必要な部分を分けられる?
「コッコッコッコ、コケー!」
え!? まさか……もう?
ちと早くねー?
ガタンと大きな音がして、地面が揺れ動く!
皆が一斉に驚きと、恐怖の鳴き声を上げる!
「「コッコッコッコ、コケー」」
――違った。
なにもせずに餌が食えるなんて……そんな都合のいいこと抜かしている場合じゃなかった――!
生まれて俺はまだ、三ヶ月も経っちゃいない! 若鳥って……もう出荷されるのか――。
い、い、いやだ! この若さで死にたくなんかない。まだ生後三ヶ月だぜ。鶏の平均寿命って……十年のはずだ! 昔、友達が祭りのヒヨコ釣りで釣った奴が……十年も近隣に迷惑をかけ続けたと嘆いていたのを覚えている――!
それに、まだ……メスを知らない! いや、別にそんなに興味ないけど……。俺って草食男子だったのか? と疑問が浮かんでくる……?
鶏って全部草食系か……。いやいや、今はそれどころじゃない~!
キラッと目に刺さるような眩しい光――。ブロイラーは一生のうち、太陽の日差しを一度だけ浴びる日があると聞いたことがある。
工場から出荷されるたったその一度時だけ、太陽の光を浴びる……。
まさか、生きた状態でお天道様を拝めるとは……。ん? むしろ、俺が拝んで欲しいぞ……。
大きなトラックで運ばれた先も、やはり工場であった。
清潔な白い壁。まるで病院の手術室を思い出させる。
コキャっと首を絞められるのかと思っていたが……。視力が良いせいで、遠くの方までハッキリとよく見えてしまう……。
丸形円盤型をした、高速回転する丸ノコ――。
逆さまに吊るされた鶏が……流れ作業のように次から次にそこを通過し……、
首のない姿で奥の方へと送られていく……。
――もう、逃げることも出来ないんだな……。
今の今まで……人生、土壇場で何とかなると信じていた。ヒーローが現れて悪を倒してくれるとか……、大怪盗が忍び込んでいて一緒に逃げられるとか……、急に魔法が使えて瞬間移動できるとか……実は夢を見ているだけで、起きたら汗でビショビショだったとか……夢オチ。
数人の巨大な人間が、手慣れた手付きで俺達を次々に流れ動く装置に逆さまに吊るしていく。両足を頑丈な物にロックしていくそれは、まさに、
決して逃れることのできない手錠……。
いいや、足錠――!
やめろ! やめてくれ! 俺は人間だ! 人間なんだっ!
「コッコッコケー! コケ―!」
抵抗も虚しく、骨が折れるような強い力で両足を掴まれると、情け容赦のない殺戮マシーンへ両足を固定され、羽を羽ばたかしても体をよじってもがいても、ビクともしなかった。
キュイーーーーーーン!
そっと目を閉じた……。
ついに俺の順番が……来やがった。
次に生まれ変わる時
……どうやって毛をむしられ、体が切り裂かれ――、内臓が抜き取られ――、スーパーに並ぶのだろうか……。それとも違う工場に送られて、俺の大好物だった唐揚げにでもされるのだろうか……。
知りようがなかった。
最後に見た光景……。首から上の部分が無くなった純白の若々しい俺の体が……流れ動いていく……。あれ? 俺の体がどれだったのか……分からない。隣のやつだったのだろうか? それとも、反対隣のだろうか? もう、どうでもいいか……。
体から切り離され、目を見開いたままになった無数の鶏頭がつまった血みどろの容器に……俺も落ちていった。
悲しい……。電撃が走ったような激しい痛みが……次第に薄れていく……。
せめて死んだからには、俺の体を……美味しいと言って全部、食べてもらいたい……。
残さずに食べてもらいたい。骨のガラからも……スープを取って欲しい。
皮の部分だけを捨てないで欲しい。コレステロールが高いからといって……生ゴミの日に捨てないでほしい。犬の餌でもいいから……捨てないでほしい。
「牛は高いから鶏で我慢……」なんて言わないでほしい。むしろ、「鶏の方が美味しいけど、国産牛グラム千円で我慢……」って言ってほしい……。
もっと……寿命が尽きるまで……トウモロコシを……食べさせてほしかった……。