企み
これでもか、という攻勢…。
つまり、いわゆる一般的に言うところの、男を堕とす態度と思えるような行動の数々。
内出屋くんも、たまらずこれは転びそうになったそのさなか。
その、瞬間…。
少し浮き上がったような感覚があった。
お色気な展開で心が盛り上がった…という、そんな気分的な表現ではない。
体に感じた現象のような、そんな感覚があった。
少しだけ硬直したが、そこから相手。
つまり生徒会の手も止まる。
止まったとたん…。
ぽい!
手に取っていたはずの腕を、彼女は不意に横にはじき出す。
『ハイそこまでだよお(>_<) 残念だよねぇ"(-""-)"』
「……あ!?いや!?」
『いつまでもチョーシ乗ってんなよ"(-""-)" 踊り子さんに手を振れないでください( ゜Д゜)』
「………えっ!?」
ふっと我に返る内出屋君。
ニヤニヤしている生徒会は、ご褒美は終わったとばかりに見せてしたものをしまう。
そそくさ。
そそくさ。
そして気が付くと、周囲が広く、暗いことに気が付く。
「あれ…」
理解がおいつかないが、目で見ることで常識とは思えないことを急激に納得させる。
違う場所、違う空気。
さっきの狭い部屋では、どうやらない。
転移だ。
たぶん。
『探検部は脱出のほうにずっと気をやってたけど、こっちはそれ横目にずっと、誰がやったかだけ考えてたのだよ( `ー´)ノ』
「……ずいぶん余裕かましてるとは思ってましたが……」
豹変する態度と、変わった周辺に対してもっと詳しく時間をかけて驚きたい気持ちも抑え、ついていけない気分を何とか先にすすめながら、内出屋君は何とか思考を巡らす。
もはやパニックになりそうなのを、なんとか踏みとどまりながら。
『いやいや、目立った動きご苦労様と言ったところで(*^-^*)』
「人がわかると、今の状況って…理解できるものなんですかね…」
『少なくとも、さっきのなんだっけぇ?〇ック〇しないと出られない部屋(=^・・^=)』
「閉じ込められただけでそんな名前じゃ絶対ないですけどね!!」
『どう見たって、キミと探検部に今回で恨み持ってそうなアタシとで口喧嘩しそうじゃないさ((+_+))』
「たしかに」
言われてみれば、だが、気まずい以上を掘り下げたくないという感情だけが内出屋君からは先走っていた気がする。
『こりゃ、修復不能に関係崩したい配置だってすぐに思ったね(*^-^*)』
なるほど。
視点が変わるとこういう考えになるか。
ちょっと感心する内出屋君。
だが心情的には、ちょっとそれどころではない。
『だからずっと見てたと思うよ( 一一) 険悪にしたかったけど逆に親密になりそうだったからポイしたんだよ(*^-^*)』
「…いやここで険悪になりそうな気もまだしますけどね」
『いやぁ、ラブシーン見てられなくて照れただけだったかもしれないけど、どうかなあ(#^^#)』
「言ってる暇なくて」
焦る。
話が頭に入ってないくらいの勢いで内出屋君が周囲を見て生返事のようなものを返す。
『……でも、探検部と、ことさら私と関係悪いかもなんて、ここ数日の裏話を知らないと確定できないわけじゃな~い(=^・・^=)』
ずっと前から探検部と…というよりも、大体の部活と生徒会は仲良しの関係を持っていない。
あてずっぽうでもこのパターンは成立しないかな、と、そこは考えつつスルー。
『どっちかの関係者に犯人がいるか、風紀委員あたりか、本命魔法部か…わくわくするよねえ犯人捜し(*^▽^*)』
「そんな考えも楽しそうだはありますが…」
『ますが?( 一一)』
「…死にかけです、今の我々」
『ナンデ(;゜Д゜)』
真っ暗ながらも感じる床の感触、地層。
目が慣れてから感じる広さ、空気、床の様子。
そして小さく聞こえる音、気配…。
だんだんと脳内を整理して現状を把握しだすと、最近の思い出に突き当たる。
そして理解する。
あの、先日危険な事態になった、ここは…あの広場だ。
腕を食いちぎったあのセッソクマダラがいたところに飛ばされているのを内出屋君は確信した。
装備がない中で、中層に飛ばされる事態はさすがにお手上げである。
逃げていいか諦めていいか、とにかく離れたいという心境の慌てようの正体が、これではっきりしたのだ。
「もう無理だと思いますが、スマホの光消せません?」
『これが手放せないのは知ってるだろう探検部よぉ( 一一)』
「いやもうだめかもですが、それでも死ぬよりいいでしょ!?」
光が主で、匂いにだって反応するし音も多少は感じられる。
ちょっと動けば、見通しは暗いが出口から流れる風の流れを感じられて脱出できるかもしれない。
そんな程度でもすがらなくと、あっという間に細切れにされてしまいかねない。
内出屋君としては切実だ。
「……なら……しでかしますか、わたくしめが」
だれ?
知らない声に、内出屋君もとっさに反応できない。
さっきもちょっとだけ聞こえた気がする。
ここにいて、聞いた覚えが今日まで全くなかった。
そんな誰かの、声。
つまりそれは誰か。
頭の片隅には、候補はある。
正解は・・・。
書記 樟恵世 華呼。
彼女の、生のほうの声だ。
「探検部、見えてたらわたしの足にしがみついてた方がいいよ」
「えっその!?喋ってます!?」
「オシエテアゲナイヨ」
スマホの画面の明るさからなので、はっきりとは見えない。
位置くらいはわかるくらいだ。
生徒会…彼女は動かない。
だが、何かしている。
ぱっと見ると、服を脱いでいるようにも見えた。
いったい…?
「逃げないんですか!?」
答えない。
それと同時に内出屋君は、肌の感触と音を頼りになんとか出口がないか神経をとがらせているのだが。
聞こえてくるのは…。
「…なんで音楽流しだすんです!?」
考えられないといったニュアンス。
スマホのちょっとしたスピーカーではない。
何か持ち歩いていたのかもしれない、大音響用といった感のある音。
寄ってきちゃうでしょうが!
あの恐ろしいセッソクマダラが。
当然のように、そう…カサカサした音もいくつも聞こえだす。
終わりだ…。
最終手段で、もうどうにでもなれと、彼女をつかんで走り出す気になりかけた時…。
その時である。
歌いだした。
その声が聞こえた。
しかし、それよりもっと違うことがある。
空気が振動した感触があり、それは…。
身が凍り付く感触の、とてつもない何かを肌に感じさせる、初めての何かを感覚的に伝えていた。
震える。
周りが震えている。
慌てて、思い出したことを実践する内出屋君。
(足にしがみついていいよ)
これのことで言っていたのだ、と、やっと気が付く。
歌のせいなのか、流れてくる音楽なのかも全く不明ながら、耳鳴りのようなものと空気の震えは確実にわかる。
それ以上に、肌がまるで削られていくような感触すらある。
「なんですか!?生徒会の人、何でこんなのを誰もかれも…!?」
意味不明な、美しいが口癖の会計も何かをしていた。
あれと同じでは…ない。
だが、普通には見れない超能力の類なのか、科学の力なのか、とにかく何かしている。
とにかく、しがみつけるものにしがみついて、今どうなっているのか考えるしかない。
大音響の音。
意味不明の振動。
生徒会書記くんの無事。
脱出計画。
いくつも同時に考えるには、あまりにもイレギュラーがすぎるが…。
とにかく脱出できるかは、こんな中でも最優先。
だが、音が強すぎて考えもままなりゃしない。
「でも、聞いた事あるリズムな気も………あ」
内出屋君、思い出した。
昼食時に学食が流している民放ラジオで結構な回数かかっていたやつだ。
売り台中のアイドルの何か…。
人数がどんどん増えてバージョン違いが一か月で6回出たとか、ニュースで見た気がするそれ…。
似ている。
それっぽいと思ったが、いかんせん集中して聞いた覚えがないので確定しかねる。
しかし、間違いようがなくアイドルソングと言う分類にある、それだ。
今の状況との関連性がつながらないことこの上ないが。
1曲終わるのにおおよそ5分。
その間、たっぷり体でそれを堪能し…。
内出屋君は現在、靴が消滅してかかとも千切れ、肩口など数か所が削れたのか裂傷なのか、そこそこの出血をしている状況である。
「大丈夫かな…これで」
生徒会の人の地の声だ。
どうやら、無事らしい。
なんとなく聞き取れた気はするが、内出屋君も耳鳴りがひどく、現実感がない。
頭を振って耳を少し抑えながら叩いてみたが、ちらりと見ると耳からも出血している。
体中、感じたことのないダメージを何かから、受けた感じがしていた。
一方、明かりが全くなくなり何も確認できないので、とりあえず胸元を探って内出屋君は自分のスマホを取り出し、かすかでも明かりを出してみる。
目に入るのは…。
肌。
ほぼほぼ全裸の女性と、肌。
女性は、一瞬顔色を真っ赤に変えたあと内出屋君のスマホをひったくっていじりだす。
『あーもお、すっごい見られた!バカ!変態!この世の邪悪!探検部!』
あの声とは違う…。
どうも無理やり内出屋君のスマホの中から使えるアプリを探して代用しているのか、おかしな音だ。
しかし、それでも誰かは当然わかる。
この人が生徒会の書記だ…が、なぜに裸か。
それと、スマホ使用で覗き込む分、顔の近辺だけ明るくされるため、そこが強調される。
『なんだよ、そんなにじろじろしてもサービスはしないよ!見世物じゃないんだよ!』
それは別にいい。
裸が見たいから、というので見ているわけではないのだから。
だがなぜたろうか。
そりゃ、当然自分が裸なら恥ずかしがるだろう。
当然なのだが…。
隠すより、服を探すより、彼女は最初に生きているスマホを分捕る方を優先した。
どうしてだ?
『いつまでも見てていいもんじゃないって言ってんでしょ! 訴えられたくなかったら残ってる君の服、上着でいいから私によこしなさい!』
「そんなの口で言えばいいじゃないですか!」
『できねーんだよ!』
なんでだよ。
袖口と、服の中にあったのだろう小型スピーカーの一部とその配線だけを体につけた生徒会の彼女。
もはやそれだけでほぼ全裸なのを気にもかけないように、スマホ片手に顔を近づけてにじり寄る。
『この状況見てわかるだろう?』
「なにかすごい攻撃みたいなものがあったような…耳がおかしい感じがするのはわかりますよ?」
『私の声だよ』
ネタ晴らしである。
その瞬間、やっと理解が出来そうな気がしてきた。
彼女が肉声をひたすらつかわないこと。
この危険な地帯で今、襲われていないこと。
彼女の服がどうにかなって、自分も体がおかしいこと。
それらのすべてを、一つの事象で納得させる理由がもしも…。
もしもあるとしたなら。
多少の説明は、そこからされた。
彼女の声、つまりは全てそれだ。
彼女がこの学園に来てから、とある理由…とある変化により、一つ大変な厄災を抱えてしまった、らしい。
彼女の発声、つまり声が、意図せずともすべて常識で及びもつかない波長を伴ってしまう。
そういった体質を、持ってしまったらしい。
今のように歌などで大きく発声すると、このように。
周囲を超音波で生物だろうとなんだろうと粉塵と化す衝撃波、または破壊音波として見境なく破壊している。
よく見ると、自分もかかと部分が削れて無くなっているのに気が付いた。
彼女の足に、本気でしがみついていなければ、無くなっていたのかもしれない。
これが、どうしようもなくなって使わないといけなくなったときのために、彼女はいくつか対策をしている。
ふだんは極力発声しないようにアプリの人工音声で会話をし、万一の時は自分の周囲を対策用のフィールドを作れる機材でガードする。
この場合、彼女は服の中に何十のスピーカーを用意し、その特殊スピーカーで特定音波を流して相殺する。
これで彼女は自分の音波で自分は即時消滅しない領域を手に入れることができるようになった。
しかし、まぁ、見ての通り。
5分もすればスピーカーも服も消滅している。
あと一歩で、おそらく彼女の粉か何かになっていたのかもしれない。
内出屋くんもろとも。
「…えらい兵器があったもんで…」
『理解したら、早くお前の服をよこしなさい!』
説明が終わったとたん、一応そこそこ残っていた服は取られた。
まぁ、そこまでにある意味、見放題というだけ、上も下も見てしまったので、内出屋くんとしては悔いはない。
それに…。
「眼鏡も髪型も変わってやっと…思い出しましたけど、生徒会のひと…あなた、すごいテレビで見たアイド…」
『ぜったいちがうからね!!!!!!』
ここぞという、大き目の絶対の否定。
『二度と言うなよ!大声出すぞ!』
「それ脅しと言うより殺すぞの意味じゃないですか!?」
『わかってたら言うなっつってんよ!』
内出屋くんには、そうとしか見えなかったが…絶対違うと言われるとそうなのだろう。
そうして、備品も何もないd棟の奥地から、二人で何とか帰宅の途に就いたのだが…。
騒ぎは、実はここから始まるのである。




