第102話
「やったか...」
リンジーは倒れたクイーンオークから槍を引き抜きながら蹴飛ばす。反応はなく、完全に生命活動を停止していた。
ローレンは倒れているセシリアを今も燃えている砦の外へと運び、大きな切り株の上で介抱していた。
襲撃の前にまとめて置いてあった荷物には荒らされて形跡もなく、無事だったようだ。
ローレンは自分の鞄から包帯を取り出して、額の傷口を塞ぐように巻いていく。包帯には森の中で取れる地衣類を調合した消毒液を浸み込ませているため、消毒の必要はなかった。
「うぅ...吐きそう...頭痛い...」
ちょうど傷に包帯を巻き終えた頃、セシリアが目を覚ます。
「うぅ...えっ」
意識を取り戻したセシリアは現在置かれている状況に困惑した。自分の頭がローレンの膝の上にあったのだ。いわゆる膝枕である。
こういうシチュエーションであれば、美少女が倒れた男を介抱するときにやっていることが多いのだが...
ともかく、ちょうどいい枕になりそうなものがなかったローレンはセシリアの頭をとりあえず自分の太もも辺りに置いていたのだ。
「起きたか。立てるか?」
「無理...」
セシリアはローレンの膝枕の上でピンクブロンドの髪の毛をさわさわと揺らし、吐かないように努力しながら再び目を閉じた。
「さてと、とりあえずどうする?」
「生き残りがいないか調査する必要があるだろうな」
「だな。クイーンオークがいたとなると...」
「...」
リンジーとジャックはお互いに苦虫を噛み潰したような顔をしているが、他の冒険者たちにはなぜ彼らがそのような表情になっているのかわからなかった。
「俺とジャックが奥を調査してくる。残りはここで警戒しててくれ」
「わかった」
リンジーとジャックはクイーンオークが出てきたと思われる掘っ立て小屋へと入って行く。
掘っ立て小屋の中には、オークが...いたのだ。
オーク種といえど、生まれてくるときから大人のオークではないのだ。
そう、リンジーとジャックの目の前にいたのは、赤ん坊のオークと、幼体のオークだった。
小さなオーク達は、2人の人間の姿を見てビクビクと怯えている。
無表情のリンジーとジャックは、無慈悲にも槍と剣を使って殺戮を開始する。
無抵抗の幼体たちをぶち殺し、掘っ立て小屋から出ると、ジャックは掘っ立て小屋に火を放った。
「見逃せばいずれ人喰いオークになるんだ。いや、既に喰っていただろうな...」
「やめろ」
「...」
リンジーの言葉に、ジャックは冷たく言い放ち、離れたところまで歩いていくと尻をついて座り、今も燃え続けている砦の防壁をじっと見つめていた。
ローレンは切り株の近くで焚火を起こし、セシリアが凍えないように暖を取った。膝枕から降ろすのに苦労したが、今は切り株の上でスヤスヤと寝息を立てていた。
「ローレン、傷の方は大丈夫か」
砦の中の調査を終えたジャックはローレンの額の傷を心配そうに尋ねる。
「大丈夫、包帯巻いて今は血が止まってる」
「そうか...セシリアは?」
「意識は取り戻してる。今は寝てるだけ」
「そうか...」
ジャックは大きなため息交じりに答えると、近くにあった切り株に腰掛けて焚火に手を向けて暖を取る。
「砦の中は?」
「...掃討済みだ」
ジャックはローレンに表情を見られないように首を垂れ、足元を見ながら答えた。
ローレンは何かを察し、ジャックと話すのをやめ、鞄の中に入っていた革の上着をセシリアに掛ける。
秋の夜中、気温が摂氏10度を下回っている。近くにある枯れ枝をパキパキと折りながら火へとくべていく。
やがて、他の冒険者たちも集まり、全員が疲労感を露わにしていたため、朝まで待つことになった。
ローレンは焚火にいつも通り手鍋を置くと、水筒から水を流し入れる。そこに紅茶の茶葉を入れて煮立たせる。
全員分のカップは持っていなかったが、他の冒険者たちも何かしらの容器を持っていたため、そこへ注ぎ飲み始める。
紅茶にはリラックス効果があるとされている。そのため、ひたすら戦い続けていた冒険者たちもほんの少しだけ気分が良くなっているようだ。
先ほどまで表情が固かったジャックも、他の冒険者たちと軽く会話を交わしているようだ。
「ふわぁ」
2時間ほどするとセシリアが目を覚ます。先ほどまでの吐きそうな青い顔は何処へやらだった。
「紅茶飲むか?」
「うん」
ローレンはセシリアの分の紅茶も淹れ、もう1度冒険者たちへと配った。
「いい香りね。店で淹れてもらう紅茶とは比べられないけど」
「そりゃな、一番安い茶葉だし」
冒険者たちは東の空から太陽が昇ってくるまで、切り株に座りながら談笑していた。




