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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
陰謀編

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スヴァル海商と交渉結果

 なんと立派な応接室。

 派手ではないが、存在感のあるテーブルやイス、やっぱりお高いんでしょ?

 そこに通されたのは俺とキオ。

 嘘に敏感なキオの力はこういう場では凄く頼りになる。なので一緒に居てもらった。

「お待たせしました。オウラー・スヴァルです」

「シノブです。それと従業員のキオです」

「おおっ、キオさんがしているのがサングラスですね? 私の商会の中でもランタンと共に話題になっていますよ」

「すみません、キオは目が悪いものでサングラスをしたままで良いでしょうか?」

「構いませんよ、気にしないで下さい」

 オウラー・スヴァル。四十代、ニコニコとした温和そうな表情、人の良さそうなおじさん。まぁ、スヴァル海商の代表、雰囲気に騙されちゃならん。

「それにしても、噂には聞いていましたが、本当にこんなお若いとは」

「始めたのは私ですが、周りに助けられている面がかなり多いんですよ。キオもこう見えて記憶力や計算能力は人並み以上なんです。だから今日も一緒に居てもらっています」

「そうなんですね。ではお話を聞きましょうか」

 オウラーはニコッと笑った。


★★★


「簡潔に言うと、シノブさんはお店の経営権を渡し、こちらにはその際に掛かる費用を負担する。そうして傘下に入りたいと」

「はい。お願いしたいです」

「さらにシノブさんの所の、従業員の雇用を約束する……随分と強気な要求ですね」

 オウラーは小さく笑う。

「現時点で私達が扱うランタン、その性能は他より優れています。それは王族や貴族など、それなりの地位の人達にとっては決して落とせない部分です」

「その通りですが、それは『現時点で』の話です。そのうち同程度の品質の物は出来上がるでしょう。それはサングラスも同じです。パル鉄鋼が扱えないのであれば、シノブさんを傘下に加える意味がありません」

「パル鉄鋼を扱えなくても充分な利益を得る事が可能だと思います」

「確かに可能でしょう。ただ今のシノブさんを傘下に加える事のリスクを分かっていますか?」

「商工ギルドですよね」

 商工ギルド、数多くの商会が登録している団体ではあるが、団体自体の意思決定は四大商会によって行われている。

 つまり俺の商会に対する決定は、四大商会によって決められたもの。

 スヴァル商会が俺の助けに入るなら、それは他の三つの商会に対する裏切りとも取られる。そのリスクを冒してまで俺の商会を助けるのか?

「商工ギルドの決定である以上、私達にはどうする事も出来ません」

「もちろんそれは分かります。でもこれならどうでしょうか?」

 俺は一振りの短剣を取り出し、オウラーの前に置く。

「手に取っても?」

「どうぞ」

 オウラーは短剣を手に取るとすぐ気付く。短剣の刀身に刻まれた魔法陣。それは初歩的なもの、マッチ程度の火を作り出す魔法陣だった。

 そしてその反対側の刀身には別の魔法陣が刻まれている。こっちも簡単な魔法陣だ。ただこっちは水滴を生み出すもの。

「まさか……そんな……」

 オウラーは言葉を失う。


 俺は前々から不思議だった。

 リアーナの武器とロザリンドの武器。魔導書の使用を省く為に、武器には身体強化の魔法陣が刻まれていた。何故、もっと多くの魔法陣を武器や防具に刻まないのか?

 それは実に簡単な答えで、複数の魔法陣を刻んだ場合、刻まれた武器や防具が破損してしまうのだ。

 ただ一つの例外が魔道書。

 それがどんな原理なのかは分からない。ただそういうものだと思っていた。


「……使ってみても良いですか?」

 二つとも子供が覚える初歩的な魔法だ。詠唱も短く、俺以外だったら誰でも使える。

 オウラーの詠唱の後、短剣の剣先に小さな火が灯る。そして次に剣先から水の雫が滴り落ちる。

「……ありえない……そんな……でも、これは……」

「これは原材料の独占などではありません。私達の技術です」


 そうこれは技術。

 武器や防具は破損してしまうのに、いくつもの魔法陣が載る魔導書はどうして破損しないのか?

 一般的な書籍と違い、魔導書だけは王国が管理して発行をする。

 つまり魔導書の制作段階で何か特別な処理が施されているはず。そう考えた時に、パル鉄鋼がヒントとなり、俺は一つの可能性に辿り着いた。


「申し訳ありませんが、傘下になったとしても、この技術の全てをお教えする事は出来ません」

 この技術は俺の商会の生命線。

 それと同時に革新的過ぎて危険な予感がする。今はまだ全てを公開する事は出来ない。

 ただそれでも……

「これがどれ程に莫大な利益を生むモノか……分かって頂けますか?」

 俺はニコッと笑うのだった。


★★★


「姐さん、どうでしたか!!?」

 製作に関わったミツバはウッキウキである。

 この技術は他の商会全てを敵に回したとしても欲しい技術のはず。

 水都の宿屋の一室。みんな集まり、俺の答えを待っていた。

 その交渉結果は……

「……決裂した」

「……はい?」

「決裂したってつってんだよ!!」

 きぃーっ!!

 俺達は丁重にお断りを喰らった。

「シノブ様はどのような物を用意したのでしょうか?」

 まだミツバ以外のみんなには秘密にしていた。後で驚かせようと思って。

「これ。魔法陣が二つ刻まれた短剣。もちろん二つとも魔法は使えるよ」

 みんなの前に短剣を出す。

 その言葉を聞いた瞬間、さすがのフレアも驚いた表情、こういう顔が見たかったんだよ!!

 ホーリーは短剣を手に取り、二つの魔法を使ってみる。もちろん二つとも魔法はきちんと発動した。

「これはちょっと……凄いですね……正直に申し上げて、今、目の前で見ても信じられません」

「だろ? 姐さんのアイディアだったんが、やっぱり姐さんは天才だよな」

「ちょっとミツバさん~もっと私を褒め称えてよ~」

「姐さん、天才過ぎっす。これなら王国騎士団はもちろん、大陸中の戦士や冒険者が絶対に全員欲しがりますって。その全てを独占するって、どれだけの売上があるんすか?」

「ほーほっほっほっ!!」

 もう少しみんなに説明する。

 魔法は高位であればその魔法陣はより複雑になり、逆に簡単な魔法は魔法陣も簡素なものとなる。武具のサイズや材質によって複雑な魔法陣は刻めない。実質的に下位の魔法陣しか刻めないのは従来と同じ。

 うちでは特殊な工程により、二つの魔法陣を刻む事が出来る。しかし現段階で二つが限界で、三つは無理。

 ただ武具が必要な職業は生死と隣り合わせ。下位の魔法であろうと、二つの魔法陣を武具に刻めるなら、絶対に欲しいはずだ。

「しかしシノブ様。王国が黙っていないのでは?」

 ホーリーも気付いたか。

「どういう事だ?」

 ミツバは言う。確かにそのリスクはまだ説明していなかったかも。

「王国が魔導書の管理をしているでしょ? 複数の魔法陣を付与する技術は方向性的に魔導書と同じ。王国が管理する分野に私達が入り込んで大丈夫なのか、って事だよね?」

 ホーリーは頷き、俺は言葉を続ける。

「多分だけど大丈夫じゃないかな。魔導書と違って、こっちは二つだけしかダメなの。それは王国とは方法が違うからだよ。これは予想なんだけどね。パル鉄鋼がどんな物か。はい、キオ、答えて!!」

「えっ、あ、はい、パル鉄鋼ですか……えっと、ご、轟竜パルさんの魔力を受けて、特別な力を帯びた鉱石……です」

「正解!! 私はそこで思ったんだよ。『物質に魔力を断続的に流すと特別な効力を持つ』んじゃないかってね。そこでミツバさんに魔力を流してもらいながら短剣を打ったら出来ちゃいました。てへっ」

「ただ姐さんの凄いとはそこだけじゃないんだぜ? ほら、姐さん、姐さんの天才たる所以を教えてやって下さいよ!!」

「そう~? 私の天才たる所以を教えちゃう~? う~ん、どうしようかなぁ~」

「いや、シノブ。そういうのいいから」

「ヴォルったらせっかちさん。まぁ、いいか……あのね、魔力を流しながら何かを製作する……それって今まで誰もしなかったのかな? 私には長い歴史の中、それを試そうとしたのが一人もいないなんて逆に信じられない。だから別の要因もあるんじゃないかって……そこでもやっぱりパル鉄鋼がヒントになったよ。パルが鉱物に影響を与えるなら、アバンセは付近の植物に影響を与えているんじゃないのか……」

 みんなが俺の言葉を待つ。

「結論から言うとね、鍛冶で使う木炭はアバンセがいる付近の植物を使ったの。しかもパル鉄鋼を使ってない将来の目玉候補だよ」

 つまり鍛冶の最中に魔力を流す事、そしてアバンセの力が宿る木炭を使う事、それが答え。パル鉄鋼を使わずとも独自に特殊な物が出来上がる。

「これはアバンセやパルの近くにいる私だから気付いた事で、王国が魔導書を作る技術とは全く別の技術だと思う。違う技術である以上、王国がとやかく言うモノじゃない……かな。でもあくまで予想だから、そこも考慮して大商会の傘下に入りたかったんだけど」

 四大商会の後ろ盾があれば、王国も強く出辛いかもと思ったんだが。

「……聡明な方だとは思っていましたが……シノブ様はそこまでお考えだったのですね……」

 ホーリーは小さく呟く。

「見直した? ほら、もっとこのシノブ様を褒めぇい!!」

 そんな俺の頭をフレアが笑顔で撫でる。良い子良い子。

 だが結局はお断り。

「ねぇ、キオ、オウラーさんの話に何か違和感があった?」

「い、いえ、何も無かったです……でも、あの、多分ですけど、あの人はそういう反応を隠すのが上手いと思います……だ、だから……」

「嘘を付いていたりする部分は分からないと」

 キオは頷く。

「でも検討すらして頂けないのは何か裏があるのでは? この技術を無視する事は出来ないはずです」

「その裏を探るにも方法がね……それより商会が無くなった場合の、みんなの働き先をきちんと考えとかないと」

 特にミツバのトコは何人ものドワーフが働いている。俺が引き込んだのだ、そのまま解雇でさようならとは言えない。

「まぁ、フレアとホーリーは優秀だからメイド協会に登録すればすぐだろうし、ミツバさんの所はどうにかして工房だけは残すから、そこで何とか。キオもお母さんに相談してちゃんと良い所を探すからね」

 レオは元の主の所に戻れば良いだけだしな。

「ヴォルはまた私と一緒に何か考えよ。シノブ探偵社とか」

「それヴォルフラム探偵社だから」

「あ、あの、わ、私もシノブさんの所で働きます!!」

「いや、嬉しいけど、お給料とかまともに払えないし」

「い、良いんです……わ、私は野宿とか慣れていますから無給でも……」

「俺も無給で大丈夫っす。姐さんと一緒だと貴重な体験が出来ますから。その短剣だって、打てたのはドワーフとして誉れ。どこもまで付いていくんで」

「大丈夫です。シノブ様は私達姉妹で養いますから。そうよね、姉さん?」

 ホーリーの言葉にフレアはただニコニコと笑っていた。

「みんな、ありがとうね」

 お店が無くならないように頑張らないとな。

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