第21話
ローレン、レナ、イヴァンの3人は今までに例がない(とされる)ダンジョン『秘境の花園』に足を踏み入れた。草原から花畑に変わる境目があり、そこから何かしらの要因で花畑が広範囲に続いている。
とくにモンスターの姿も見えず、ただ花畑を歩く。
「ローレン、イヴァン、とりあえず花畑の中央に向かいましょう。そこでサンプルを採取してからさらに奥へ行きましょう」
レナが提案する。もちろんローレンとイヴァンはすぐに頷く。こういった場合リーダーシップを発揮できる人物がいると心強い。ただそう言った人物が複数いる場合はややこしいことになってしまうこともあるが...
ともあれ、3人はダンジョンの中央部へと向かう。特に何かあるわけでもないのだが念のために警戒を怠らずに進んでいく。ところどころにある水溜りはほぼすべて湧水が湧いているようだ。特に水中生物がいるわけでもない。といったこともローレンはメモしながら進む。別に頼まれたわけでもないのだが、こういったレポートが今後のダンジョン調査に役立つ可能性もあると思っての行動だ。
しばらく進むと花畑の様子が変わってくる。入り口付近んは明るい色の花が多かったのに対して、中央部に近付くほど暗い色、青や紫などの花が増えてきているようだ。
「レナさん、ここら辺で採取してもいいんじゃないですか?」
「そうね、花の種類が変わってきているようだから、入り口付近であまり見なかった色や形の花を採取しましょう」
イヴァンとレナはさっそくガラス瓶に花を収める。ローレンは念のためにあたりの警戒をする。
だがローレンの目にあり得ない光景が映り込む。そこには人が、まだ子どもとも言えるような年齢の人間が立っていたのだ。近くの町や村から数時間は掛る場所に子どもが1人。
ローレンは咄嗟にショットガンを構えて警戒する、こんな場所に子どもが1人でいるのは明らかに不自然で、おそらく何かしらの擬態ができるモンスターではないかとローレンは考えた。
「レナさん、イヴァンさん」
ローレンは一瞬だけ『ソレ』から目を離し2人を呼ぶ。
「え?どうしたの?」
「ローレンどうかしたか?」
ローレンは再び『ソレ』に視線を戻すが、そこにはどこまでも続くかのような花畑が広がっているだけだった。
「今、子どもが1人...」
「子どもが?」
「ローレン、何かの見間違いじゃないのか?昨日はよく眠れていなかったようだし」
レナもイヴァンもまさかといった様子で辺りを見回しているがそれらしき影を見つけることができていない。
「気のせい...?疲れてるのかな...?」
ローレンたちはすぐに採取を再開し、複数のサンプルを確保する。サンプルは根から花まで全体を確保した。
この時点で時間は10時くらいになり、気温も少しずつ上がってきている。花畑にはミツバチのような虫がところどころに飛んでいるようだ。
3人は採取を終えるとダンジョンの奥へと進んでいく。ダンジョンの構造はどうやら三角形をしているらしく、奥に行くにつれて2つの崖が見えてくる。2つの崖がぶつかる場所、二等辺三角形で言うところの頂角の部分、そこには洞窟が存在していた。
「なにか怪しい雰囲気がしない?」
レナが沈黙を破る。ローレンも何か嫌な予感がしているが、イヴァンはこれと言ってなにも感じていないらしい。もちろん鉱物採取ができるかも、という期待はある、ただしこの場合定番なのはダンジョンのボスがそこで待ち構えているパターンだろう。
「とりあえず、ここら辺でいったん休憩してから洞窟に入りましょう。ほとんど歩いてるだけだったけど、念のため万全を尽くしたいし」
レナの提案で洞窟から200メートルほど離れた花畑に座って休憩する。今までモンスターを全く見ていないため、警戒が薄いが、見晴らしのいいこの場所で襲撃に気が付かないといったことはないだろう。
ローレンは他の2人と休憩しつつ、辺りを見回す。これと言って何かあるわけでもないのだが...
ふと、ローレンが洞窟の方を見ると、その洞窟の入り口付近にまた『ソレ』が見える。今度はすぐに目を離さずに観察する。
遠くて顔は見えないが、髪や服装からして女だとわかる。身長は120センチほどでだいたい6歳から7歳くらいだろうか、肌は真っ白でさらに真っ白なワンピースを着ている。
『ソレ』がこちらに向かって手招きをしている。
ローレンは『ソレ』が不気味なものには思わなかった、暗い森の中で出会ってしまったのならば不気味に見えるのかもしれないが...
ローレンが『ソレ』を見ていると、しばらく手招きをしてから洞窟の中へとゆっくりと消えていった。
「ローレン?どうかしたの?」
レンがローレンの異変に気が付き声尾を掛ける。
「い、いえ。なんでも。ところでそろそろ行きませんか?」
「え?もう?まぁそうね、そろそろ行きましょうか」
ローレンは平然を装いつつレナに返事をする、ローレンは確かに見えた『ソレ』が気になりレナを少しだけ急した。
3人は洞窟の目の前に来ると隊列を組む、そこまで広くない洞窟の中ではお互いに戦闘の邪魔になる可能性があるため、あらかじめしっかりと隊列を決める。
ローレン、レナ、イヴァンの順に洞窟へ入る。ローレンが1番前にいる理由は使っている武器が散弾を放つ銃であるからだ、狭い洞窟の中で広い射線を持つ散弾を撃つ場合に味方が前にいると射線が被ってしまう可能性が高い。それに比べてレナの使う弓は1本の矢を飛ばすだけのため、射線が被りにくい、イヴァンの魔法も射線が広いのだがローレンに比べて攻撃の速度が遅いため後方での援護になった。
3人はゆっくりと警戒しつつ洞窟へと入る。だが洞窟に入り10メートルほど進むと、明るくなった半径20メートルほどの空間に出る。隊列を解きながらあたりを警戒するが何かしらのモンスターがいるわけではなかったらしい。
「何か待ち構えていると思ったんだけどね...」
「あぁ、この広い空間が見えた時には何かしらのモンスターのねぐらかと思ったんだけどな」
レナとイヴァンが周囲を警戒しつつぼやく。だがローレンにはもっと興味深いものが見えていた。
「これは...墓?」
その空間の中央にはぽつんと小さな墓が立っていた。




