で貴方が?」
「時々不思議な夢を見るんだ。 若い男女が出てくる夢。 気になってちょっと人から聞いたりしてね」
「そうですか……。 うちの祖母と貴方のお家の方の話ですよね?」
「そうみたいだね。 叶わないままだったけど」
「戦争で叶わなかったなんて、 ちょっと悲しいです。 でも叶っていたら私は居なかった訳だし……。 複雑ですけど」
「そうだよね……。 また来なよ。 仕事、 頑張って」
微かに笑ったその顔が、何処か懐しく思うのは気のせいだろうか……。
「今度はゆっくり来ます」
そう言って歩き出した。
ちょっと疲れたから、おばあちゃんの家に行った。そして優しい気持ちに触れたり、おばあちゃんの思い出を知る事もできた。
来て良かったな。明日からまた頑張ろう。
そんな風に思いながら、駅へ向かった。




