第20話 再訪
以前の街は、まあ居て心地の良いところではなかった。
私はぐっすりと寝て体力を回復したあと、アダムの宿を出て、さっそく次の街へ急いだ。
と言いたいところだが、この街は何しろ技術の街だ。
旅は基本徒歩で行ってきた。それは、勇者と冒険していたときはこんな整備された道もなければ、鉄道の線路が敷かれている場所がまったくなかったからな。
というわけで、私は魔動機関車に乗って、少し遠くの村まで行くことにした。
そこは、私と勇者の旅の途中にも現れる村なのだ。
私は大嫌いな、自然あふれる緑豊かな村。
私から言わせてもらえば、自然に妥協し開発を怠った汚れまみれの村だ。
しかし、当時の私はいやいや言いながらも彼との旅を楽しんでいたわけだ。
彼が、「ちょっと寄ってみてもいいかい?」と言えば私は素早く「いいよ」と頷くことしかできない。
というわけで寄ったのが、この村だった。
というか、観光目的で寄ったと思っていたのだが、どうやら魔物が大量に出て困っているらしかったのだ。
当時は、もう人の住めるような場所ではなくなっていた。だからこそ、私たちがわざわざ出向いたわけだ。
しかし、なかなかの強敵だったものだ。魔王軍の幹部は、私はもちろんのこと、勇者でもかなり手を焼く相手だった。
てなわけで、ようやく人の住めるようになったという街の視察に行く。一人で、だいぶ心細いが私の冒険を知っている数少ない人もいるのだ。
ということは、今度こそ私の祭りを開いてもらえるチャンスなのだ。
というわけで、私は1日半魔導汽車に揺られて近くの街まで行き、そこから整備された道を歩いて村まで行った。
村が少しずつ見え始めると、
・・・
「・・・なにこれ?」
そこには、当時の見る影のまったくない発展した大きな街が出来上がっていた。
私が街への入口である、大通りの中心で人目を憚らずに突っ立っていると、
「あれ、・・・あのときの子かい?」とおじいさんが声をかけてきた。
あのときの子って言うことは、あのときのことなのだろう。
私と勇者の冒険の話だ。
しかし、さすがに村人の顔を覚えているわけではなかったので「ああ、そうです。以前、こちらに魔物退治に立ち寄った者です」と答えた。
するとおじいさんは「魔物退治?・・・あの役立たずか!!」と言ってきた。
ちょっと待ってくれ、
役に立たなかった覚えはまったくない。
・・・
なんだか、今私の心の中にいる勇者が「キミは役に立っていなかったよ」と言ってきた気がする。
もう!!!
「いや、多分人違いじゃないか、と」
私がおじいさんに言うと「去年来た、役立たずの業者にいた女だろ!!」と言われた。
普通に勘違いじゃん。
全然、去年はまだまだ旅の途中だし、こんなところまで来れてないから。
「いや、違います。私、十年前に魔物退治に来た、勇者と一緒にいた、あの」
私がそういうと、おじいさんは「ああ、勘違いか。すまんが、わしは5年前に引っ越してきたばかりだ」と言った。
クソジジイが!!!
「ああ、すいません。じゃ、じゃあ、この村、・・・街?に長く住んでいる人って知りませんか?」
するとクソジジイは「ああ、まあいたりいなかったりするね」と意味のわからないことをほざきやがった。
こいつボケてやがるな、と思ったので私は「ありがとうございます!!」とデカい声で言って、とりあえず違う人に声をかけることにした。
それにしても、なぜこんなにも変わってしまったのだろうか。
確かに、元々平らな土地だったしな。発展する場所としての条件は、整っているのかもしれない。山の麓なので、山からの工業用水とかを持ってくることはできるしな。
街の通りを歩くと、馬車がやけに行き交っている。それに、結構至る所に勇者の銅像と思われるものが立っていた。
街の大きめの公園のような、芝生が広がっている場所に行くと、またもや銅像が建っていて、その下に書かれている文字を読んでみると、「銅像の街」と書いてあった。
もしかすると、この勇者の銅像の大量生産で儲けた街、ということか?
実に、バカバカしい。そもそも、勇者の銅像なんて、なんでほしいのだ。本物を知っている私からすれば、もうあんな銅像では満足できないのだ。
というわけで、それなら私のことを覚えている人もいるだろう、と思い街の役所を訪れた。
役所は、もう知らない建材で建てられており、全体的に暗い雰囲気があるのだが、それにしても私には未知なものなのだ。全体的に白い、潔白なイメージを大事にしている王都の王宮とは違い、黒で「これで、汚くても目立たないね」と喜んでいるような手抜きの建物に対して、私はどうかと思った。
しかし、中に入ると見慣れた大理石がふんだんに使われていて、中では多くの人が忙しそうに仕事に取り込んでいた。相談とやらに来る住民が長い列をなしている。
王都と、一体どれほどの差があるのだろうな。
王都にも、もう何年も戻っていないが、王都の技術及び発展具合などとうに越しているように見える。
というわけで、私も大人しく住民の列の最後尾に並んだ。一応、待つ用の椅子が用意されているのだが、椅子に座れているのは戦闘の10人程度だ。
こちらは、ぎゅうぎゅうになって待つしかない。
かなりの時間が経ち、残酷にも日が傾いてきたところでようやく私の番になった。
私の対応をしたのは、私より年下と思われる若い男だった。スーツを着て顔から下の身だしなみは整えているのだが、顔は明らかに目不足と多忙で生気を横たえたような顔をしていた。
しかし、私にはそんなことは関係ない。
むしろ、こっちの方が何時間も汽車に揺られて大変な思いをして、更にここでも貴重な時間を使って並ばせられているんだ。
「あーー、どんな御用ですか?」
目の焦点が合っていない。
「あの、元々、この街って小さな村で、魔物に苦しめられていましたよね?」
「そっすね」
クソが、適当な返事をしやがって。若いくせに仕事で手ぇ抜いてんじゃねえぞ!!
「そこで、勇者がその村を助けたとかなんとか」
「あ〜、なんすか、それ?」
「だ、だって、銅像が建ってるじゃないですか!!」
「あ〜、あれっすか。引っ越してきたの?ここの住民じゃないの?」
「あ、・・・引っ越そうと思ってて」
私がそういうと、若輩者は「え、あの、ダメっすよ。ここ、その手続の窓口じゃないので」と言ってきたので、慌てて「あ、さっきのウソです。すいません」と謝った。
「え、嘘つき?嘘つきはこの街に住ませらんねえよ」
また、いつまでウソとか本当にしがみついているのかしら。勇者もそうだったわ、
私のことが本当に好きだとか、この気持ちはウソじゃないとか、
そんなことばっかり言っていても何も進まないじゃないの!!
「その、勇者がこの村というか、元の村に来たときに、女の子も連れてましたよね?」
「もしかしてぇ、お姉さんがその女の子だとか言っちゃうんですか?ねえ?うお、イタイな〜。爆笑」
くそ、こいつ。ていうか、私は本当にそうなんだよ。
なんで、誰も証明してくれる人がいないんだ。この前の演劇では、私死んだことになってたし。
「あのさ、キモいから。とりあえず、そんなに皆に認めてほしいなら俺が仕事終わるまで待っててよ。俺の家に来な。お姉さん綺麗だし、俺はお姉さんのことわかってあげられるから」
そういいながら、男は私に手を伸ばしてきた。
こんなのが、役所の職員なのか?とっとと死ねばいいのに。
私の顎へと伸ばされた手を掴み、私は男の人差し指を軽く握った。そして、本当はもっと効率の良い折り方も知っているのだが、力任せに思い切りその指をぐいっと曲げた。
「ッカ、・・・んぐ、っあ、」
そういって、男はその場に倒れ込んでしまった。まあ、これでいい。
それにしても、なんでこうも男はセクハラしないと気が済まないんだ。この前もそうだし。
とりあえず、私は他の役所の人たちに「倒れてます」と伝えてから、役所をあとにした。
そして、宿に泊まろうと思ったのだが、
宿が見当たらない。野宿だけは絶対に嫌だ!!都会だとしても、野宿は嫌だ。
そんなことを思っていたら、ホテルの看板を見つけた。
ああ、なるほど。宿というような小規模な宿泊施設は無い、ということか?
それはそれでいい。
私は、ホテルに向かって走った。
ホテルは、想像以上のものだった。何十階という高さがあって、天に届くほどの高さだ。
中は、一階のロビーだというのに天井がものすごく高い。自然物に例えるのは不本意だが、そこらへんの木なんかよりもよっぽど高い。
これが、最先端のホテルなのか、
私は、大きく息を吐いてから、肺胞全体にこのホテルの空気を取り入れて全身に循環させた。
そしてロビーに行って泊まる部屋を見つけた。正直、この前の工場ばっかりの街でアダムと遊んだときよりも金がかかったが、仕方ない。今度、どこかでお金を稼がないといけないな。
ていうか、ここでお金をもらうはずだったのに、誰も覚えている人間がいない。
ほんと、所詮は人間の感性。勇者の裏に隠れていた私を褒めようとする人はいないわけね。
ホテルは、初めて乗ったのだがエレベーターという上下に移動する箱型、というか、個室トイレみたいな形の乗り物があったので、それに乗って移動していった。
いやしかし、いつの間にここまで進んでしまったのだろうか。
ほんと、勇者が魔王を倒してたった10年だ。10年で、ここまで人間は進めるのか。
やっぱり、捨てたものではないな。まあ、相変わらず馬鹿ばっかりだけど。
部屋の中も、とても綺麗だった。夜景という、人類の散布図も綺麗に見えた。
綺麗だとは思わない。素晴らしいな。魔王にも、見せてやりたい。たった十年で、お前に奪われていた土地をここまで発展させてやったのだ。
ざまあない。
「ハハハハハハ!!!」
そういって、ベッドに倒れ込んだ。この階は、何階かはわからないが、こんな高さまで水が届くのだ。
本当は風呂に入ろうと思ったのだが、疲れていたのか、私はそのまま寝てしまった。




