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第22話 保育園に対する嫌がらせ

 保育園の無償のお試し期間が終わり、保育園も平常運営に切り替わった。

 無償期間が終わり、園児が激減するのではないかとマリーは心配していたが、思ったほど減っていない。

 その上、クロエはモレナが初めて保育園に来た日しか手伝いに来てくれなかった。

 つまり、シンとマリーは非常に忙しい日々を過ごしていた。


「遅くなっちゃったわね、シン」

「ふぁー、そうだな」


 マリーはシンとともに保育園に残っている。午後保育も始め、夕方園児を送り返した後、日が落ちた後も片付けや書類作りをしていた。


「クロエさんに怒られるわね」

「怒ると言うよりも心配してるんだろうけどな」

「そうね、は……」


 ガシャン!


 早く帰りましょうと言いかけて、大きな音に遮られた。

 普段聞かない音に、マリーとシンは顔を見合わせた。


「なに?」

「わからない。外からみたいだな。様子を見に行ってくるから、マリーはここにいろ」

「嫌よ、私も行く」


 立ち上がったシンの腕をマリーは掴んだ。

 何があったのか分からない状態で、暗い部屋にひとり残されるよりも、シンの側にいる方がマリーは心強かった。

 怯えるマリーを見て、シンも側にいる方が良いだろうと考えた。


「わかった。俺から離れるんじゃないぞ」


 シンはマリーを後ろに隠しながら、慎重に音がした外に出ていった。玄関に置いてある、防犯用の木の棒を手にして。

 薄暗くなっている外は、半月の月明りのみである。

 シンは辺りのよう様子を伺っていたが、何かがいるような気配はなかった。


「なにもなさそうだな?」

「あ、あれを見て」


 マリーが指さした窓は、ガラスが割れていた。

 シンは泥棒が入り込んだのかと目を凝らしたが、窓は開いておらず、人が通れるほどもガラスは割れていなかった。


「とりあえず、部屋の様子を見に行くか」

「大丈夫なの?」

「まかしとけって、何があってもマリーだけは助けてやるから」


 そう言って、シンは手にある木の棒を振って見せた。

 一応、シンは一通り武術を習っている。本人はあまり真面目にやっていなかったが。それでも、心得があるかどうかは大きな差がある。

 しかし、そんなシンを見て、小さな男の子が良さそうな棒を見つけて嬉しそうに振り回しているように見えて、何となく可笑しかった。


「ありがとう、シン。でも、無理はしないでね。シンがけがをしたら、私悲しいわ」

「そ、そうか? とりあえず、部屋に戻ろうか」

「そうね」


 シンとマリーはガラスが割れた部屋に入ると、ガラスが割れた理由がすぐ分かった。

 外から石が投げられたのだ。


「なんで、こんなものが?」

「わからないわ。ただのイタズラかもね」

「そうだといいがな。明日の朝、警察に相談しとくか」

「そうね」


 なぜ石が投げ入れられたのか分からないが、園児たちがいないときで良かったと、マリーは考えながら割れたガラスの片づけを行った。


~*~*~


「シン様、何か恨みを買っていませんか?」


 今日の出来事を聞いたクロエは、真っ先にシンへの怨恨を疑った。

 

「なんで、俺が恨まれるんだよ。愛されキャラの俺様が」

「そう言われましても、いたずらでレトリー家の屋敷に石を投げ入れるような人間は、この街にはいないでしょうし、この街に来て日の浅いマリー様が恨みを買うと言うのも考えずらいのです」

「まあ、そうだな」

「ですから、シン様への恨みで嫌がらせをしているとしか考えられないのですよ」


 夕飯後のコーヒーを出しながら、名探偵クロエは淡々と語ったのだった。

 二人の話を静かに聞いていたマリーが口を開いた。


「もしかして、シンに略奪愛された男の人が恨みを持っているとか、シンが振った女性の嫌がらせとか?」

「おいおい、まるでクズ男みたいな言い方だな」


 心底心外だと言わんばかりにシンは、抗議の声を上げた。

 それに対して、クロエもマリーの言葉に反論する。


「マリー様、いくら何でもそんなことはありません。シン様は略奪愛ができるほどの器量はありません。また、女性に振られることはあっても、振るようなことは今まで聞いたことがありません。シン様は色々クズですが、こと色恋沙汰に関しては真面目ですよ」

「そうそう、色恋沙汰だけは真面目って、おい。色々クズってなんだよ」

「ああ、これは失礼しました。シン様は色々やらかして、トニー様にもレベッカ様にも大変迷惑をかける方ですが、色恋沙汰は綺麗なものですよ」

「まあ、親父にも姉貴にも迷惑はかけてるがな……」


 クロエの言葉に、シンはシュンとしてしまった。

 そんなシンを見て、思わず可愛いと思ってしまうマリーは、気を取り直して、今回の件の疑問を口にした。


「でもなんで、保育園に嫌がらせなのかしら? もう帰る直前だったから、外から見たら誰もいないと思うんだけど」

「それは、わかりません。もしかしたら、ただのいたずらかもしれませんし、そうでないかも知れません。ただ、これからはお二人とも気をつけてください。これからは送り迎えは馬車を使ってくださいね」

「そんな、大袈裟ですよ」


 クロエの提案に、マリーは驚きの声を上げた。

 基本的に馬車を使うのは貴族である。元伯爵令嬢として初めは馬車を使っていたマリーではあるが、保育士としてのマリーは馬車を使っていない。貴族が保育士となると、保護者がしり込みするだろうとの考えからだった。ちなみにシンは貴族として知れ渡っているが、貴族らしくないので誰も気にしていないだろう。

 そのため、これまでは徒歩で保育園へ行っていた。

 しかし、クロエは一歩も引かなかった。


「だめです。お二人に何かあっては困ります。もしも馬車を使用していただかなければ、屋敷から出すことは出来ません」


 クロエにそう言われれば、マリーとしては従うしかなかった。

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