表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲しい復讐者  作者: 灰猫アルタ
第1章
9/9



 


 ホテルの会場に足を踏み入れると そこは、まるで 別世界のようだった。

緋音は、中をゆっくりと歩きながら 見回していく。

会場の中には、色々な人々が談笑している。

自分の会社の融資をしてくれる人を探していたり 娘の縁談をまとめようとしていたり。

本心を押し殺した 美しい笑顔だけを仮面に浮かべて 相手の一手を待っているのだろう。

そんな大人の周りでは、親にくっついてきたのだろう 子供達が、楽しそうに走り回っている。

緋音は、そんな子達を見て 儚く笑う。

まるで 戻らない 過去を思い出すように。


「本当に 汚い世界。

こんな場所に出入りして 純粋でいられるはずがないわ」緋音は、息をつきながら 呟く。


子供は、親を見て育つもの。

汚い手段を使うような大人が、傍にいれば それを真似にするに決まっているんだ。

例外はあるかもしれないけれど ほとんどが、親と同じ行動を起こすもの。

きっと あの純粋に笑っているあの子達も、心から笑わず 誰かを蹴落とすようになるんだろう。

こんな汚れた世界の未来なんか どうでもいい。

緋音は、足を進めていった。


 そして 標的を見つけて 微笑む。

けれど そのすぐそばにいる 男性の顔を見て 息をのんだ。

それは、かつて 愛した人。

何より 自分の心を打ち砕いた人だった。

そして 何より 彼の傍に寄り添う女性を見て 胸の奥が痛む。

このパーティーの目的をわかっていたものの 実際にそれを目にするのは、心情が違っていた。


「何を迷っているの………。

こんなところで 計画をやめるわけにいかないでしょう?

蛍ちゃんと再開した時だって そうだったんだから」緋音は、自分を励ますように 呟く。


そして 頭に付けた コサージュに触れて 思い出しそうになっていた 心を奥へと押し込む。

あの時 自分は、誓ったのだ………復讐を果たすのだ と 。



 華やかな会場の中を歩んでいると 様々な声が、耳に入ってくる。

報道されれば 厄介そうな大物のスキャンダルや嫉妬や渇望などだ。

それらを聞いていると 自分の心とそう変わらない。

誰もが、誰かの失脚を願っているのだから。

緋音は、壁際に向かって 歩き出す。

合図は、自分の顔を見て 誰かが反応した時。

それが、最初の狼煙(のろし)

この顔は、今でも 忘れられていないはずなのだから。

特に 自分が陥れた人物と同じ顔をしていれば 誰だって 恐ろしいはず。

いつ 全てが、露見するかわからない。

そんな中で 緋音の存在が、過去の真実を世間に伝えるかもしれないのだから。

世間体を気にしている スキャンダラスな人達にとっては、致命的なことだろう。


「さぁ………自分で 自分の首を絞めるのよ。

こんな大きなパーティーなんだもの………明日には、大々的に報道してくれる。

もう わたしは、あの時と違う。

どんな中傷も、武器にして………必ず その場から 引きずりおろす」緋音は、誰にも聞こえない 小さな声で 呟く。



 「緋芽………」


その名前を呼ばれて 緋音は、振り返った。

『緋芽』………それは、緋音が かつて 捨てた名前。

復讐を誓った時点で 両親に与えられた名前を名乗る権利を失ったと思い 心と一緒に 置いてきた過去の自分だ。

その名を呼んだのは、槇村(まきむら) 仁志(ひとし)

緋音が、顔を上げると 彼は、その美しい顔を歪める。

まるで 2人のいる場所だけが、全て遮断されたかのように 周りの音が聞こえない。


「やっと 見つけた」


仁志は、嬉しそうに 笑う。

その笑顔に 緋音は、唇をかむ。

これを前にして 迷っちゃいけない。

自分は、この人達と戦う為に………敵になる為に また この場所に戻ってきたんだから。


「あの時は、ごめん………だけど……………何があろうと 僕は、君を守るから。

だから………どうか……………「守るですって?」

「笑わせないで………一体 何の冗談?」


緋音は、おかしそうに 笑い出す。

その様子に 仁志は、驚きを隠せていない。


「それに もう 嘘は、たくさんなの。

あなたの本心は、あの時 わかった。

他の人達と同じように わたしを騙して 陰で 笑っていたんでしょう?」緋音は、自嘲気味に 言う。


仁志は、その言葉に 強い衝撃を受けたまま 呆然としていた。


「邪魔をすれば 容赦しない。

わたしの目的は、あの女を 社会的地位を奪うことなんだから。

平穏なままでいたいのなら 知らないフリをしていればいいわ」


緋音は、そう言うと 自分を畏怖の象徴であるかのように 見つめている 女を見て 笑みを浮かべた。



 ケンカ売りました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ