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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
陰謀編

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久しぶりの二人と寂れた町

 うひょひょひょっ、笑いが止まらん!!

 今度の新商品、このカップ一式ティーセット、売れちゃう。売れちゃうよぉ。

 鍛冶で特別な力を付与出来るならば、他の物を作ってみても良いじゃない?の精神で、カップを作る時に魔力を流しつつ、アバンセ木炭で焼いてみた。

 そしたらさぁ、保温率半端ねぇカップが出来ちまったのよ!!

 それにレオの話だとニーナが口コミで広めてくれた面もあるらしい。やっぱりプレゼントして正解だったぜ!!

 しかしスヴァル海商は馬鹿だね!! 商工ギルドなんかに従わねぇで、俺等を傘下に加えときゃ今ごろウハウハだったのに!!

 ちなみに後ろ盾の話だが、出来たんだなこれが。

 傘下に加わるわけではないが、四大商会の残りの二つ、サタ商会、オリエンタル商会にうちの商品を卸す事により、後ろ盾に近い立場になってもらった。

 そもそも最初の段階で俺達を引き受けても良いと言っていた商会でもある。

 順調や!! 順調やで!!


 ちなみにではあるが『アバンセの血が回復薬として、エルフの町に長く住む住人にしか効果が無い』事と、アバンセ木炭やパル鉄鋼には関連する部分がある。

 それは竜との距離の近さや、接する時間の長さにより、力の恩恵が大きくなるという事だ。まぁ、俺の推測だけどな。


★★★


 カランッとお店の扉に取り付けた小さな鈴が鳴る。

 いらっしゃいませ、と振り向いたキオの動きが止まる。当然だ。そこにいたのは身長二メートルを超える熊……の獣人だった。

 しかしその隣には茶色いフワフワとした髪から熊耳を見せる少女。

 久しぶりの二人。もちろんそれは……

「ビスマルクさん、それにリコリスも!!」

「久しいな、シノブ」

「ここがシノブのお店なのね? 旅している間、あなたの商会の話は何度も耳にしたわ。凄いわね」

「……えっと、リコリス? マジで?」

「ええ、私はリコリス。マジよ。って言うか何がマジなのよ?」

「だって……身長が……」

 リコリスの野郎、身長が伸びてやがる!! 俺を越えられた!!

「わたくし成長期ですから。逆にあなたはどうしたのよ? 呪いにより時間の理の輪から取り残されてしまったの?」

「やっぱりこれリコリスだわ」

「これって言わないで!!」

「ガハハハハッ、確かにシノブ、お前、見た目は全く変わっていないな」

「これからだから!!」

 そしてそこにフレアとホーリー。

「シノブ様のお知り合いですね。私はシノブ様のメイドをしているホーリー。こちらは姉のフレアです。お茶を用意しますのでこちらへ」

「どうぞ」

 二人が微笑む。


 応接室。

 フレアは紅茶を、ホーリーはお茶菓子を。それぞれをビスマルクとリコリスの前に置く。

「ではシノブ様。何かありましたらお呼び下さい」

 そして二人は応接室から出ていくのだった。

「これが最近、売り出した新商品だな。入れた飲み物が冷めないのだろう?」

 ビスマルクは大きな爪を上手く引っ掛けカップを手に取る。

「冷めないわけじゃないけど、朝入れたら昼過ぎぐらいまでは温かく飲めます。ビスマルクさんにも一式あげますよ」

「それは嬉しいが、高価な物だろう? 貰うわけにはいかない」

「……と、パパは言っていますので、わたくしが貰います。シノブの好意を無にするわけにはいかないわ」

「……リコリス」

「だ、だって、欲しいんですもの!! 高くて買えないんですもの!!」

「えっ? リコリスにあげるとは言ってないんだけど?」

「酷い!!」

「あはははっ、今のリコリスの顔、笑えるぅ~」

「これが成金のお遊びかぁ~地獄に落ちろぉ~」

「冗談だって。そもそも知り合いには全員あげているんだから。ビスマルクさんも気にしないで下さい」

「駄目だ」

「ううっ……」

「……本当に気にしなくて良いのに……」

 ちょっと可哀想だが、父親が言うなら仕方ねぇ……


 二人は竜の罠を出た後、大陸中を旅して回っていた。もちろん世界をリコリスに見せる為。

 そしてその途中、立ち寄った小さな町。

 昔は城を中心とした城下町だったが、時代の流れと共に住人は減り続け、やがて城主は死に、その跡継ぎもいない。廃墟となった城と、少しだけの住人が残る小さな町。

「その城に何かが住み着き、一人の少女を連れ去った」

「何か、って何ですか?」

「分からない。しかしアンデッドを使う存在だ」

 もちろん町の住人達は少女を取り返そうと武器を手に城へと向かうが、大量のアンデッドにより助ける事が出来なかった。

「でも王国なり領主なり冒険者なりに助けを求める事が出来ると思うんですけど」

「もちろん事情を知って私もそう提案はした」

 すでに町の住人は何度も助けを求めているらしいが、王国側は調査をするの一言でまるで動いてくれないらしい。一度、冒険者にも頼んだが返り討ちに。

「そこで私とリコリスも城に向かったんだがな……」

「助けられなかったと」

 俺の言葉にビスマルクは頷く。

「強くは無いけどとにかく数が多過ぎ。それに城自体に何か結界が仕掛けてあるようでしたわ」

「私達も魔法が専門ではないのでな。二人だけでは助ける事が出来なかった」

 基本的にいざこざはその土地の住人達が自ら解決する事が多い。対応出来ない問題には王国の関連機関が対応に当たる。場合によっては冒険者に依頼する事も。

 しかし王国の関連機関は対応が遅くなる事がある。俗に言うお役所仕事ってヤツだな。

「そこでシノブに頼みがある。助けて欲しい」

「でもたまたま立ち寄った町でしょう? 王国の対応を待っても良いんじゃないですか?」

「シノブ!! あなたって人は薄情ですわ!!」

「リコリス、分かってる? ビスマルクさんとリコリスの二人で助けられなかったんだよ。つまり相手の最低ラインの強さがそこ。それより上となったら命を懸ける可能性もある。そこまでする覚悟があるの?」

「だ、だからって見捨てるつもりですの!!?」

「リコリス、少し黙りなさい」

「でも!!」

「リコリス」

「んぐっ」

 ビスマルクはテーブルの上に布の袋を置く。中には硬貨が入れられていた。これは町の住人から集めたものだろう。そしてきっとビスマルクの全財産も。

「シノブ。商会の稼ぎに比べれば微々たる額だろう。普通に働いているお前に頼むのも筋違いだと思う。それでもこれで助けを頼みたい」

 ビスマルクが頭を下げる。

「どうしてビスマルクさんがそこまでするんですか?」

「……連れ去られた少女なんだが、リコリスと同い年でな。それを聞いたら我慢出来ないだろう?」

 ビスマルクは笑った。

 聞いた話だと連れ去られてから、ある程度の時間が経過している。その町からここへ来るまでにもかなりの日数が掛かっているはず。

 そしてその間、城に住み着いた何者からの要求が無い。つまり人質として連れ去ったのではない。

 監禁など、生きていればまだ良い。しかし最悪は死んでいる可能性だって……でも……

「分かりました。こんなにお金をいっぱい貰えるんじゃ断れません。守銭奴シノブとしては」

 俺も笑うのだった。


★★★


「そんなわけで私は少し休むから」

「もちろん姉共々ご一緒します」

「あ、あの、わ、私もシノブさんの助けに、な、なりたいです」

「姐さんが行く所なら何処へでもお供しますぜ」

「ちょっと待て、みんな、お店どうするつもり?」

「大丈夫です。ミツバ様の工房から少しだけ人をお借り出来れば問題ありません」

「レオさん、いつもありがとうございます。でもこれはあくまで私が知り合いから受けた個人的な用事だよ? 場合によっては命懸けるよ?」

「なおさら姉共々絶対にご一緒します」

「い、命懸けます」

「行くっす」


「私はビスマルク・ポーリン。今回、シノブに助けを求めたんだが、みんなも手伝ってくれるとの事で感謝する」

「このわたくしこそ偉大なる元国境警備隊ビスマルク隊長の一人娘にしてその名も」

「普通にしなさい」

 パカンッ

 ビスマルクに頭を引っ叩かれるリコリス。

「アダッ、ちょ、ちょっとパパ!! 今、凄く良い所なんですけど!!」

「リコリス」

「うっ……リコリス・ポーリンです」

 二年前も同じ光景を見たな……

 そんなわけで、いざ出発!!


★★★


 最近になって知った話だが、アバンセ達は竜脈からエネルギーを送り、大地を安定させている。

 つまりあんまり連れ回したりしない方が良いらしい。

 それに幸いにもガーガイガーの道場が近くにあるらしいので、今回はサンドンの所の瞬間移動装置を使わせてもらおう。


 そして……すっげぇ寂れた町。

 四方八方を囲まれた山間にその町は存在した。

 元々は名のある貴族が別荘として城を建てたらしい。やがてそこに城下町が生まれ、観光地となる。

「観光になるようなものがあったんですか?」

「昔は温泉があったらしいぞ」

 温泉!!

「ん?……昔は?」

「ああ、今は枯れてしまったらしい」

 それが寂れた原因でもあるのか。

「うわー残念」

 ビスマルクに連れられて町の代表に引き会わされた。

 粗ま……じゃなくて質素な作りの木造の家。

「ビスマルクさん、こちらの方々は?」

「前に話したが、この子が私達の助けになってくれるシノブだ。歳こそ若いがその力はこのビスマルクが保証する」

「シノブです。こっちは私の仲間です。みんな頼りになりますよ」

「アッキーレ・アンチェロッティです。ここの町長をしています。よろしくお願いします」

 歳は五十代の後半だろうか。中肉中背、あまり特徴の無い人間の男性だった。

 アッキーレから町の状況を聞く。


 町の異常……特に無し。

 ただ廃墟となっていた城に入るとアンデッドが現れる。中に入りさえしなければ何も起こらない。少女が連れ去られたのも最初の一人だけで、それ以降は誰も被害に遭わない。

 目的は全く分からない。しかしアンデッドが現れる以上、そこには何者かが確実に居るのだ。

 説明を受けて、俺達は外に出る。

 少しだけ小高い丘の上、木々の向こうに寂れた城が見えた。

「キオ。ちょっと見てくれる?」

「は、はい」

 キオはサングラスを外した。その左目がキラキラ輝き、瞳の中、様々の色の流れが生まれる。

「それが聞いていたカトブレパスの瞳か」

「凄く綺麗だわ。『疼く、左目が疼く』とか台詞を入れれば完璧ね」

「リコリス。残念な方に育ってるけど、それが好き」

「誰が残念なのよ? シノブのバカ」

「リコリスのアホ」

「二人とも遊んでいる場合か?」

 ビスマルクの目がギラリと光る。

「ひぃっ」「ひぃっ」

 怖い!!

 城の方を見詰めていたキオがやがて言う。

「……ダ、ダメです。クテシアスさんの時と同じような感じです……ごめんなさい……」

「充分。やっぱり誰かいるって事だからね」

 日はまだ高い。

 少しでも情報収集をしよう。

「ホーリーはキオとここに残って出来るだけ多くの住人から話を聞いて」

 普段なら『シノブ様と一緒に行きます』と言いそうなホーリーだが。

「承知しました」

 納得が早い。

「キオ。住人の話に違和感があったら、どんな小さい事でもホーリーに伝えて。それと絶対に離れて行動しないで。分かった?」

「は、はい」

「残りはお城に向かってみるよ」

 みんなが頷く。

「お願いします……どうか……どうか娘を……助けて下さい、お願いします……」

 そしてアッキーレは深く頭を下げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜に近いと恩恵が凄いならアバンセとパルで重婚したら、恩恵も倍々になると
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