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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

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27 魔法使いの無力さ


『国王である父上から直々の任命だ。恐らくセシルへ課したのと同じ、国王を目指す上での試練だろう』


お前も付いてきたければそうしろと言ってくれたギルバート王子に、私も懺悔の気持ちで同行を決めた。

ギルバート王子にとっては、私に頼ってなんていうわけではなくただ私が暫定次期王妃である以上必要な経験として誘ってくれたのが大きい。

国王としてのというその想定も決して自惚れではなかった。セシル王子が精霊堕ちになってから間もなくのことで、私という王妃候補が招き入れられた後だ。

セシル王子が駄目だったから次は、なんて安易なつもりではなく国王も王子達への試練は断腸の想いだったに違いない。…………まさかゲームの各キャラクライマックスイベントだからなんて当時は考えなかった。


それでも、国王となるべき王子の力量を確かめる為にある程度大きな任務を授けることは当然の流れだと今も思う。

特に、エリアスが失踪したまま第二王子であるセシル王子が精霊堕ちになって、国王も危機感が高まっていたことは間違いない。無理難題を押しつけたわけではなく、セシル王子へと同じくギルバート王子なら為せる筈だろう、そして記録に残せるような功績になる仕事を任せた。


それこそが〝メルツの村復興〟の悲劇だった。


メルツと呼ばれる国内での辺境に近い場所に位置する小さな集落だけれど、辺境に近いからこそ国境を守る辺境拍が食料や必要物資の提供元として頼りにしていた産出地の一つでもあった。その村が大型魔獣の発生で壊滅状態に陥り、辺境拍から魔獣討伐と復興支援の嘆願依頼が城に届いた。

魔獣退治自体は、滞りなく解決した。普段よりはやや苦戦したものの、ギルバート王子と不死鳥そして国家討伐隊の協力で無事に討伐することができた。……ゲームであれば、これも私とギルバート王子二人で協力して討伐する筈だったのだけれど。

残念ながら現実は、ギルバート王子の「邪魔だ下がっていろ」の言葉をそのまま真に受けて、他の後方支援と一緒にただただ見守るだけだった。

私の力がなくても、魔獣は無事討伐した。ただその後の復興こそが本当の意味での国王からの試練だった。退治した魔獣の処理や食肉や骨の再利用処理までは難無くこなしたものの、集落を一つに纏めるのは並大抵のことではなかったと私もあの時初めて思い知った。


『小屋くらいなんとかしてくださいよ!このままじゃ冬を越せなくなる!!』

『なんの為にわざわざ都からきたんだおめぇらは!!』


農業や畜産で生計を建てていた村は、何よりも生活基盤で収入源にもなる畑や家畜に集中したがっていた。だから魔獣を倒して大喜びしたのも束の間に、まず村の人は「井戸を直してくれ」と訴えた。

井戸は、まだ良かった、ギルバート王子も水源の確保は必要だとすぐに兵に命じて修繕させた。ただ〝井戸〟から始まった次の計画はギルバート王子と村が望んだのは全く別の方針だった。

ギルバート王子が兵士達に指示したのは、周辺地域の徹底した魔獣調査と討伐。そして村が望んだのは家畜小屋と畑の再建と修復だった。

魔獣なんて一体出ただけで、普段は滅多に出ない。そんなのの確認よりも家畜と畑を元通りにしたいから、兵士にも手伝って欲しい。もしくは自分達が畑や家畜に集中できるように、民家を始めとする生活基盤復興を優先して欲しいと町の人達は懇願した。

老人や女性と子どもも多く、男出が不足していた中でギルバート王子が率いる討伐隊の復興助力こそが頼りだったからこそ本気の懇願だった。


『黙れ。計画に変更はない。全ては魔獣の影が一つもないと確認できた後だ』

自他共に厳しいギルバート王子は、その懇願にも揺るがなかった。

物言いが厳しい人なのはもとからだから私や討伐隊は慣れたものだったけれど、初めて現れた王子に一蹴された村の人達からは早々に批判と反発が湧き出した。

食料が毎日支給されていた間はまだ陰口が叩かれるくらいだったものの、魔獣の捜索を終えてようやく町の建築物や畑の復興にはいったところで早々に食料がつき始めてしまった。

食料を提供されるのが当たり前のように錯覚するほど麻痺してきたところでのそれに、最初から自分達の言う通りに畑や建物に集中していたら食料が尽きる前に終えたのにと村の不満は一気に膨れ上がった。

責任持って食料の供給を延長しろと批判する町の人達に、……そこで押し負けるギルバート王子でもなかった。町に援助できる食料の量は決まっている。無償で国から援助を受けているだけありがたいと思えと、その言い方が更に火へ油を注ぎ、とうとう決定的な軋轢を生んでしまった。



『この腐れ王子め!!』



もともと、村も治安が良い村というわけでもなかった。辺境地で、討伐隊どころか治安維持機関の目にも足にも届かないような場所だ。

大型魔獣にこそ叶わなかったけれど、野盗や獣を相手には自分達の手で解決するような荒くれ者が多かった。そんな中、最初は魔獣を退治してくれたギルバート王子達に畏敬を抱いていたものの、時間の経過と共に不満が爆発した。血の気の多い人達が率先して反感を声に出し、ギルバート王子を批判し始めた。

援助に来た筈なのに、村から出ていけと叫ばれたことも多い。老人や子どもは特に回りの空気に当てられたのか、まるでギルバート王子が村を壊滅状態にした犯人のような扱いになった。


いっそあそこで本当に一時退散していれば、お互い頭が冷えたかもしれない。けれど、ギルバート王子は逃げなかった。

国王に任された仕事であることもだけど、本人の気質が大きかった。町を復興するまではここから去るつもりはないと宣言し、けれど援助どころか村の人達からの当たりは厳しくなるばかりで、とうとう復興に手伝いにきたギルバート王子達を本格的に町から追い出そうとする動きが活発化し、彼らはギルバート王子や兵士達からの援助を受ける村人まで責めるようになった。

裏切り者、あんな連中の力借りやがってと村内での軋轢が生じ、いつの間にか王族派と反王族派で敵対するようになってしまった。

ギルバート王子も、あくまで復興だけで町の揉め事に関わる必要はないと復興作業に集中して揉め事には我関せずを貫いていた。……その結果起きたのが、抗争だ。


まだ復興作業中で、食料も水も労働も余裕がない生活が何日も続いて、心の余裕もなくなっていた。

小さなきっかけで抗争が起き、村を二分した殴り合いが悪化し殺し合いが起きて死人まで出た。とうとうギルバート王子も鎮圧に動き、不死鳥を使えば、新たな悲劇が起きた。

ギルバート王子は今までずっと魔獣に対してしか魔法を使っていなかった。それなのに、突発的に人間に向け、尋常じゃない威力を放ってしまった。

ギルバート王子派反対派関係なく村の人達に火傷を負わせ、せっかく復興させた建物や小屋もいくつか燃えてしまった。

ギルバート王子の魔法は焼いた後の場所に草木を戻すことはできるけれど、灰にした建物を戻すことも、そして死人を生き返らせることもできない。消火作業が早かった分、村全体に被害が広がることはなかったけれど、それでも気が付いた時には酷い状態だった。復興どころか建物は複数焼け、村人の殺し合いは死人まで出してしまった。暴動に巻き込まれて死んだ父親に泣く女の子が、茫然と立ち尽くすギルバート王子を幼いながらに睨んだ鋭い目は今も忘れられない。


『なんでっ魔獣はもういないのに……パパが死んじゃうの……?!』


悲痛な嘆きと問いに、ギルバート王子は言葉を失った。

そしてあれが決定打だったと思う。いくら言葉や態度は厳しくても、本当は心優しいギルバート王子だからこそ傷ついてしまった。茫然と佇んだまま全身から覇気が散っていく瞬間を見た。

女の子の嘆きを皮切りに、村中から罵詈雑言を浴びせられてもギルバート王子は何も言えなかった。

立ち尽くしたギルバート王子を、兵士達が下がらせていなかったらあのまま村の人達から無抵抗に八つ裂きにされていたかもしれない。本陣に戻っても復興の指示すらできず、一人にしろと部屋に閉じこもったギルバート王子はもう復帰することはなかった。

村の人達からの反感がギルバート王子一人に向けられたことと引き換えに、村内での軋轢は大分収まったもののそれで死んだ人が生き返るわけでも、殺した人が責められないわけでもない。村中に殺気を向けられたギルバート王子は城に帰ることになり、復興作業員の兵士達も共に引き上げた。

一年経った今、村はまだ存続はしているもののあの一件から村を去る人が途絶えず過疎化の一途を辿っていると噂で聞いた。


城に帰ったギルバート王子は、今まで見たことがないくらい深々と国王に頭を下げて謝罪した。自分が未熟だった、町の抗争も全て自分の責任だからと、…………一国の王子へ村の人達が犯した行いについても咎めないで欲しいと自分から願った。

国王もそれを受け入れてくれたけれど、ただそこでまた余計なことを言う上層部がいた。

反ギルバート王子派の人達からすれば、常に隙を見せないギルバート王子のようやく見せた弱味だった。常に伸びていた背筋を僅かに丸め、下を向いて歩くギルバート王子へ聞こえるようにせせら笑った。



『魔獣退治にばかり躍起になったが故に失敗するとは。しかもたかが村の復興に』

『まぁ仕方が無い。所詮、今までも必要とされてきたのは不死鳥だけだ』



普段ならどんな言葉でも間に受けない、鼻で笑い受け流すギルバート王子の心があの瞬間に折れてしまった。

あくまできっかけに過ぎない。きっとその前からギルバート王子の心は限界に近かった。それでも決定打を与えたのはあれだった。

全身の肌も髪の色も色素が落ち、その目からも光を失ってしまったギルバート王子は少女に叫ばれた時と同じように立ち尽くしたまま人形のように動けなくなってしまった。

それから部下達に介助され、医者のもとで精霊堕ちと判断されるまではすぐのことだった。


自分が正しいという絶対的な自信も、……それ以上に正しくあろうとする人だったから、心が限界を迎えてしまった。むしろそれまで弱音の一つも吐かなかったことがおかしかったんだと、今はわかる。

そして前世の記憶を思い出してしまった今はもっとわかったこともある。……あの時、ギルバート王子と村の人達との間を仲介するのが、私の役目だった。

『誤解です!ギルバート王子はそんなこと思っていません!』

『ギルバート!今夜暇だったよね?村の人達が夕食に招いてくれたから一緒に行こう!』

ゲームではスピカが積極的に町の人達と関わって仲良くなり、そしてギルバート王子にも村の人達の気持ちをわかって欲しいと取り持つことでギルバート王子への誤解も解けて和解し、復興も成功する筈だった。ギルバート王子の人への接し方も変化する大事な成長のきっかけでもある筈だった。


それなのに現実の私は、何もしなかった。

ギルバート王子が言うことに逆らう気にもなれなかったし、最終的に復興さえ無事成功すれば村の人達も納得してくれる筈だとしか思わなかった。ギルバート王子とゲームのように打ち解けてもいなかったし、そんな発言権もあると思えなかった。きっと言ったとしても、一蹴されていた。

もっとギルバート王子からの信頼を得ていれば、暴動も起こらず村の人が死ぬことだってなかった。


……ハッピーエンドルートで国王になったギルバート王子は、不死鳥に相応しい国王と国中に認められ、セシル王子に右腕として補佐されながらも威厳ある国王として兄弟達を統率していた。


『俺が国王となった以上、今までのように自由奔放でいられると思うな!』


厳しいことを言って弟王子達に恐れられながらも、なんだ仲の良い兄弟と、立派に国を統治する国王だったのに。


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