第4話 食事しちゃった
「じゃあ名前も決まったことでアリスちゃん。起きたばかりで悪いんだけど、明日は朝にここを出発して王都へ向かうから、今日はもう休みなさい。教会には私達が冒険者ギルドに依頼達成の報告をしてからってことで」
ここに教会はないのか。王都へ行けば良いということらしいのでとにかく従っておくか。しかしこの短時間の尋問でいいのか?もっと色々俺に聞いたほうが良い気もするんだが⋯⋯いや、聞かれたくはないが後々怪しまれるのも面倒なので先に振っておこう。
「わかりました。でも、本当に良いんですか?村の人を騒がせちゃったし、服まで着せてくれたのに」
「何が?村人なら普段が長閑すぎて皆逆に張り切ってたわよ?あと服は村長の娘のお下がりだからね、明日の朝に出発する時挨拶しにいくから、その時にでもお礼を言うといいわ」
「お前が寝てる間に狩人とティナで森へ再調査に行ったけど、酷い荒れ方をしてて獣が騒いでたくらいらしいしな」
どうやらレダ村の住人達は思いの外イベント事に飢えているらしい。まぁ毎日農作業してたところへ空から幼女が降ってきたら落ち着くこともできないか。主に親方とか。
そんなことを考えていると「きゅるるる」なんてかわいい音がした。何の音だ?ベッドの下に動物でも隠れているのか!いや、もっと近い所から音がしたような⋯⋯もしかして俺の腹の音か?
「寝る前にご飯にしましょうか。あなたが空から降ってきたって言う時から6時間くらい経っているもの、お腹くらい空くわよねぇ」
「そういや私達もこいつの監視の合間に軽く食べただけだったな。下で何か貰ってくるよ」
うう、バッチリ聞かれていた上にまたしても借りが出来てしまった。これじゃ逃げても心が苦しい。こう思えているってことは、俺の前世は悪人ではなかったってことか?それなら犯罪者判定もそんなに気にすることはないか。いや、この考えは若干厚かましくもあるな。謙虚に⋯⋯謙虚に⋯⋯
「ところで喉は乾いてないかしら?お水なら出してあげられるけど」
ティナさんはそういうと顔の横の何も無い空間に「にゅるんっ」と手を突っ込んだ!なんじゃありゃあ!?手が!手が無に飲まれてる!手首から先がみょんみょん波打ってて訳が分からないことになってるう!
「そんなに驚いた顔するなんて面白い子ね。ああそうか、記憶がないなら収納も初めてか」
「ぼっくす!?それも魔法なんですか!?」
「そうよー?これは生活魔法の一つ。で、これがあなたのカップね」
そう言いながらティナさんは何も無い空間から「ぬるり」と木製のジョッキ大くらいあるカップを三つ取り出して、一つは俺に手渡してくれた。どうやらこの人は大魔法使いとか呼ばれる類の人のようだ。
俺の異世界知識では次元収納とかインベントリなんて、転生者やその道ウン十年の賢者くらいしか持ってないイメージだ。この若さで習得したティナさんには絶対逆らってはいけない⋯⋯それにしてもこれが異世界の食器か、そういえばこっちに来てから初めて布以外の人工物を触った気がする。なんだか感慨深い。
「それじゃあカップをこっちに出しててね、浄水。どれくらい飲む?まぁ今日はもう寝るだけだしいっぱい出して明日処理すればいいか」
ティナさんは指の先からカップに向けて綺麗な水をジョボジョボ出してくれた。それを見た途端、今まで感じていなかった渇きが強烈に脳に届いた。そういえば転生してから何も腹に入れてないなぁ。
「あ、すぐ飲むんでもう一杯出してもらってもいいですか?なんだかすごく喉が渇いてるんです」
「いいけどクリスがご飯を持ってきてくれるから、お水でお腹いっぱいにしないようにね」
ぐびぐび・・・ップハー!生き返る!死んで生き返ってから初めての水分補給だからかやけに沁みる。これならもう一回くらい死んでも良いかと思えるくらいに美味しい。流石に不謹慎か?
「すっごくおいしいです!ありがとうございます!」
「そ、そう。それならよかったわ⋯(笑うと滅茶苦茶かわいいわねこの子)」
ティナさんにお礼を言ってから、もう一杯注いで貰っているとクリスさんが帰ってきた。
「今日は森であんなことがあったからって手抜きの麦粥しか無かったよ。まぁアリスは病人みたいなもんだからいいけど、私達は追加で干し肉でも齧るか」
トレーに乗った麦粥?⋯お湯で煮たオートミールだこれ。を三皿と、パンが三つ。一人分を渡してくれたので、お礼を言いつつ食べる前の挨拶をする。さっきの水分が呼び水になったのか、腹がペコちゃんだ。
「いただきまーす!」
「なんだそりゃ?一回も聞いたことないけど食前の祈りか?邪教かなんかの信徒じゃないよな」
「ち、違いますよ!なんかよくわからない事は覚えてるんですっ!」
そう言いながらオートミールを一口ぱくり。⋯⋯⋯⋯⋯⋯塩味しかしねぇ。いや、期待はしてなかったよ?だけど何か具が入ってたりすると思うじゃないか?何もないんだな、これが。
味も米のおかゆと違って甘みとかなんもない。ただただ「オッス!俺、麦!」って感じでもちもちした食感だ⋯⋯水でテンションぶち上げられた後にこれはしんどい⋯⋯。
いや、パンはどうだ!?明らかに黒っぽいけど、口に入れると麦の香りがフワッと⋯⋯⋯香って来る前に噛み切れない。硬い。幼女のかよわい顎にこれは拷問じゃないか?あ、二人を見ると手でちぎって水に浸して食べてる。そのまま口に放り込んだ俺がお馬鹿さんだったのか。
ちぎろうとしても力が足りなくて無理だったので、クリスさんに頼んでいくらか細かくしてもらった。それでも口内の水分を粗方持っていかれて若干不快になってしまった。味?ハハッ、麦だよ。(虚無)
「お前食ってる時すげぇ顔してるなぁ。私もあんまり美味しいとは思わないけど、こんなもんだろ。そんなに眉間にシワを寄せなくてもいいんじゃないか?」
「この子がこんな顔するなんて⋯⋯さっきお水飲ませてあげた時はあんなに可愛かったのに」
「へえ、じゃあこれとかどうよ?」
そう言ってクリスさんは俺に干し肉を一口分ちぎって差し出してきた。こ、この香りは!?
「これ、おしょーゆ使ってるの!?」
「お、おう。醤油を知ってるのか。ホントに変なことは覚えてるんだな」
これがあるならなんでも食べれる気がしてきた。早速オートミールに投げ込んでしっかり味が染み出すまでかき混ぜて一口食べる。
「!!!おいしい!これをこうして⋯⋯パンにつけてもおいしい!!!」
俺は無我夢中で醤油味のオートミールとそれを掬って幾分マシになったパンを平らげた。この干し肉、砂糖やスパイスも使ってるな?出来ておる喃⋯⋯
「ほえー、お前笑うと癒やされるなぁ。こんな笑顔、私が居た村じゃ見たこと無いよ」
「さっきお水を飲ませてあげたときもこうだったのよ。なんだか食べ物を無限に出してあげたくなる子ね」
恐らく食事中の俺の顔はニッコニコだったに違いない。薬以外で初めて摂取した栄養なのだ、無理もなかろう?いや、それよりも今ティナさんが収納から出してくれたそれはっ!
「アリスちゃんが目覚める前に森へ再調査に行った時に摘んできたんだけどね、食べる?」
野苺か!?前世の俺は味に覚えはないが、この体が無性に甘味を欲している。いかん。幼女ボディはそろそろ限界だと告げているが、口からよだれが垂れているのが自分でも分かる。ほぼ負け確の葛藤をしているとティナさんは俺の口に野苺を一つ放り込んできた!
「おっおいひぃ~!あまずっぱくて、しあわせれふ!」
「あらぁ、それじゃもうひとつどうぞ。ふふっ、この子に餌付けしてるとなんだか私まで幸せになるわね」
これは暴力だ。続けて二つ三つと口に木苺が放り込まれ、俺は為す術なく咀嚼するしか無い。マウントを取られてバンバン叩かれてる格闘家はこんな気分だったんだな⋯⋯前世は格闘技してなかったみたいだから知らんけど。
「けぷぅ」
「全部食いやがったよ。大人用の量だから残すと思ったのに」
「それだけお腹が空いてたのね。明日からの旅が少し楽しみになってきちゃった」
その後、残った水を飲み干してからベッドへ横になり、無事ドカ食い気絶部への入部を果たしたが、俺は次の日後悔することになる。
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「ぐすっ⋯⋯」
ベッドには綺麗な世界地図(地球参照)が描かれていた。




