第38話 知っちゃった
こんなにあっさりバレるなんて⋯⋯まぁそんな気はしてたけど。変装なんかして怪しまれたら城に入れないし、こいつは黒髪なんていうこの世界じゃ結構目立つ見た目だしなぁ。街の人も市井に下った王家の血があるのか黒い髪はたまーに見かける程度。もしやあれはお忍びで視察(遊び)に来てるおえらいさんじゃないよな?
「⋯⋯⋯久しぶりだな、デクタス公爵」
「本当にそうだね。君は一体今までどこで何をしてたんだい?」
「それはぁー、その⋯⋯ちょっと見聞を広めにな?」
「ダンジョンで遊んでました」
ツッコミを入れるとエレノアは慌てて訂正に入った。
「ちっちがっ!少々事情があってだな⋯」
「何にせよ無事で良かった。ここで立ち話も人の目があるし、僕の執務室で話さないか?」
「何を考えている。否決のために議会に根回しまでしておいて何のつもりだ」
「それにも関係ある話さ⋯とりあえず行こう」
歩き出したデクタス公爵について行き、王城の一角にある登城した貴族が事務処理をするために解放されているらしい部屋に入った。中は本だらけで、机の上も書類で埋もれている。この雰囲気はデスマ中の社員机によくあるやつだな⋯⋯どうやら貴族と言えども有り余る財産で遊び呆けて放蕩三昧というわけにはいかないらしい。世知辛い世の中なのじゃー。
「さて、では改めて自己紹介をしよう。私は代々王の補佐をしている家系の当主であり、エレオノーラの幼馴染であるハインケル・フォン・デクタスだ。ハインケルと呼んでくれ。」
「私達はエレノ⋯エレオノーラ様から護衛として雇われている姉妹の冒険者です。上からクリス、私がティナ、一番下がアリスです」
「どうも」
「よろしくおねがいちましゅ!」
噛んだ。
「ハハハ、そう緊張しなくてもいい。僕も堅苦しいのは苦手でね、幼い頃からエレオノーラと一緒に育った影響だなこれは」
「そうですか⋯なら、こちらも崩させてもらうわ」
「ああ、それでいい。お菓子でも食べるかい?そちらの妹さんの好みに合うといいが⋯」
そう言いながら机の引き出しに手を突っ込んでゴソゴソと取り出したのは、チョコだった!ちょ、ちょこだー!どこで作ってんのか知らないけど、半透明のフィルムで包装された茶色くて角ばったその形状、まごうこと無きチョッコレイト!嫌いな女の子なんているわけないだろうが!あ、俺は男だ!忘れるところだった⋯。
「すいませんね、こいつは食い物に目がなくて。ヨダレ拭けよまったく」
「構わないさ。僕には少し甘すぎるから持て余していたんだ。消費してくれると助かるよ」
早速お出しされたチョコとお茶を交互に食べ尽くし飲み尽くしながら話を聞く。これは全部俺のものだ、誰も手を出すんじゃない!久々のあっちのお菓子なんだから堪能させてくれ!
「すごい食欲だな⋯それで、どこから話そうか」
「⋯⋯まず、私の影がそこにいることから聞こうか」
エレオノーラがそう言うと、やり玉に挙がった影武者さんがペコリとお辞儀して話を始めた。
「お久しぶりでございます、姫様。お帰りをお待ちしておりました」
「ハッ、私に成り代わってのうのうと暮らしていた身でよく言う」
「それは違うんだエレオノーラ。彼女は弱みを見せないために、僕の命令で今まで代わりになっていてもらったんだよ」
「それはどういうことなのだハイク?」
あ、愛称はハイクなんだ。幼馴染ならそれくらいあるのは当然か。長い名前ならよくあるけど、前世じゃ短い名前も何故か略したりして呼んでたな。吉田さんならよっしーとかテツオならてっちゃんとか⋯逆に長くなるけど語感がいいからって定着したりすんだよな。脱線したな。
「例の児童保護の法案が否決された後に行方不明になっただろう?君が何も言わずに何処かに行くのはよくあるけど、時期が時期だったし中々帰ってこないから反対派の勢いが増さないように対策しておく必要があったのさ」
「だからそれがわからんと言っている。そもそもお前はその反対派の旗頭だろう」
「表向きはね。個人的にはあの法案には賛成なんだ。僕だって無闇に子供を死地に向かわせたりはしたくない」
「しかし、それでは話が合わんではないか。どうして反対など」
「父上からの指示なんだ。現当主は僕だが、全ての権力が僕にあるわけではない。詳細は不明だが、調べた所もっと上から父上にそうするよう言ってきたというのも分かっている」
「更に上だと⋯⋯公爵家に指図出来る立場など⋯⋯⋯私の父か」
あーなんかややこしくなってきたぞ。王様が娘の法案に反対して部下に命じて潰させたってこと?何のために?
「君がいなくなった時の状況も大体は聞いて知っている。姉弟達が夜中にこっそり部屋に忍び込んで誕生日を祝うための魔道具を起動させたらしいね?」
「どうやらそうらしい⋯⋯私はそれを襲撃と勘違いして今まで逃げ回っていたわけだ」
「君らしいね。男も顔負けな剣の腕なのに実のところ臆病なんだ」
「茶化すのはよせ。しかし⋯ふーむ、父は何が不満なのだ。長い目で見ても恵まれない子供を保護し育てれば国力は増すというのに」
「そればっかりはね⋯⋯王の視座じゃないと分からないことがあるんだろう」
あーなんか暇になってきたな。俺だけでも帰っていい?あんま思い出せないけど大人の世間話をずっと待ってた子供の頃ってこんな感じだったかもなぁー。チョコももう無いし、クリスになんかもらうか?
「ああごめんね、こんなに可愛いお嬢さんを手持ち無沙汰にさせてしまうなんて。これでも読んで待ってるかい?」
「懐かしいな。子供の頃によく読んだ絵本じゃないか。アリス嬢は文字が読めるのか?」
「うん、だいじょうぶだよー」
えーっと⋯⋯昔々、ある所に神様がいました。その神様は世界を作り、自然を作り、動物を作り、人を作りました。神様は世界を愛していました。自分に祈りを捧げてくれる人間には特に愛を注ぎ、見守っていました。しかし、長い時間をすごしていると、人同士で争いが始まりました。神様は争いをやめてほしいのですが、人は止まりません。そのうち神様の住んでいる神殿の近くにまで争いが迫り、一番近くで祈ってくれていた一族まで殺されてしまいました。それを見て神様は怒りました。その怒りは激しく、大地が割れて、空が赤く染まり、海が渦巻き、世界は荒れ果ててしまいました。それを見た人はようやく争いをやめます。国と国が手を取り、神殿を元通りにしてようやく神様の怒りは収まりました。おしまい。
なんじゃこりゃ?神話かなんかを噛み砕いて絵本にしたのかね?それにしては子供に読ませる内容じゃないっつーか、ちょっと大雑把が過ぎる話だ。っと、本を読んでる内に話し合いが終わったみたいだな。
「読み終わったか?どんな話だったんだ?」
姉が内容を聞いてきたけど自分で読みなよ。本を読むのがめんどいからって端折って教えるのは難しいんだぞ?
「うーん⋯⋯神様は怒らせないようにしましょうって話。誰が作ったんだろうね」
「その本はいつからあるかわからないくらい昔から伝わっている本なんだ。海っていうのが理解できないけどなかなか面白いだろう?」
「んん?海って陸の端っこにあるしょっぱい水のことだよね?」
「端には何も無いだろう?強いて言えば空があるか。しょっぱい水とは塩水のことかい?」
どういうことだ。海が⋯⋯ない?そんな事あり得るか?どんな星でも水分がいくらか無いと生き物が住める星としては成り立たないはずだ。
「船が浮かべてあったりお魚がいるんだけど⋯ちょっとまって地図見せて!」
俺は急いでハインケルに言って世界地図を貸してもらい、穴が開く様に見つめてみる。国が四つ、それなりの大きさの大地が広がっているが、その先は空白だ。そこを指さして聞いてみる。
「ここ!この先はどうなってるの!?端っこから先は別の国があったりするよね!?」
「だから何もないんだ。世界の端に行くのは危険だから推奨されていないが、崖があってその先には何も無い空が広がっているだけだよ」
この世界⋯⋯まさか。ここは浮遊大陸なのか?
それじゃあこの本を書いた海を知っている人物は⋯⋯一体何者なんだ?




