第63話
非常にグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はお控えください。
――セシリア視点――
洞窟の中に入った瞬間から、嫌な予感がしていた。それは血の臭いを僅かながら感じていたからだろうか。洞窟を進んでいくたびに、その血の臭いはどんどんと増していっているような気がする。
ローレンの持っているランプの光が、数メートル先まで洞窟を照らしているけど、それより先は全く見えない。いつバケモノが出てきてもおかしくないというのに、ローレンは止まることなく進んでいく。ローレンは警戒をしていないわけではない、おそらくこの血の臭いもわかっているはず。それでも彼は一言も話さずに進んでいく。
洞窟に入ってからどれくらい経ったか、私の体感ではもう30分も経っていると思う。いや、実際にはもっと短い時間のはずだ、ローレンのランプの残燃料は減っているように見えない。
そんなことを考えていると、不意に足音のようなものが聞こえる。私とローレン以外の、誰かの足音。2足歩行特有の足音、ペタペタという湿った岩の上を歩いているような音。だけど、その足音はすぐに聞こえなくなる。どうせなら足音の正体が早く暗闇から出てくればいいのに、そしたら私の魔法で焼き尽くしてやる。
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ローレンが洞窟に入ってから5分くらいか、血の臭いを入り口付近で感じてからは特に警戒して進んできた。すると足音のようなものが聞こえてくる、湿った岩を裸足で歩いたような音だ。
ローレンはランプを左手に持ちながら、右手でショットガンを掴む。人が1人通れるくらいの洞窟の中でショットガンを使うのは跳弾の危険があるため、フレシェット弾を洞窟に入る前に装填している。それでも跳弾の可能性が0ではないため、気を付けることに変わりはないのだが。
数秒後、足音が聞こえなくなったと思うと、洞窟の奥からわずかながらに明かりが漏れているのが見えた。それと同時に血の臭いが濃くなったのを感じる。
洞窟が少しだけ広がっている場所に出る。明らかになんらかの知的生物がいた痕跡があり、篝火が置かれている。
洞窟はその空間から2つに別れており、少しだけ風が吹いているのを感じる。おそらくどちらかは地上につながっているのだろう。
「セシリア、大丈夫か?」
ローレンは篝火に近付いて調べながら、セシリアに問いかける。
「何にが大丈夫かなの?」
セシリアはやや不機嫌そうに、問いの意味を聞き返す。
この場合は大丈夫なわけないだろ、という返事だと解釈するべきなのだろう。
「少しだけ休憩しよう、篝火があるってことはもしかしたら先に来ていた冒険者たちが置いたものかもしれないし」
「そうね、そうだといいけど...」
そのまま5分ほど休憩しつつ、2つに別かれた洞窟のどちらを先に探索するかを話し合う。とは言ってもアテがあるわけでもないため、勘で左から先に探索することになった。
ローレンが前に立ちショットガンを構えながら進む、セシリアはなるべくローレンが見やすいようにランプを掲げながらローレンの後ろについていく。
そしてそのまま1分ほど進むと、小部屋のようになっている空間に出る。もうわかっていたことだが、血の臭いの原因はこの場所だった。
床一面には何かすらわからないような肉片やら臓器やらが散らばっており、奥の方には原型を留めていない、恐らく人間のものと思われる死体が転がっている。頭やら腕、脚などが足りないようだが。
「うぉ、ぐぼぉぇえ」
後ろではその人間と思われる肉塊を見たセシリアが、堪えきれずに嘔吐する。ローレンは部屋内に危険がないのをすばやく確認すると、セシリアの背中を擦りながら、篝火のあった場所までランプを掲げながら戻っていく。
だが、それを待っていたとばかりに、先ほどの足音が近付いてくる。ローレンは咄嗟にランプを地面に置き、セシリアを下がらせてショットガンを構える。
足音はさらに接近してくる。すると狭い通路を塞ぐように蠢くバケモノが暗闇の中から飛び出してくる。
ソレは人間のように2足歩行で歩いているが、ゴブリンのような手が胴体から数本不規則に生えており、それがフラフラと揺れている。さらにその腕の中には人間の腕と思われるモノも生えており、長袖の切れ端と思われる布切れがその腕に巻き付いている。胴体から生えている腕をぶんぶんと振り回しながらソレは近付いてくる。
ローレンは恐怖に駆られ、ソレに向けてショットガンを撃ちまくった。
轟音と大きな反動を受けるが、そんなことはお構いなしにローレンは弾切れになるまでショットガンをぶっ放した。
硝煙が洞窟の中に蔓延し、ソレの姿が見えなくなっている。やがて硝煙が落ち着いてくると、そこにはぐちゃぐちゃになった肉塊が散らばっていた。
「やったか...」
その言葉はフラグだとわかっているはずなのに、なぜかローレンは口走ってしまった。
肉塊はその生命を絶たれているはずなのだが、ゆっくりと蠢き始め、それぞれの肉塊がお互いを引き寄せあっている。散らばっている何かの腕やら脚も、蠢く肉塊に囚われていく。
「なんなんだ...」
「我は求める、その力を以て全てを焼き尽くさんと...」
ローレンが肉塊から距離を取ろうとした瞬間、セシリアの詠唱が聞こえてくる。詠唱が必要な魔法というのは基本的に威力が高いことを知っていたローレンはさらに急いで距離を取る。すぐ後ろにいる、顔を真っ青にして詠唱をしているセシリアを肩に担いで洞窟を駆ける。セシリアはローレンに担がれたまま、さらに詠唱を続け、やがて魔法が具現化される。
「...すれば力は与えられん...業火」
洞窟内に爆炎が吹き荒れ、ローレンはそのまま吹き飛ばされてその場で気を失ってしまった。




