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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地下大迷宮編

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裏切り者と呪い

そこはガララントが封印されていた部屋。

 部屋の中に入り込んで来たのはガララント自身だった。

 その姿を見て、俺は……

「へいっ、らっしゃい!!」

 威勢良く叫んだ。

「見逃してやったのに……また現れるなんてねぇ、死にたいんだねぇ」

 ……ボトッ……

 ガララントの体から腐った肉が石床に落ちる。その肉塊を再び口にしようとしてガララントは気付く。自身が巨大な魔法陣の上にいる事に。

 この魔法陣は魔法全般が苦手なヴイーヴルの僅かな魔力でも発動し、効果は半永久的。しかも以後は魔力の補充が必要無い。

 ボトッ、ボトッ、ボトッ……

「これは……どうして……」

 ガララントは動けず、その体から腐った肉が次々と崩れ落ちる。そしてその下から骨が見え始めた。

「いや、凄いな、シノブ。本当にこの魔法陣を描き切るなんて。信じていないわけじゃなかったけど、改めて見ると引っくり返るわ」

「ベリーも良い仕事したね」

「当たり前だ。報酬がデカイからな」

 部屋の中にタックルベリーが入って来る。それに続いてリアーナとロザリンドも。

「……シノブちゃん?」

「リアーナ」

「シノブちゃん!!」

 リアーナが俺に跳び付いた。そして力一杯に抱き締められる。

「苦しいよ」

「シノブちゃん、シノブちゃん、シノブちゃん!!」

 リアーナの目から涙がボロボロ落ちる。

「シノブ……無事だったのね……」

 ロザリンドの目にも涙が浮かんでいた。

「二人ともゴメンね。ビスマルクさんとリコリスは?」

「外で警戒しているわ」

「そう……ちょっと、リアーナ」

 俺はリアーナを引き離す。本当はもっとリアーナの体温と匂いを感じていたいけどな!!

 そしてガララントの元に。まだ終わってはいない。

 崩れて形を失ったガララント。それをヴイーヴルとユリアンはただ黙って見詰めていた。魔法陣の中でアンデッドはただの屍に戻るだけ。

「ユリアン……大丈夫?」

「……俺にとっては他人みたいなもんだから。一度も面識は無いし。でも母さんは……」

 腐った肉と骨の山の中。紫水晶のような目が光っていた。

「悔しい!! 悔しい!! 悔しい!! また!! また!! また私の邪魔をする!!」

「……お母さん……」

「お前も!! お前も!! お前も!! 全員殺してやる!! 今度は遊ばない……苦しませて、苦しませて殺してやるからな!! ひひひひひっ」

 気持ち悪い笑い声。ヴイーヴルを……実の娘を目の前にして……もうそこに母親としてのガララントはいない。

「ねぇ、お母さん、覚えているかしら~。私はお父さんの血が濃くて、竜の姿にはなれなかったのよね~。でもほら~」

 ヴイーヴルの背中から翼が生える。それは深い紫色をした竜の翼。光が当たれば宝石のように輝く。

「お母さんは綺麗な翼だって褒めてくれたの覚えてる~?」

「崩れる……体が……体が……殺す……殺してやる……」

「そう言えばこうやって会うのは初めてよね~。ユリアンよ、私の子供なの~。夫も後で紹介するから、お父さんと同じく良い人なのよ~」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」

 それは怨嗟の声か、それとも苦痛の呻きか。

 その姿にヴイーヴルの目から涙が零れ落ちた。

「……もう……お母さんはいないのね……」

 そして一度零れてしまうと涙は止め処なく溢れ出る。

 ガララントは言葉にならない声を上げるだけ。ヴイーヴルの言葉には反応しない。

「……最後は私が送ってあげないと。娘だもの……」

 ヴイーヴルは大剣を抜き構える。

 そして少しの間だけ母親の姿を見詰め……

「……お母さん。またね」

 大剣を振り下ろそうとしたその瞬間。

「待って!!」

「シーちゃん?」

 俺はヴイーヴルを制止し、腰に装備していた短剣を抜いた。そしてガララントに短剣を向けて飛び込む。

 そして、ガギンッ、短剣の切っ先がガララントの瞳を突き砕く。

 部屋の中に響くのはガララントの断末魔。

「き、気持ちは分かるけど……やっぱり……お母さんだから……ヴイーヴルさんがやっちゃダメだと思う……」

 母親がアンデッドに変わっても、それでもヴイーヴルにとっては母親だ。子供が母親を殺すなんて、そんな悲しい事して良いわけないだろ……

 だったら俺がやったるわ。

「シーちゃん……ありがとうね」


 ガララントは死んだ。


「シノブ。後で説明をしなさいね」

 ロザリンドはもちろん、リアーナもタックルベリーも状況を正確に把握していない。

「もちろん説明するけど、でもその前に……」


★★★


 その部屋から出ると……

「終わったんだな……そちらは?」

 と、ビスマルク。

「ヴイーヴルです。初めまして~、こっちは息子のユリアンです~。ユー君って呼んでね~」

「ユリアン。ユー君って呼ばなくていいから」

「もう、態度が悪い~」

「私はビスマルク、こっちは娘のリコリスだ」

「リコリスです、初めまして」

「あらあら~リコリスちゃんも可愛いわね~」

 本来ならこのまま大団円なんだけどな、そうはいかねーのが面倒なトコよ。

「さてビスマルクさん」

「どうした、シノブ?」

「率直に聞きますけど、ビスマルクさん、裏切り者ですよね?」

 その言葉にリアーナもロザリンドも武器を取る。

「シノブちゃん、どういう事なの!!?」

「今すぐ説明して」

 二人が俺の前に出る。ビスマルクから俺を守るように。

「最初の違和感は偽者のガララントと戦う前。リコリスが一緒に来るのを認めましたよね? 普通に考えたら、負けたら死ぬような場面で娘を一緒に連れて行かない」

 俺が勝てる根拠さえ示していないのだから尚更だ。

「次に偽者のガララントが現れた時。ビスマルクさんは『ガララントだ。後は頼んだぞ』って言いましたよね? まぁ、これに関しては気付かなかった私も間抜けなんですけど。私はその言葉を信じて、偽者のガララントに力を使ってしまいました。ガララントはずっと封印されていたんだから、その姿を知るわけがないんです。つまりあれは、私の力を偽者に使わせる為の罠」

 ヴイーヴル達とガララントを倒す、一発限りの必殺技の話をした時、ユリアンが引っ掛かったのもここ。何故、偽者を本物と誤認したのか。

 考えてみればビスマルクは獣人であり、鼻や耳は俺達より格段に良い。能力を説明した時の話が聞こえていたのだろう。

「それと最後はベリーの方から説明して」

「はいよ……僕がビスマルクさんにガララントをこの部屋まで押し返すのが可能か質問したら、ビスマルクさんは『可能だ』って言ったけど……リアーナとロザリンドは本当に可能だと思ったか?」

「私は……シノブちゃんの事で頭いっぱいで……あんまり何も考えていなかったから……」

「……私もシノブの事で少し動揺があったみたい……今、改めて考えれば不可能だと思うわ」

 タックルベリーは言葉を続ける。

「ビスマルクさんが『可能』と答え、ガララントが『お前達に付き合ってやった』と言う。そして不可能だと思われた事が実際に上手くいったなら、二人は繋がっていると考えるのが当然だな。繋がっているならビスマルクさんの言う通りになるだろうから、ここまで押し返すっていう作戦の成功を僕は確信したね」

 全てを黙って聞くビスマルク。

 そして不安そうな表情で状況を見守るリコリス。

「つまり、ガララントと繋がっていたのはビスマルクさんだよね?」

 何かを言い掛けるビスマルクを、俺は片手で手を広げて制止する。

「言い訳は聞かない。真実だけを話して」

「ああ……分かった……一つ。ガララントは呪いを掛けた。ガララントの手足となり動く事。逆らえば死ぬ。呪いはガララントが死んだ今も続いているようだ」

「どうしてそう思うの?」

「二つ。呪いを受けているのはこの私だ。その呪いがお前達を『殺せ』と言っているんでな。リコリス、下がれ!!」

「お父さん!!」

 リコリスの声と同時、ビスマルクが突進する。リアーナとロザリンドでビスマルクを止められるのか……しかしビスマルクと最初に激突するのは、後方より飛び出したヴイーヴルだった。ビスマルクの手甲とヴイーヴルの大剣がブチ当たる。

「私の母親が迷惑を掛けてしまった事は申し訳ないけど~黙ってやられるわけにはいかないわね~」

「とんでもない剛剣だな。この衝撃、久しいぞ」

 ビスマルクの連撃、連撃、連撃、そして大剣を小枝のように振り回すヴイーヴル。残念だが現時点でリアーナとロザリンドが割って入れるレベルじゃねぇ。

 その最中に俺はベリーを呼ぶ。

「ちょっと、ベリー」

「ん?」

 俺はベリーに耳打ち。

「……了解」

 そしてその戦いを見てリコリスは二人の戦いの間に飛び込もうとするが……

「待って!! 待って下さい!! お父さんを殺さないで!!」

 そのリコリスを押さえるリアーナとロザリンド。

「ダメ!! リコリスちゃん!! 危ないよ!!」

「落ち着いてリコリス!!」

「お父さん!! お父さん!!」

 そのリコリスの背後にタックルベリーがソロ~リソロリと忍び寄る。

 魔道書を開き、小声で詠唱しつつ……そして……解呪魔法をリコリスへと叩き込んだ。それは個人に掛けられた呪いの類を解く魔法。

「えっ?」「えっ?」

 リアーナもロザリンドも何が起こったのやら分からない。ただ倒れ込んだリコリスの体を支える。

「ビスマルクさん成功したよ!! ヴイーヴルさんもちょっとやめて!!」


★★★


 まだ目を覚まさないリコリスはビスマルクの腕の中。

 町に戻る途中。

 今まであったお互いの事を話し合う。

 そこでやっと全員に全体像が伝わる。

「しかし、シノブ。よく呪いの事が分かったな」

 と、ビスマルク。

「まぁね。ビスマルクさんが裏切っているなら理由は何だろうって。例えば人質。そう考えたら呪い的な事で強制されているとか」

 最初に違和感があった時、リコリスを一緒に連れて行った理由は何だろうとも考えた。最初はビスマルクが裏切っているなら自身達に危険が無いからだと思った。けどリコリスが行く必要があったなら……呪いを受けているリコリスでビスマルクを監視する為なんじゃないかと。

「でもビスマルクさんもよく気付きましたね。私の合図」

「合図?」

「リアーナは気付かなかったの? 私達が作った合図なのに」

「えっ、それって……」

 ほれほれ、思い出せ。


『言い訳は聞かない。真実だけを話して』

 俺はビスマルクに向けて片手を広げていた。

 指は五本。つまり『5』は『作戦あり、考えあり、任せて』の意味。

 その意味を汲み取ってビスマルクは言う。

『一つ。ガララントは呪いを掛けた』

 それは『1』、『正解、真実、大丈夫、肯定的意味』つまりあの時の話は真実。ただ次の発言。

『二つ。呪いを受けているのはこの私だ』

 これは『2』、『不正解、嘘、駄目、否定的意味』つまり呪いを受けているのはビスマルクではない。では誰か?

 今までの流れを考えれば、リコリス以外にいない。


「リコリスが人質だと考えれば安易に呪いを解くわけにはいかないからね。こっちが解呪の様子を見せたらリコリスが死んじゃうとかの可能性もあるし、もしそうなったら邪魔するようにビルマルクさんも言われていたんでしょ? まぁ、でもこれで本当に全部解決だよね」

 そこでの不意打ち解呪魔法よ。

「シノブ、お前って奴は……」

 ビスマルクは言葉を失う。

 ビスマルクにとって俺は十四歳の小娘。その小娘が思った以上に頭が回るからビックリしてるんだろ……とは言え、中身は五十四歳のオッサンなんですけどね、ぐふぉふぉふぉふぉっ

「シーちゃんは可愛いだけじゃなく、頭も良いのね~。お母さん、関心しちゃうわ~」

「シノブちゃん、養子になっちゃったの!!?」

「なってないから」

「リアーナちゃんもロザリンドちゃんも可愛いわよね~二人も私の娘にしちゃいたいわ~」

「うちの母さん、こういう人なんで気にしないで」

 その時である。

 リコリスの目がパチッと開く。

「リコリス。目が覚めたか?」

「……降ろしてちょうだい」

 それは確かにリコリスの声、だがしかし……

 ビスマルクの手から下ろされたリコリス。

「……」

 黙って回りの顔を見回す。

「……長き呪いに耐え、ついに解き放たれたわ。自由、素晴らしい事ね。わたくしの意思でわたくしの体が動く、ふふっ、あら、ごめんなさい、本来のわたくしでは初めまして。でもあなた方はもう知っているわね? そう、このわたくしこそ偉大なる国境警備隊ビスマルク隊長の一人娘にしてその名も」

 あれ? このリコリス、ちょっと違くない?

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