第1話 数字当てゲーム ①
嘘喰いに多大なる影響を受けて書いた作品です。嘘喰いの劣化版のようなものだと思って頂ければ幸いです。
硬君来てる…今日は来ている…
なけなしの1万円は3倍近くまで膨らんでいた。
ここ数日、パチンコでの負けが続いていたが、とうとう流れは俺に味方した…!
周囲に自身の運を見せつけるように音量を上げる。
今やめれば少なくとも今日は黒字になる。
だが、そんなの男じゃないだろ!!
ハンドルを握る手に力がこもる。
「いけええええ!!!」
*
『ウィーン』
パチンコ屋から出てくる足取りは重かった。
財布には数枚の小銭しか残っていなかった。
「…くぅ~!!クソォ!!!」
どうしていつもこうなるんだ。
『ぐぅ~』
「腹…減ったな…」
財布にしまった小銭を手に取りコンビニへと誘われる。
ギャンブルは負けるようにできている。という話を聞いたことがある。
確率ですべてが決まっている世界だ。勝率が5割を切った時点で生涯収支はマイナスになる。それでも1%でも勝つ可能性があるのなら挑戦したくなってしまうのが男ってもんだ。
そんなわけねーだろうが!!!!
とっくにわかっている。今の自分が間違いを犯していることも、抜け出せないギャンブルジャンキーになっていることも、本当はこれまでの負け分を取り返したいだけだということも。
「レジ袋もお願いします。」
「レジ袋有料になります。」
「はい、大丈夫です。」
(3円…か。まぁ誤差だよな)
1個100円のおにぎりを2個購入する。日に日に物価は上がっていく。それにつれ生活レベルは下がっていく。
「きゃはは」
「待ってよ~」
元気な子供を見ながら公園のベンチで食べる塩むすびは異様にしょっぱく感じた。
1つ目のおにぎりを食べ終え、2個目に手を掛ける。
「あ、あの…」
背後から声を掛けられた。
「ん?」
そこにはやつれた顔の男が立っていた。見たところ自分と年齢は変わらなそうだ。
「どうかしました?」
「そ…それ、くれま…」
男は震える指で俺の持っている塩むすびを指さした。
「も、もう丸2日っ…何も、食べてなくて…」
「え?」
なんだ、この男は。ホームレス…にしては見た目が綺麗だ。減量中のボクサーか何かか?
「お願いします…!お礼はします…!約束します!」
冗談じゃない。これは俺の少ない小銭で買ったものだ。
なんでこんな他人なんかに…
財布に残っているのは500円…
断ろう。他人に施しをあげられるほど今の俺に余裕はない。
ただ一言無理ですと言えばいい。ただ一言、ただ…
「……わ、分かりました。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!!」
男はゆっくりとおにぎりを手に取ると物凄い速さでむさぼり始めた。
「ふぅ~生き返った~!ありがとう!優しい人に巡り合えて俺はついてるなぁ!」
違う。俺は優しさであげたんじゃない。嫌だと言えなかっただけだった。
「優しいお兄さん、名前は?」
「え?」
「あ、ごめんごめん。人に名を訪ねる時はまず自分から。だよね。俺は鈴間、鈴間翠鈴間翠。翡翠の翠の字であきらって読ませるんだ。よろしく。」
翠と名乗る男が手を差し出してくる。思わずその手を握ってしまった。
「あ、ええと。俺は玉木硬です。よ、よろしくお願いします。」
自己紹介を聞くと彼はニッと笑い返してくれた。まだ会ったばかりだが、なんというか、
「翠さん、らしくないですね。」
「え?」
「あ。いや。」
ついつい口から出てしまっていた。
「えーっと。俺らってどっかで会ったこと…?」
「いや、違うんです!なんというか、結構グイグイ来る感じだったしコミュ力ある人っぽいから、なんで丸2日食べれないくらいになってたのかなぁ?なんて。」
手を慌ただしく動かしながら必死に言葉を並べた。久しぶりにコンビニ店員以外と話したが自身のコミュ力の無さが嫌になる。
「あ、いや、バカにしてるわけでは無くて、なんというか俺みたいなダメ人間っぽければわかるんです。だって俺はさっきもパチンコで負けちゃって、今日は行けると思ったんですけど…」
彼の咀嚼がピタリと止まった。
「負けてたね。見てたよ。」
「え?」
頭が真っ白になった。
「見てた?どういうことですか?だって俺は翠さんとは初対面で――」
「あー、ごめんごめん、勘違いしないでよ。見てたって言ってもストーカー的なあれじゃないよ。硬君がパチンコから出てくるところを目撃してたってだけ。」
「で、でも何で負けたって。」
翠は硬の質問が面白かったのかフフッと笑って話し始めた。
「そりゃわかるよ。パチンコから出て真っ先に財布を確認し、ため息。そのままコンビニに行ったかと思えば、買ったのは一番安いおにぎり2個って。誰が見ても負けたとしか思えないよ。」
確かに言われてみれば負けたと思われてもおかしくない。だが、そう考えると新たな疑問が浮かび上がる。
「…何で…負けた俺にたかるんですか?」
「え?」
「いや、だってそうでしょ!?見るからに負けた人間からおにぎりを貰おうなんて考えない!勝った人間の方が施しをくれる可能性は高いはず!」
「あぁ。そういうこと。」
翠は名残惜しそうに最後の一口を飲み込み、指をペロッと舐めて話し始めた。
「一番の理由は俺の勘だけど、それじゃ納得してくれなそうだし。強いて挙げるなら危機感なさそうだったんだもん。」
「危機感?」
「うん。負けてお金がないはずなのに、コンビニでおにぎりを2個も買った。本当にギリギリな人間だったら2個買うとは考えられないし。」
「そ、そんなの――」
「おなかが空いていればありえる話。でも君は袋までもらってた。弁当で袋を貰うならまだしもおにぎりのために有料の袋を買うってのはさ、余裕がある現れじゃない?」
「余裕なんてないですよ!今だってもう500円しかなくて――」
「じゃあ、危機感がないんだよ。」
「っ!!」
言い返せなかった。黙るしかなかった。
「アハハ!でも気持ちはわかるよ。俺も硬君と同じ、危機感がない人間だからね。」
そういうと翠は足を組み、膝を両手で抱え込むように座りなおした。
「俺もおなじ、負けたんだ。負けて全財産を失った。」
「え?全財産!?」
「そ、ざっと20億。」
「20億!?」
公園にいた子供や親たちがこちらに目を向ける。
周りの視線が恥ずかしくなり、小さい声で話直す。
「に、20億ってとんでもない大金じゃないですか!」
「うん、そうだよ。でも今ではスカンピーン。3日前にギャンブルで無一文野郎にジョブチェンジ!」
何でこんな軽い感じでいられるんだ。
いや、そもそも、この話は本当なのか?
目の前にいる人間が20億を持っていてそれを一瞬にして失う?
ありえるのか?
そんなのって嘘としか――
「嘘だと思ってるでしょ。」
視界に翠が覗き込むように映る。
まるで心を見透かされたようだった。いや、見透かされていた。
「そ、そりゃそうでしょう!いきなり20億持ってて、それを失ったなんて話されても何が何だか。嘘だと思うのが一般的だと思いますけど…」
「う~ん。本当なんだけどなぁ。そうだ、じゃあ、俺と勝負しよう。おにぎりのお礼もかねて。」
隣に座っている翠はいつの間にか目の前に立っていた。
「勝負?」
「そ、多分この勝負を通して硬君は納得してくれると思うんだ。俺が本当に20億を持っていた人間だって。」
翠はそう言って座っている俺に顔をグッと近づける。少なくともその目に嘘はなさそうだった。
「ルールはそうだなぁ。こういうのはどうかな?」
~数字当てゲーム~
☆ルール
攻撃側と守備側に分かれ行う。
・守備側はまず、1~9の数字を頭に思い浮かべる。
・攻撃側は、その数字が何かを3回のYESかNOかの質問で絞り込み当てる。
・守備側は、3回の質問中、必ず1回だけ、嘘の回答を行わなければならない。
・最終的に数字を当てることが出来れば攻撃側に1ポイント。外した場合ポイントの増減は無し。
・攻守交代し同様のゲームを行う。
・先に2ポイント先取したほうが勝ち。
「もし俺が勝ったら、硬君の500円の使い道、俺に決めさせてよ。もし硬君が勝ったら、その500円、1000倍にしてあげる。」
「は?」
その提案は紛れもないギャンブルだった。
もし、翠の言うことが本当なのだとすれば、俺にメリットはある。
だが、嘘なら?本当に500円を1000倍にしてくれるなんて補償がどこにある。
負ければ今度こそ本当にすべてを失う。
負けるのだけはダメだ。それだけは避けなければ。
断ろう。
【これまでの負け分。】
この500円は大切なんだ。
【1000倍】
惑わされるな。
【20億】
断るんだ!!!
「…ルールはそれだけですか?」
「乗り気だね。じゃあどっちが先攻かはその500円に決めてもらおうか。表なら硬君が先攻。裏なら俺。異論は?」
「…ないです。」
俺は財布にしまった500円を取り出し、親指ではじいた。コインは宙を舞い、
『チリィーン』
落ちる。
「じゃあ、始めようか。数字は決めてるから質問してきていいよ。」
俺はまだ知らなかった。
これが、俺の人生を大きく変えることになるなんて。
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