第64話
前世の記憶。
1990年代初頭、世界各国はオイルショックからの景気回復を実現できなかった。
景気回復のために一部の国は民主主義を離脱、ソ連崩壊も起こらなかった。
世界はソビエト、中華人民共和国、アメリカが睨み合う新冷戦に突入。世界は一気に緊張度を増し、不景気の国々は軍需産業を興し、景気回復のために武器や兵士の輸出を行った。
日本も、景気回復を謳った様々な政党が現れ、国内は大きく混乱した。さらに隣国ではいつ内戦の火蓋が切られてもおかしくはない状況であった。
そのまま時は流れ2004年、世界は未だに三つ巴の冷戦を続けていたが、アメリカ合衆国のとある都市に旅客機が墜落、テロを示唆した声明が出されるとアメリカは報復を宣言。中東でのテロとの戦いが始まった。
そんな中、1人の日本人の男が中東の砂漠でライフルを抱えて眠っていた。
砂岩でできた薄暗い小屋の中、様々な国籍の人間が外の様子を確認したり、武器を整備したり、ニホンジンと同じように仮眠をとっている。
やがて、砂漠の地平線上から太陽が昇ってくると、男たちは立ち上がって小屋から出ていく。
「起きろニホンジン、時間だ、行くぞ」
ニホンジンは言われるままに起きると、小屋から出て目の前に止まっている兵員輸送車両へと乗り込む。
トラックの中にいる男たちは、それぞれが異なる銃器を持っている。だが、すべてマガジンを共有できる銃で統一されている。
そして、トラックに乗っている全員の服にはPMCのロゴが入っている。民間軍事会社の兵士というわけだ。
「あぁ、また前線かよ。後方でもおちおち眠れねぇってのによ」
「正規軍みたいに輸送車両くらいは装甲車にして欲しいぜ」
「ああ、まったくだ」
英語で愚痴が飛び交っている。ニホンジンはそれを苦笑いで流しつつ、外の様子を見ていた。
岩砂漠のいたるところにりゅう弾砲陣地が築かれており、進行方向には市街地が見えてくる。今も市街地上空では正規軍の近接航空支援機が機銃掃射を行っている。
これからあの地獄へと向かうことを考えると、生きた心地はしないだろう。
すると、突然前方を走っていた車両が爆炎を上げて吹き飛んだ。
「地雷だ!」
「全員降車!応戦態勢を取れ!」
「西に敵歩兵3!距離400!」
「狙撃だ!遮蔽を取れ!」
「どこだ!どこからだ!」
「本部に連絡を取れ!」
「支援を請え、砲撃でも航空支援でも構わん!」
「敵歩兵多数!北西から接近中!」
「制圧射撃を!俺が狙撃する!」
トラックから降りた後、近付いてくる敵歩兵を狙撃しようとする兵士は、遮蔽から頭を出した瞬間に仰向けになって倒れる。眉間を貫いた弾丸は彼の命を一瞬で奪い取った。
「クソ!狙撃された!1名KIA!」
「本部から応援が来る!持ちこたえろ!」
そう聞こえたかと思うと、轟音が鳴り響き、兵士たちはトラックもろとも吹き飛ばされた。
「あ、あぁ?」
ローレンは意識を取り戻した。自分の四肢がしっかりとついていることを確認し、次に腹や胸、頭などから出血してないことを確認すると、ゆっくりと起き上がった。
記憶が混濁しており、何があったかを思い出しながら辺りを見回す。
「あ、セシリア...おい、大丈夫か?」
ローレンは彼女の元へと駆け寄ると、重大な怪我をしていないかを確認する。どうやら意識を失っているだけのようだ。
ローレンは彼女を背負い、洞窟を移動し始める。洞窟内の酸素濃度が明らかに低くなっているのがわかる、洞窟内で強力な火魔法を使えばこうなるのは明白だ。それでも生命維持に必要な最低限の濃度は残っていたらしく、何とか意識を取り戻すことができたのは幸運であった。
篝火があった場所まで戻ると、篝火が消えていた。おそらく先ほどの衝撃で消えてしまったのだろう。
そこから元来た方ではなく、まだ行っていないもう1つの穴を進む。数分で地上へと到達し洞窟から出ると、そこは草原と林の境目にある岩場だった。
ローレンはセシリアを木陰の草地に降ろし、声を掛けながら肩を揺らす。
「おい、大丈夫か。セシリア」
「...ん。うぅ、ん?...すぅ...すぅ」
セシリアは意識を取り戻したかと思うと、そのまま眠ってしまった。
「おい、寝るなよ...」
といっても、無理に起こすようなこともできなかった。
近くを見回してみると、小さな川が流れている。深さが膝くらいの小川だ。
ローレンはセシリアから少し離れたところで焚火を起こし、水を手鍋で汲み火にかけた。
(そういえば、朝飯食ってなかったな。まぁ今回はそれが英断だったわけだが)
鞄の底に入っていた鍋とちょっとした干し肉、近くに生えていた山菜でスープを作り始める。
山菜はコレハという葉っぱとペシュカというキノコだ。コレハはほうれん草に近い味をしていて比較的よく見かけるものだ、ペシュカも林の倒木によく生えている食用のキノコで見た目は舞茸、味は薄いシメジだ。香りも食感も微妙だが。
スープの味付けは干し肉の出汁だけだが、もともと強い塩気があるため、それほど薄味にはならなかった。
スープの僅かな香りを嗅ぎつけたのか、セシリアが目を覚まし、起き上がってこちらを見つけると駆け寄ってくる。
「ロ、ローレン...その、私...ごめんなさい」
いつもの軽い感じではなく、誠意の籠った謝罪をするセシリアに、ローレンは少しだけ困惑する。
「あ、あぁ。それはともかく、食うか?」
「え、うん。食べる」
2人は山菜スープを黙々と味わった。素材本来の良さを引き出した料理になっていた。
木陰にはただ2人がスープを啜る音だけが響いた。
ローレンの前世の記憶の一部が明かされました。物語の序盤に前世はミリオタとの記述がありましたが、これが原因で民間軍事会社に入るのですが、それはまた次の機会に。
ローレンの前世がカオスすぎる




