急展開と加盟
パル鉄鋼の扱いを止めてもすでに許されない。届け出無しで営業をした事による罰金が発生して、ギルド加盟金に上乗せ。もう払えるレベルじゃねぇ。
このままだと残された道は、資産売却等で罰金を払う。そしてギルドへの加盟を諦めて、お店は終わり。さらに以後は商売が出来ないようにペナルティとか喰らわせられるかも。
はっきり言って、俺んトコに対する対応は異常。
その異常を『商工ギルドの決定なので』の一言でゴリ押ししてくる……
そんな時である。商工ギルドを探っていたレオから情報を貰ったのは。
「商工ギルド内におけるシノブ様の存在ですが、かなり高い評価をお持ちです」
「おおっ、それは嬉しい」
「同時に有能過ぎて危険視されています」
「はぁ?」
「しかし引き受けたいという商会もいくつかあったと聞きましたが、その優秀さ故に内側から乗っ取られると」
「冗談ですよね? 商工ギルドはそんな話を信用しているんですか?」
「もちろん、最初はただの冗談だと思っていたらしいのですが、セレスティ様がモア商会の血縁者であると……つまりシノブ様を引き受けるという事はモア商会の人間を傘下に加える事と同じとの主張があったそうです」
お母さんの素性を調べたのか……
四大商会……表向きは互いに距離を取り、絶妙なバランスで経済を回しているが、裏では熾烈な争いを繰り広げる商売敵。
身内にモア商会の関係者を加える危険性を考えれば、どこも俺達を傘下に加えようとは思わないだろう。
「それって、どこの商会が主張したか分かりますか?」
「ええ。モア商会です」
「うっそ? な、何で?」
「分かりませんが、確かな情報です」
モア商会がお母さんと本当に繋がっているなら、秘密にしていた方が良い情報だ。他の商会の傘下にさせ、スパイのように使えば良いのだから。
なのにその主張をモア商会がするのか?
「……それで?」
「はい。シノブ様が以後の商売を出来ないよう徹底的に潰す事になったそうです」
……無理じゃね?
言うなれば相手はプロ、こっちは素人みたいなもん。相手に本気で来られたら、俺に逃げ道とか無くね?
しかし何でそこまで俺が目の敵にされなきゃならんだ!!?
★★★
「お母さぁ~ん!! お母さぁ~ん!!」
「あら、どうしたの?」
「モア商会だよ!! アイツ等が邪魔してんだよ~!!」
俺はお母さんにガバッと飛び付き、事の詳細を説明する。
「……シノブはどう思う?」
「ここまでされる理由が見付からない。商工ギルドとして合理的じゃない」
「商工ギルドとして合理的じゃない理由なら?」
「……お姉ちゃんに聞いたけど……お母さん、モア商会の一人娘なんだよね? お父さんと駆け落ちしたんだよね?」
「……そうよ」
「だったら……駆け落ちしたお母さんへの嫌がらせ。それともう一つ。多分こっちが本命だと思う」
「……」
「……お母さんを連れ戻す為」
お金に関してどうにもならなければ……結果、私に何か不利益があるとしたら……最終的にお母さんはモア商会に助けを求めるだろう。その対価は家に戻れ……そういう事じゃないのか?
「お母さんもそう思う」
「ごめんなさい……私が調子に乗っていたから」
そうだ、浮かれていたんだ。大金が絡む事。もっと慎重に物事を運ぶべきだった。最初から商工ギルドにきちっと加盟しておけば……
「……いつかはモア商会と関わる事になると思ったけど、まさかこんな形だなんて。お母さんも思わなかった」
「何か手はある?」
「……」
異端のエルフ、モアップモアモア。
基本的にエルフは金銭への執着が薄いが、彼は違った。金のにおいに対する鋭い嗅覚、未来を見通すような勝負勘、その有り余る商才で大陸でも有数の大商会を一代で作り上げた。
それがモアップモアモアのモア商会。
もしかしてどうにもならんか?
しかし事は急展開。
俺の知らない水面下で話は進んでいるのだった。
★★★
それは商工ギルドからの手紙だった。
「意味分かんねぇ、マジで意味分かんねぇ」
罰金無し。
しかしパル鉄鋼の提供を他の商会に出来ないなら、今後もその使用を禁止する事。
これなら商工ギルド加盟金をギリギリ払える。
しかし何で急に?
考えられるのは商工ギルドへの圧力。ただ俺を助ける利点があり、商工ギルドよりも大きな力を持つ誰か。そんな奴がいるとは思えん。
そもそも商工ギルドに圧力を掛けるなんて、王族くらいだぞ?
誰だよ、これ? 一体誰が利益を獲てんだよぉ?
とりあえずギルド加盟金は払っちまうか!!
そんなワケで無事に商工ギルドへの加盟をしちゃうのでした。
★★★
「あなたがシノブさん?」
それはお店での事。
品の良い女性だった。纏う雰囲気がどこか優雅で洗練されている。栗色の髪、そして緑掛かった瞳、年齢は三十代だと思うんだが、まぁ、綺麗なお姉さんって感じだよな。
「はい、私がシノブですけど、どうかされましたか?」
「このランタン……」
「ああっ、すみません、実はパル鉄鋼が使えなくなりまして。でもそれに近い仕上がりになっていますし、品質は保証しますよ」
ふっふっふっ、パル鉄鋼は使えないが、普通の鉄でも魔力を流しつつアバンセ木炭を使えば、良い品質の物が作れるんだぜ。
「いえ、そういう事が言いたかったのではなく、このランタンを作った子がどんな子なのか興味がありまして」
その時、レオが俺を呼ぶ。
「ちょっと失礼しますね」
女性から少し離れると、レオが小さく言う。
「あの方、それなりの身分と見受けられます」
「了解」
つまり特別な接客をして逃がすなって事だよな!! しかも新商品のアピールに調度良い!!
よっしゃ、俺の営業スマイル見せたるで!!
俺は女性に微笑んで言うのだった。
「よろしければ向こうでお話でもしませんか?」
★★★
俺はカップに温かい紅茶を注ぐ。実際にはえらい長い名前のお茶だが、俺は味が似ているので紅茶と呼んでいた。
応接室の中には俺と彼女だけ。
彼女は紅茶を一口。そして微笑む。
「おいしい」
「ですよね。この辺りで取れる茶葉なんですけど凄く品質が良いんですよ」
これもアバンセが近くにいる影響か。
「では改めて。私がこの商会の代表をしていますシノブです。初めましてです」
「ふふっ、初めまして。私はニーナよ。よろしくね」
温和そうな女性だ。
「はい。よろしくお願いします」
俺も笑顔で返す。
「本当にお若いんですね。歳は十六と聞いていますが、態度も落ち着いていますし、その年齢でお店を持っているなんてとても立派です」
「それ、みんなに言われるんですけど、本当~~~っに周りの力が大きいんですよ。発想はしますけど、それを形にしてくれるのは工房のみなさんですし、お店の経営は母に任せっ放しですし。思い付いた事を言うだけなら誰でも出来ますから」
「でもその発想部分が素晴らしいと思います。あなたのランタンは私も使っているんですが、やっぱり他の物よりも使いやすいから」
「そう言って貰えるとありがたいです!!」
「どうして最初にランタンを?」
「そうですね~実はこれって私の生い立ちに関係があるものなんです」
「生い立ち……それは私が聞いて良いものなの?」
「別に隠しているわけではありませんし構いません。それに私のランタンを褒めてくれたから」
普段はあまり話す事は無い。でもニーナの顔を見ていたら別に話しても良いかなと思ってしまった。
「私は生まれてすぐに大森林の中に捨てられまして、その私を拾ってくれたのがエルフの今の両親です」
「……」
「エルフは種族的に夜目が利きます。だから夜は基本的に明るい光を必要としません。けど私は種族的に人間でエルフ程に夜目は利きません。子供の私が怖がると思ったんだと思います。両親が家の中にランタンをいっぱい置いてくれたんです」
あの光景は今思い出しても笑ってしまう。
「ランタンの隣にランタンを置いて、その上にランタンを吊るして、よく見たらその下にも奥にもランタンが置いてあって。幼いながら『こんなに明るくしてどうするの?』と思っていました」
「本当に嬉しそうに笑うのね」
「嬉しい……そうですね。嬉しかったです。だって私だけの為のランタンでしたから。両親から……お父さんとお母さんから貰った、私だけの贈り物……」
「そうなの。良いご両親に拾われたのね」
ニーナも微笑む。
「だからかも知れません。お店をやる時にランタンを選んだのは」
うん、きっとそうだな。
「……聞いて良い?」
「何でしょうか?」
「シノブさんが幸せに暮らしているのは、今の笑顔を見れば想像が付きます。でも自分を捨てたご両親の事を恨んでいないの?」
「結果論ですけど、恨んではいませんよ」
「結果論……」
「はい。奴隷商に拾われて、酷い生活をさせられていたら、きっと恨んでいたと思います。けど今の私は良い両親に恵まれ、良い友人に恵まれ、充実した毎日を過ごしています。だから産んでくれた事には感謝しています。でも……」
「……」
ニーナが次の言葉を待つ。
「やっぱり私を捨てた親ですから。理由があったとしても会いたいとは思いません」
「そうね。その気持ちはよく分かる」
「あっ、でもでも。『私は幸せだよ』って伝えるぐらいは良いかな」
俺は笑った。
そしてニーナも笑う。
「シノブさんの想い、届くと良いですね」
その後、取り留めの無い話をして。
「シノブさん。色々と話を聞かせて下さってありがとう。また今度も付き合って頂けるかしら?」
「それはもちろん!! あっ、紅茶、新しいの入れましょうか?」
話に夢中でカップの中の紅茶はほとんど残っていた。
「ありがとう、もう大丈夫よ」
そう言ってニーナはカップを手に取って一口。
よっしゃぁぁぁっ!!
驚いた表情のニーナ。これを待っていたぜ!!
「温かい……もう随分と時間が経っているのに……」
「そのカップ、今度の新しい商品なんですよ。もしよければ使って、次の時に感想を下さいね」
俺はカップを一式、ニーナにプレゼントするのであった。




