場面5 ゴリラドッグ姉さん
教会から出て、誠司と芽衣子は歩いて数分の場所に、変わらず藤田家が建っているのが見えた。
特に変化はない。
父はまだ寝ているのだろうと思った二人は別に焦る必要も無かったなと思い、普通に歩き始めると、誠司が芽衣子に気になっていた事を聞いた。
「なぁ"ヴィーちゃん"って何のことだよ。」
「あんたまだ童貞でしょ?Virgin。つまり頭文字を取って――ね?」
「ああ、なるほどね」
ドヤ顔する芽衣子に、このあだ名はしばらく使われそうだなと頭を抱える誠司だった。
「そんな事よりも!おかしい事が有るでしょーが!」
「気にする事…?ああ、そういえばさっき俺の英語力がどうとか聞いて、その後おかしいって言ってたような?」
自分の英語力の無さを今更指摘されたように感じた誠司はムっとしていた。
「そりゃ数年アメリカで仕事してたメイ姉からしたら俺の英語力なんてショボいだろうけど――「ウホ!」――え?」
「ウホ!ウホウホウホウホ!ウホ?」
真面目に抗議しようとした誠司に対し、全力でゴリラのモノマネをする芽衣子だった。
「何やってんの??」
「ワン!ワンワンワン!ワン?クゥーン。」
手を頭の上に乗せて耳のつもりなのだろう。今度は犬のマネを始めた芽衣子に対して本気で引き始めた誠司だった
「なるほどね。分かったザマス!」
弟からの冷たい視線に耐えられなかった芽衣子は、やろうと思っていた十八番たる鶏のモノマネを中止し、またもや掛けてもいないメガネの鶴を片手で位置調整する真似をし始めた。
ツッコミするだけ藪蛇になる事が分かっていた誠司は(ああ、そのキャラがマイブームなのね)と思いつつ死んだ目をして傾聴し始めた。
「まずこの世界!っていうか今はまだアンナちゃんだけザマスけど、何語を話しているのか分からないザマス!」
俺にはあなたが何キャラを目指しているのか分からないザマスと心の中でツッコんでいた誠司だったが、姉の言っている意味が分からなかった。
何故なら誠司は日本語しか話せない。しかし誠司はアンナとコミュニケーションが取れていた。ならアンナも日本語を話していたと考えるべきだが、アンナは『日本という国は聞いた事がない』と言っていた事を誠司は思い出した。
「日本を知らないのに日本語を話せる人なんて居るわけ無いって事か?」
「そう!それもあるザマスが、――もうザマスって面倒くさい!なによ!もういい!――で、それもあるけどさ、あたし教会のアンナって子に、ずっと英語で話してたんだよね。あんたには日本語を使ってたけど。」
「――うん?それはおかしい。だってメイ姉が何を言ってるのか、俺もあの子も完璧に理解して会話してただろ?」
アンナが日本語と英語を話せる可能性はゼロではない。
しかし誠司は自身がバイリンガルではないと自覚しているからこそ、芽衣子に英語で話されていたら誠司が阻害材料となり、三人での会話が成立するハズが無いと分かった。
「うん、おかしいと思ったから、あたし途中でフランス語も混ぜてみたの。片言だけど知ってる範囲で。そしたら二人とも普通に答えるんだもん。ビックリよ。」
「まじか――」
「もしかしたら念じただけでも会話が出来るかなぁと思ってね。テレパシーっていうのかな?試したけど二人とも何も答えなかったから、そういうのじゃないみたい」
芽衣子が教会に到着してからの不思議な行動。
急に話し出したり、急に黙り込んだりしていたのか、その理由が誠司にもようやく理解できた。
「ああ、じゃあ今のゴリラとかも?」
「うん、存在しない適当な言語でも通じるのかなと思って試したけど、それはダメっぽいわ。あとスラングみたいな一部の人にしか通じない系もダメっぽいね。ほら、さっきのVちゃんとか。」
対人という意味では言語以外にも様々な壁で苦労した芽衣子にとっては何という事もない話だったが、30分も居なかったであろう教会で、そこまで調べてたのかと舌を巻く誠司だった。
「何語を話しているのか分からないけど、意思疎通は可能で、どうして意思疎通が出来るのかは不明って事か」
「そうなるよね。まぁ後は機械とかで録音したのを聞いたら、何か分かるかもー」
などと話している内に二人は藤田家に到着した。




