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場面20 仕様書『リングとコンテナ』

「博史兄さん。誠司は言うには、このリングのおかげで向こうと通話出来るそうです。」


 次朗はリングを博史に渡した。


「これか。話には聞いたけど、現物を前にしても信じられないな。」


 しげしげとリングを見つめる博史の持つスマホから誠司の声が聞こえた。


「ジロー。聞こえるかー?」


「おお聞こえるぞー。」


「よし、じゃあ分かった事をまとめるとしよう。」


 新之助の張りきった声が聞こえた。


 その後、5人は検証結果を話し合った。すると次郎に1枚の画像ファイルが送られてきた。送り主は誠司だった。


 スケッチブックに手書きで『仕様書』とタイトルされたメモ書きを撮影した画像だった。



----------------------------------

仕様書『リングとコンテナ』


ver1.0



■リング

サイズ:直径約5ミリ

運搬:素手で可能

使用方法:リング内を通過させる事でリアルタイムに接続と思われる(ネットと電気を通して!)



■コンテナ

サイズ:10フィート

運搬:人力では不可。

使用方法:甲乙の2個セット。

①転送先の扉が閉まっていれば物体の転送が可能(ちゃんと閉めなさい!)


②転送先の扉が閉まっていても、一度転送が実行された後では転送先の扉が開けられない限り、転送は実行されない(送ったら受け取らないとダメ!)



※注意事項※

生物の移動は不可能

→芽衣子とバッタにて実証済み(ハエ男とかにならないのは良いじゃない!)


----------------------------------


 括弧書きの文字は色も筆跡も他と異なっていたので、そのコメントの主が誰なのか、次朗は即座に理解して、少し笑った。


「こういう事だそうです。さっきはバッタを捕まえてたんですね。」


 次朗は受信した画像を博史に見せた。


「芽衣子のやつ、虫取りなんかさせやがって。久しくやってなかったから妙に手間取った。」


 トゲのある言葉とは裏腹に表情が晴れやかな博史だったが、次郎が見せてきた仕様書を見て首を傾げた。


「コンテナの方は俺が調べた通りに書かれてるな。けど、リングの『ネットと電気を通して』ってのは、どうするんだ?芽衣子の字だよな?これ。何かアイディア有るのか?」


 こんな小さな穴にコンセントが通るとも思えなかった博史は芽衣子に問う。


「わかんないけど、どうにかならない?今はスマホの充電を乾電池とかで凌いでるけど、環境にも良くないでしょ?」


「うーん。家屋が有れば、まだどうにかなるかもしれないけどな。…次朗君。何か良いアイディア無いか?」


 突然振られた次朗だったが、これといっていいアイディアが思い浮かばなかった。


「なぁジロー。ウチの敷地に引いてた電線ってどうなってるか分かるか?」


 誠司に聞かれたので、次朗は電線の方を見た。


「どれが藤田家の使ってたものか確証はないけど、電線の途中でクルクルと巻かれたケーブルがあるから、多分あれがそうかな。電線が切れたのを誰かが通報したみたいだ。」


「分かった。それじゃあ…悪いけど、ちょっと頼まれてくれないか?」


「なんだよ急に水臭い。なんでも言えっての。」


 次朗の言葉にジーンとする誠司だったが、何故か悔しくて矢継ぎ早に依頼をした。


「後でジローの銀行口座を教えてくれ。スマホ使ってお金を振り込むから。で、俺の職場に行ってプレハブを買って来てほしい。」


「え、プレハブ?!俺はプレハブの良し悪しなんか分からないぞ!」


 慌てる次朗だったが、誠司の次の言葉を聞いて落ち着いた。


「それは大丈夫。俺が電話で話を通しておくから、ジローは俺の名前を言って、お金を渡すだけでいいようにしておく。手間なのはここからだ。」


「お、おう。どんと来い。男に二言は無い。」


「よし、立ち合いをお願いしたい。プレハブの設置と、電気工事、あとネットだな。手配はこっちでも出来るけど、立ち合いだけは絶対に無理だ。ヒロ兄に頼む事も考えたけど、遠くの親戚よりも近くの友人ってな。プレハブは最初にサインするだけでいいし、他は3時間幅で待機してくれればいい。あ、もしかして今はITの仕事やってるか?」


「いや、今は親父の農作業を手伝ってるだけだからな。そんなもんなら別に構わないぞ。他にオレに出来る事は無いか?」


「ほんとにいいのか?…じゃあ後でリストを渡すから、それを買ってきて欲しい。」


 博史は――実家から離れた土地に住む自分にとっては――チカラになるのが難しい話と思い、黙って聞いていた。しかし買い物と聞いて一つ思い付いた。


「買い物するなら早めに現金も有った方がいいだろう。ちょっと待っていてくれ。」


 そう言って、博史は自分の車に小走りで向かった。


「後でと言わず、今すぐ必要な物が有れば買ってくるけど、どうする?食料とかさ。」


 コンテナの前に居ても仕方ないと思った次朗は博史の後を歩いて追った。


「ありがとう。でも食料は買い置きもあるから大丈夫だな。ガスもプロパンだし。だから今のところ最重要なのは電気とネットになってるのさ。」


「なるほどね。わかった。」


 了解する次朗が博史の愛車まで来ると、博史はトランクの中をひっかきまわし、何かを取り出した。


「よし、コレだ。はい、次郎君。こいつで頼む。」


 博史の手にはゴルフボールの絵が描かれた缶が有り、次郎はそれを受け取った。


「これは?」


 ゴルフ未経験の次朗にとって、それに何の意味が有るのか分からなかった。


「そいつを開けて欲しい。」


 缶を渡すと博史はトランクを閉めた。次朗は缶の蓋を開けると、そこには予想通りゴルフボールが入っていた。


「あの、オレはゴルフやらないんですけど…。」


 やはり次朗は博史の意図が分からなかった。


「ああ、悪い悪い。ボールだけ返して貰えるかな。」


 博史に言われてボールを取り出そうとして次朗は缶をひっくり返した。するとボールが1個だけ転がり出てきた。缶のサイズから考えれば3個は入っていて良さそうな大きさなので、変だなと思った次朗は缶の中を確認した。


「これって…。あ、ボールを返ししますね。」


 ボールを博史に手渡すと、次郎は缶の中から紙幣を取り出した。


「ああ、千円札も含めて全部で20万円近くあるはずだ。災害時用に車へ入れてたのさ。今は実家が非常事態らしいからね。そいつを使って欲しい。俺に出来るのはそれくらいだから。次朗君に甘えさせて欲しい。」


 そう言って博史は深々と頭を下げた。


 博史の手元のスマホからは20万円は大金じゃないか!父さんが出すからお前は気にするな!という新之助の声がしたが博史は無視した。


「いえ、そんな良いんですよ!頭を上げてください!それにオレにだってメリットがあると思ってるんですよ!何かの手がかりになるかもしれないって!」


 慌てる次朗の言葉に博史は顔を上げた。


「そうか、そうかもしれないな。でも君のお母さんには…。」


「もちろん何も言いませんよ。誠司達は家ごと引っ越したとでも言っておきます。それより博史兄さんは…この後どうしますか?」


 強引に話題を変えた次朗の配慮に気付いた博史はそのまま話題に乗った。


「そうだな、このままココに居ても何が出来る訳でもなさそうだ。なぁ!何か俺に出来る事は有るか?!」


 無視していたスマホに向かって問う博史だったが、急に反応が有ったので異世界サイドは戸惑っていた。


「――いや、とりあえず無さそうかな。俺からは。」


「ないでーす。娘の絵奈ちゃんによろしくー!」


「すまんな博史。せっかく来てもらったのに、結果的に金を無心する形になってしまった。」


 三者三様だが答えが返ってきたので、博史は根拠は無かったが大丈夫そうだと思えた。


「じゃあ電話を切るぞ。通話は難しいけど、メッセージをくれれば夜には絶対に返事するからな。」


 通話を切ると、画面には通話時間が表示されていた。こんなに長時間、家族の会話をしたのは何年ぶりだろうと考えた博史だったが、果たして思い出せなかった。


「よし、帰るかな!次朗君!色々迷惑をかけるだろうけど、ウチの連中を頼む!何か有れば遠慮せずに連絡を欲しい!体は中々自由にならないが、カネ・コネ・ツテなら何とかなるかもしれない!約束は出来ないけどな!」


 博史は家族のチカラになれない不甲斐なさを感じていたが、それを払拭するように大声を出してから車に乗り込み、窓を開けた。


「大丈夫ですよ。オレには何も無いけど時間だけは自由ですから!任せて下さい!」


 胸を叩いて任せろと言った次郎が博史には頼もしく見えた。同時に、何も無いと言う次朗だが、誠司との間には確かな友情が有ると思えた。


「そうか、じゃあこのリングも任せた。今のところ向こうと連絡する唯一の手段みたいだから大切にして欲しい。」

 

 博史は運転席の窓から手を出すと、次郎にリングを渡した。


「はい!お金とリングは責任を持って、オレが預かります!」


 こうして博史は安心して藤田家跡地を去った。







 車を走らせながら博史は考えていた。


『仮に自分が誠司の立場になった時、次朗のように助けてくれる友人が居るだろうか?』


『自分が築いてきたキャリアと、弟たちの友情。その二つを秤に掛けた時、天秤はどちらに傾くのだろうか?』


 しかし友情を秤にかけようとした自分自身が一番価値の無い存在に思えた博史は虚しさと空腹を感じた。


「そういえば、今日はまだ何も食べてなかったな…。」


 来る途中で購入したサンドイッチを食べようとした博史は助手席のシートに手を伸ばしたが、そこにコンビニのビニール袋は無かった。


「そうだ!コンテナの実験に使ってた!くっそ、俺の朝飯!」


 時は既に遅く、道中にはサービスエリアが一切存在しない高速道路に乗っていた博史だった。

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