第5話 魅了しちゃった(一日ぶり二回目)
アリスが寝落ちしてから、世界地図を描く少し前
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「それでどう思う?」
「そーねー、不思議な所はあるけれど悪意は全く感じられない。周りの反応を伺う大人びた子、って感じかしら」
「そうだな、私もそう思った。あんなガキに敬語を使われるなんてむず痒くてしょうがないけど、既にどこかの奴隷だったのかもしれないなぁ。ここに連れて来た時は綺麗とは言えない服だったし、飯を食う時もちっさいガキならもっと汚しながら食うもんだ」
「水を出してあげた時もこれ以上無いくらい喜んでたわ。魔法の水を飲んだことがなかったんじゃないかしら。両手でカップを大事そうに持って零さず飲んでたし、孤児の説もあるかもしれないわねー⋯⋯」
「だから私があんな話をした時に必要以上に怯えてたっていうのか?だとしたら実は記憶があって隠してるってことになるな」
「それもあるかもしれない。でも、私がいくつか見せた魔法、どれもが街では普通に使われてるのに本当に驚いてたわ。見た目の割に話が通じるし、精神年齢はもっと高いのかもしれない⋯⋯ひょっとして【流入者】?」
「あり得るかもしれないな。だとしたら教会に突き出せば、数年は遊んで暮らせるじゃないか!こいつは良い拾い物をしたぜ!」
「まぁ待ちなさい。流入者かどうかを教会でステータスチェックして調べるだけで金貨一枚も取られるのよ?小さいから割引はされるかもしれないけど、それでも痛いわ」
「じゃあどうすんだよ、私は金なんて持ってねーぞ」
「アンタねぇ⋯⋯大枚はたいて買ったポーションを勝手に使ったくせに何言ってんのよ。アンタに期待なんか元からしてないわ」
「うぐっ!あ、あれは悪かったって!記憶にないんだからしょうがないじゃないか」
「まぁいいわ。秘策はある。クリス、あの子をあなたの妹にしなさい」
「なんで!?秘策ってのはどこいった!?」
「落ち着きなさい、アリスちゃんが起きるわ。教会でのステータスチェックは誰でも一回だけ無料で受けられる、それは知ってるわね?」
「お、おう。大体の人は妖精がついてくれた時に行くんだよな?私は行ったことないけど」
「そう。でもそれには条件がある。家族が同伴すること、それとまだ成人していないことの二つ。アリスちゃんはどう見ても成人はしてないから実質的な問題は家族だけね」
「むむむ、い、妹にする、ってどうすんだよ?」
「それも知ってるから安心しなさい。お互いが本当の家族になっても良いと心から思ってる状態で、女神に誓約すればいいのよ」
「マジ?いや、でも問題がある。アリスが良いって思ってくれても、多分私はそうならない。既に金貨の引換券みたいに見えちまってるからさ」
「それでも恐らく大丈夫よ。アンタが魅了を受けてる状態で誓約をすればなんとかなると思うわ。あの時の様子は尋常じゃなかったし。だから魅了の条件も探らないと」
「そんなにだったか⋯⋯死にたくなってきたな」
「だからアンタは明日から王都につくまでの三日間であの子を落とすのよ、これしかないわ」
「お、落とすって具体的にどうすりゃいいんだ??私が知ってるのは筋肉の育て方くらいだぞ」
「そう言えば、村でも年下の子の世話は私に任せてずっと走り回ってたわね。任せなさい、ガレラ村の全ての子供のお姉さんと呼ばれた私が教えてあげるわ」
「えぇ⋯⋯お前そんな渾名があったのか」
「まぁそれは置いといて、まずは服を着たまま寝ちゃってるし、皺になるから脱がして寝間着にしてあげなさい」
「わかった⋯⋯ハァ。とんだ厄介事に巻き込まれたぜ」
「アンタが背負って来たのよ」
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その日、夢を見た。俺は幼女姿で湖の水辺で足をパチャパチャ前後させて遊んでいる。冷たくて子供の高めの体温には気持ちいい。周りは森かな?今日見た森と、どこか似ている気がする。
そんな事を考えていると急に湖面が波立って体が飲み込まれた。溺れるかと思いきや水中でも息ができるのに気付いて、夢中で冷たい水を手足で掻いて泳ぎ始めた。
無限に広がるような錯覚を覚える水底と、仰ぎ見るサファイアのような水面。そして水の冷たさと浮遊感に気分が良くなり、腰に温かいものがじんわりと広がる⋯⋯広がる!?
「あっあっあっ」
俺は水中で声が出せないのに悲鳴を上げながら必死に藻掻いた。ヤバい!これはヤバい!何がとは言わんが本能的な危機を感じて、必死に覚醒するために体を動かした。
「はっ!?」
「目が覚めたか」
クリスさんの反応にデジャブを感じつつ急いで腰の辺りを確認する。頼む!夢であってくれ!
「⋯⋯⋯」
「まぁ、なんだ。昨日アレだけ飲み食いしてたもんな、しょうがねえよ。今日からは寝る前にちゃんとトイレに行こう」
「あああああああああああああああああああ!!!!!」
頭を抱えて絶叫する俺の前に広がるのは、それはそれは見事な世界地図。中心が日本って事はやっぱ俺は日本人だったんだな。あそこがエジプト、南に離れてオーストラリア。アメリカはでかいなぁ⋯。
遠い目で現実逃避をしていると悲しくなって涙が出てきた。しかしこんなことで泣き顔を見せてられるか!こちとら日本男児やぞ!せめて隠れて男泣きじゃい!
「ぐすっ、ふぐぅぅぅ、ひっ、うぇっ、ええええ」
「そんな隅っこで泣くなよ。服は脱がせてあるから無事だし、な?ティナに水を出して貰って⋯体を⋯⋯」
「うぇ?」
壁に向かって泣いている俺に、あやすような声音で優しく話しかけてくれるクリスさんが肩を掴んで強引に振り返らせたその時。
「私も寝汗かいちゃってたなぁ!村の近くに川が流れてるから二人で水浴びに行こう!そこで洗いっこしよ!」
突然元気な声を出して暴走を始めたクリスさんの勢いに困惑していると、軽々と抱きかかえられた。あっ!また目がぐるぐるしてる!やはりこの世界の住人には変態しかいないようだ。逃げよう。
「はいそこまで」
後ろで見ていたらしいティナさんがつかつかとこちらに歩み寄ってくると、容赦の欠片もない平手打ちがクリスさんの左頬に直撃した。
「あ、またか。ちょっとは手加減してくれよ。いってぇー⋯⋯」
「鼓膜が破れるくらいじゃないと効果がないのよ。それよりある程度条件がわかったわよ」
今の俺が受けると首の骨が折れてしまいそうな威力だった。やはりティナさんは敵に回してはいけない。いや、それよりクリスさんの目が治ってる?条件とは?もしかして、俺なんかやっちゃいました?
「ど、どういうことなんですか?」
「アリスちゃんは泣き顔か泣き声、もしくは両方に魅了の効果があるみたいなの。クリスを観察してたけど、泣き顔のほうが効果が高いみたい」
「解除方法はどついて貰うことだな。まだヒリヒリするんだけど、冷やしたいから氷くれよ」
「この後出発なのに無駄に使う魔力なんて無いわよ。アリスちゃんは⋯まぁ、かわいそうだしいいか」
ティナさんはそう言うと、指先をついっと振って俺の汚れと力作の世界地図を、何もなかったみたいに消してくれた。これも魔法か?世の中のちびっこ達の救世主だな。
「ありがとう⋯ございます。それも魔法なんですか?」
「そうよ。これは洗浄って生活魔法。軽い汚れくらいなら魔力の消費も少ないし大丈夫よ。とりあえず水を貰って来るから、それで顔を洗ってから朝ごはんにしましょう。アリスちゃんも着替えさせてもらってね」
そう言ってティナさんはドアを開けて部屋を出ていった。魅了かぁ、言いなりに出来るならいいけど、俺の意思なんて関係なく拉致されそうになるのは危ないな。迂闊に人前で泣かないようにしよう。
ってかやっぱり呪いじゃないかこれ?今のところ、転生して良かったって思える部分が皆無なんだが。やはり女神は許さない。




