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第41話 宮廷の仲間と軋轢

ミラノの宮廷には、絵画や工芸に携わる者が数多くいた。

金細工師、建築家、画家、楽師――そのいずれもがルドヴィコに仕え、日々新しい技を競い合っていた。

僕はその中で「万能の職人」として迎え入れられた。


初めて工房に顔を出した日、年長の画家ゼナーレが声をかけてきた。

「君がフィレンツェから来た若造か。噂は聞いている」

彼の口調は穏やかだったが、瞳には測るような光があった。


宮廷の食堂では、同僚たちと机を囲むこともあった。

「次の祝祭には、またレオナルドの仕掛けが使われるそうだ」

「万能なのは結構だが、祭壇画はまだ完成していないのでは?」


笑い声と皮肉が混ざり合う。

僕は杯を置き、答えに迷った。


「仕掛けや機械ばかり作っていると、画家ではなく工匠と呼ばれるぞ」

そう囁いたのは若い画家ボルトラッフィオだった。

彼は好奇心と嫉妬を入り混ぜた目で僕を見ていた。


一方で、僕の周囲には理解を示す者もいた。

楽師たちは仕掛けと音楽の調和を語り合い、建築師は僕の水路の図面に興味を示した。

「君の発想は境を越えている」

彼らの言葉は励ましであると同時に、孤独の証でもあった。

画家として肩を並べるより、別の領域の仲間と語り合うことが多かったのだ。


ある日、ゼナーレが工房で僕の《岩窟の聖母》を眺めていた。

「柔らかい。だが、終わるのか?」

短い問いに返す言葉はなかった。

未完成の画面は、僕自身の迷いを映していたからだ。


ゼナーレはそれ以上追及せず、ただ肩をすくめて去った。

彼の沈黙こそが、最も鋭い批評だった。


夜、工房に一人残り、描きかけの板を見つめた。

同僚たちの言葉が耳に残る。

「万能の職人」――それは誇らしくもあり、画家としては半端者と呼ばれているようでもあった。


(僕は何者としてここにいるのか)


灯火の下で筆を握ったが、線は思うように走らなかった。

代わりに影を重ね、光を滲ませた。

その揺らぎの中に次の一歩が潜んでいる気がした。

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