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第46話 ルイス王子の逆襲

 マリーの左右から近寄る全身金属鎧に包まれた屈強な騎士が、空中を舞った。

 カイエンとシンが騎士を投げ飛ばしたのだった。


「貴様、何をする!」

「何をって、マリーを捕まえようとした輩を排除しただけだが?」


 ルイスの言葉にシンは当たり前のように答えた。

 そんなシンにマリーは驚いた。

 カイエンは何となく、強そうな気配があったのだが、シンも同じように強いとは思わなかった。


「おう、シン坊。ちゃんと訓練していたのだな」

「ありがとう、カイエンン兄さんに習っておいてよかった。好きな人を助けられたんだからな」

「たかだか、獣が二匹。鍛え上げられた騎士団の敵ではないのだろう。さあ、行け」


 残りの騎士が一斉に襲い掛かってきた。さすがのカイエンとシンの二人では押さえ切らない。その上、彼らは素手のシンたちに対して全く手加減していなかった。それでも一対一では、身体能力が高い獣人のシンたちの方に分がある。

 それに気が付いた騎士たちはシンたちに向かうものと、マリーをとらえるものに分かれた。


「キャー!」


 とうとう、マリーは騎士の一人に捕まったのだった。

 それにシンが気が付いて、目の前の騎士を躱してマリーの元に行こうとする。


「マリーを離せ」

「悪いが、行かせるわけにいかないんだよ。死ね!」

「だめー!」


 シンがマリーに気を取られた隙に、殺意にまみれた剣がシンに襲い掛かる。

 ガキン! ゴキン!

 二つの金属音が市場に響き渡った。

 ハンマーが、シンに襲い掛かる騎士と、マリーを捕まえていた騎士に襲い掛かった。


「ボンと若奥さんに、なにしやがる!」


 そこには、保育園を改造してくれた親方がいた。

 いや、親方だけではない。大工のみんなも、ハンマーやのこぎり、ノミなどを手に騎士たちを睨みつけていた。


「たかだか、猿が数人増えたからなんだ!」

「若奥さんにお世話になってるのは、ワシらだけかと思っているのか? なあ、皆の衆」

「そうだ。マリー先生を連れていかれたら、子供たちが悲しむんだよ」


 そこには羊の獣人のウルの父親をはじめ、街の人たちが集結していた。

 その数は騎士の数を大きく上回っている。

 数で圧倒された騎士たちはマリーを捕まえるのをあきらめて、ルイスとアイリスを守るように円陣を組んだ。


「殿下、このままでは殿下が危険です。一度、船に戻りましょう」

「何を馬鹿なことを、たかだか獣人じゃないか。お前たちは精鋭の騎士だろう」

「我らがたかだか獣人ごときに負けるわけはありません。しかしお二人を守りながらとなると、この数は脅威になります」


 騎士団長らしき男が周りを警戒しながら、王子に進言する。

 その提案にルイスは不機嫌な顔をして、命令しようとした時、ルイスの手綱を握るものが声を上げた。


「ルイス、こんなところで小競り合いする必要はないですわ。あの咎人の判断がどれほど愚かか、思い知らせればいいのではないでしょうか?」

「おお、それもそうだな。お前たち、船に戻るぞ」


 ルイスたちは停泊させていた小舟に飛び乗ると、軍艦へと戻って行った。

 その様子を見て、街のみんなは勝どきを上げる。


「ザマ―ミロ!」

「おととい、来やがれ!」

「マリー先生は連れて行かせないぞ!」

「マリー大丈夫だったか?」


 シンはルイスたちを気に留めることなく、マリーに近づいた。

 しかし、マリーはルイスたちが行った先を見て、恐怖を覚えた。

 その船には横っ腹には砲門が三つ。それが沖から街に向いている。この獣人の街に警察はいる。しかし、大規模な軍隊はない。そんな必要のない平和な大陸。

 だからあの砲門の意味を獣人たちは知らない。

 それもあの砲門はマリーが承認して作らせていた、最新型の大砲だった。

 それが左右で六門も持っている軍艦一隻でも、街に多大な被害を与えるだろう。

 大砲は街を狙うべく、照準を付け始めていた。


「みんな、逃げて!」


 マリーの叫び声は、大砲の発射音にかき消される。

 三つの真っ黒な砲弾の一つは、マリーたちの目の前の海に落ち、大きな水しぶきを上げ、興奮している獣人たちに海水を降り注いだ。

 そして残りの二つは耳を押える獣人たちの上を飛び越し、街に落ちた。そのひとつは、保育園の方向だった。

 突然のことにあちらこちらから悲鳴が上がる。

 そんな中、カイエンは声を上げた。


「みんな落ち着け! あの船は俺たち海の民が何とかする。シン、地上のみんなを避難させろ」

「分かった! さあ、マリーも行くぞ!」


 マリーはシンに引っ張られても、船の方を見て動かなかった。

(私のために、大好きなこの街が壊される。私さえ、王子の言う通りにすれば……)

 マリーは船に向かって叫んだ。


「殿下! おやめください!」

「やめてもいいが、それがどういう意味を持っているか分かってるんだろうな」


 マリーの叫びに、ルイスは拡声器を使った回答を返した。

 それは、マリーの意志で国に戻り、その身をルイスのために一生ささげると宣言させるものだった。

 この街に着いたときは、冤罪が晴れることを信じ、国に帰ることを願っていた。しかし、今はそんな気持ちは全くない。この街で、愛する人と愛する仕事をしながら暮らしていきたいと心の底から願っている。

 しかし、それ以上によそ者であり、人間である自分を暖かく迎えてくれたこの獣人たちの街も大好きになっていた。

(ああ、マリア様もこんな気持ちで、海神様の元に嫁いだのだろうか?)

 しかし、今のマリア様は海神様の所に嫁いで、とても幸福そうだった。

(今の私は、どこでだって生きていける。さようなら、シン)

 そう決意したマリーは、再度、ルイスに呼びかけた。

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