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キンセンカ  作者: 櫻美
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10/14

茂兄ちゃんと「約束」したあの日から数日経ち

久しぶりに叔父さんの店の手伝いに来た。

制服に着替えてすぐに叔父さんから

「静ちゃん、ちょっと」気まずそうに呼ばれて

先日の事を謝られた。「気にしてないよ」と

微笑んで見せると、安心したのか叔父さんからも

自然と笑みが溢れた。

作業をしながらふと、気がついて


「今日は紀美子さん居ないの?」

「ああ、今日はちょっと体調が悪いみたいでな」

「そう、風邪でもひいたの?」

「うーん、なんか頭が痛いって言うとって

熱はないみたいなんやけどな」

「そっか、すぐに良くなるといいのにね、」

「そうやな、ちょっと疲れてるんかな?」

「ふふ、そうかもね」

「何で笑うん?もしかして俺のせいかな?」


二人でお店の営業をしたけれど

何事もなく終える事が出来た。

ただ、常連さんから「紀美ちゃんは?」と

いつも居る筈の紀美子さんが居ないので

沢山聞かれ、常連さんの中には


「旦那に愛想尽かして出て行って

しまったんかな、可哀想に。

俺のところに来たらいいのに」


にやにやして白髪混じりの髪を触りながら

意地悪な事を言うお客もいた。

叔父さんは「それは残念、まだまだラブラブやわ」と

二人は笑い合っていたけれど

苦笑いしか出来ない私には少し苦痛だった。

茂兄ちゃんの話は流石に出来なかった。

平日は学校、週末は店の手伝いと同じ日々を

繰り返していると世間は紅葉が散り

冷たく刺すような風が吹き、吐息を白く染めた。

紀美子さんは休みがちになり、お店に来ても

どこか具合が悪そうに思えた。

心配して、「具合良くないの?」と聞いても

「平気平気、季節の変わり目だからよ」

「どこの調子が良くないの?」と聞くと

「少し頭が痛むだけよ、心配しないで?ね?」

そう言って微笑まれるとこれ以上何も言えなかった。店の手伝いを終えて

帰っている途中にある、一件の焼き鳥屋から

若い男と女が出て来た。男はスタスタと歩き出して

それを女がヒールをカツカツ鳴らしながら

追っかけて男の左腕にするっと華奢な腕を滑らすと

ピッタリとくっついて

二人はゆっくりと歩き出した。

出来るだけ二人とは距離を空けるように

必要以上にのろのろと、殆ど立ち止まりながら

同じ方向に進んでいたけれど女の方が

立ち止まり、男も立ち止まり見つめ合うと

街頭で出来た二人の影は重なり

一度離れて、また重なった。

その横を通り過ぎる時、男と目が合い

あちらは目を見開いて驚いた顔を見せたが

こちらは知らんぷりして通り過ぎ、家に帰って

部屋に入った途端に涙が溢れて止まらなかった。

何故だろうか?理由は分からなかった。

次の日の朝、目が開いたと同時ぐらいに

昨日の夜を思い出す。

横にいた人は誰?彼女?

暗くてよく見えなかったけれどきっと綺麗な人。

不潔な二人にどうして私は嫉妬しているの?

深いため息をついて、布団を頭まで

すっぽりと被り再び眠りについた。

次に目を覚ましたのはお昼十二時を過ぎた頃

鳴り響く電話の音で起こされた。

まだ眠りの醒めない寝ぼけたまま電話に出ると

相手は父からだった。

内容は叔父さんが久しぶりに皆んなで

飯でも食おうって言っているから

夕方になったら叔父さんの家に来い。と

一方的に喋られて電話はすぐに切られた。

ツーツー、と鳴り響く受話器を置いてから

憂鬱でたまらなくなった。

「会いたくない」そんな思いで胸の内は

パンパンに膨れ上がっていった。

夕方、午後五時を少し過ぎた頃に家を出て向かった。

日が短く一歩外に出ればすっかり辺りは暗く

街灯の明かりが余計に寂しく思える。

寒空の下、身を丸めて叔父さんの家へと向かう。

憂鬱な気分が晴れる事はなかったけれど

紀美子さんが居ると思うと少しだけ

心が救われるように感じた。

インターホンを押すとすぐに足音がして

紀美子さんが扉を開けてくれた。

「寒かったでしょ?早く入って」

玄関には父の靴があり、紀美子さんのおかげで

きちんと綺麗に揃えられていた。

廊下を真っ直ぐ進んで左手に居間があり

中に入ると父親と叔父さんは缶ビールを片手に

つまみを食べて先に始めているようだった。


「おう、こっち座り座り、紀美子

ジュース用意したって」


大きいテーブルを囲んで地べたに座り

私は叔父さんの横に座り父と向かい合うように

座った。紀美子さんは端っこで膝だけついて

乾杯し一口飲んだらキッチンに戻っていった。

テーブルの上を見るとお皿とお箸は

四人分だけ用意されていた。

父が「あいつは、居ないのか?」

叔父さんは「知らん、遊びに行ってんちゃうか?

最近まともに口聞いてないからな。

紀美子、あいつからなんか聞いてるか?」

紀美子さんは手を止めずに首だけを振ってみせた。

そのやり取りを見ていた私は安心して

スーと胸が楽になった。

料理は美味しいし手の込んだものばかりで

テーブルの上に沢山の料理が並べられるので

行儀悪いがついつい迷い箸をしてしまう。

父と叔父さんはほんのり頬を赤くさせ

普段は無口な父も叔父さんが話し続けるので

珍しく口数が多かった。

紀美子さんは二人のやりとりを横から

そっと見守るように微笑んで眺めていた。

何とも言えない穏やかで、心地の良い時間が

目の前で流れていたけれどあの男が

帰ってきた途端、冷たくて息が詰まりそうな

空気に変わってしまった。



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