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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地下大迷宮編

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アンデッドと対アンデッド魔法

 一方、俺は。

 痛ぇ~痛ぇよ~

「頑張って、シノブちゃん!! お母さん応援しちゃう!!」

「頑張りますぅ……」

「あら、また来たわ。ここは奥の方だから色んな魔物が出るわね~」

 ヴイーヴルが手にするのは、自分の背丈程もある大剣クレイモア。

 凄ぇ。もう剣なのか鈍器なのか分からねぇ。竜の罠に巣食う魔物共が人という餌を求めてやって来るが、ある魔物はヴイーヴルの姿を見ただけで逃げ、ある魔物はその大剣で斬り飛ばされる。それも一撃で。

 ここはガララントが閉じ込められていた部屋。

 そこで俺が何をしているのかと言うと……石床にひたすら魔法陣を描いていた。筆とインクで巨大な魔法陣をただひたすらに。

 体中が痛ぇ。そして筆を持つ手が痛ぇ。腱鞘炎になっちまうわ……

「ほらシノブ。インクいっぱい持ってきたぞ。あとちゃんと手紙も渡して来たから」

 ユリアンが大量のインク瓶を補充。くぅ~終わらねぇ~

「ベリーは何だって?」

「『対アンデッド魔法が使えないのは確認している。脱出魔法道具が発動しないのもシノブの考えの通りだ』って言ってたけど」

 だろうね。

 魔法が何かに阻害されているなら、それはガララントの不利になる系統。ガララントがアンデッドであるなら、対アンデッド魔法が使えないと考えるのが当たり前。

「それと『新鮮なのよこせ』だって。ハンカチのやり取りだって聞いているけど、ハンカチの新鮮ってどんな意味?」

「ダメダメダメ、それは秘密。信頼しているからこそ二人だけの秘密は誰にも言えないの」

「……まぁ、そういうのあるかな。秘密を簡単に喋る奴は信用出来ないし」

「そうそう」

 脱ぎたてをよこせ、って事か。あのエロ野郎が。

「まだまだ時間が掛かるんだろ? 俺は母さんの方を手伝って来るよ」

 そう言ってユリアンも剣を抜くのだった。


★★★


 アンデッドとは何ぞや? 対アンデッド魔法とは何ぞや?

 体を器、魂を純水と考える。器いっぱいに純水が満ちている状態を通常。

 そして死ぬ事により器にはヒビが入ってしまい、そこから純水は漏れてしまう。その漏れた純水の分を補う為に、泥水を器へと入れる。

 これがアンデッド、ゾンビ、グール、死霊、等々だと思えば良い。

 純水に混じる泥水、魂が濁ったアンデッド。アンデッド系が理性や知性を失う要因だ。そして常に水は漏れ続け、常に泥水を補充する。結果として時が経てば経つ程に生前の個は失われてゆくのだ。

 そして対アンデッド魔法とは術者の魔力を送り込み、濁った水を押し出して浄化する。


 そんな生前の個を蔑ろにするアンデッドを作り出す魔法、それを使う者をネクロマンサーと呼ぶ。そんな忌み嫌われる魔法使いは確かに存在する。

 それは俺が産まれる少し前、とある町でネクロマンサーが墓地全体の遺体をゾンビへと変え、その町を襲撃するという事件があった。そこそこの被害があり、その後の対策として一つの魔法が生み出される。

 それがこれ!!

 墓地全体を覆う巨大な魔法陣。それは魔法陣内でのアンデッド化を防ぐものであり、対アンデッド魔法とは全く別系統の魔法。

 しかも比較的に新しい魔法であり、ガララントは知らないはず。

 ただ墓地全体を覆う事を想定した魔法陣でありとにかく巨大。その魔法が記載された魔導書は五十冊を超えている。そして五十冊の一ページ一ページに魔法陣の一部が記載され、それらを全て合わせたのが今描いている魔法陣なのだ。

 神々の手としての能力の一部だろう、俺は一度見た魔法陣を完全に記憶出来る。その脳裏に浮かぶ魔法陣を石床に描いていく。

 まだまだ先は長い。ひー。辛いです。


★★★


「ガララントを元居た部屋まで戻す」

 タックルベリーはみんなにそう告げた。

「どういう事なの?」

 と、ロザリンド。

「ガララントクラスの竜を閉じ込めるには、相当の魔力が必要なんだよ。だからあの場所には魔力を増幅させる触媒があって当然だ。ガララントを部屋に押し戻して、僕が触媒を使い再びガララントを封印する」

「そんな事が可能なの?」

「僕を誰だと思ってんだ? 王立学校始まって以来の天才だぞ。魔法の事なら任せろ」

「……シノブちゃんの仇が討てるなら何でもするよ」

 リアーナは生気が無いような暗い瞳で呟く。

「ベリー。その触媒とやらをあの部屋で見たのか?」

「それらしき物は見ました。多分……いや、あれは絶対に魔力増幅のための触媒」

 ビスマルクの言葉にタックルベリーは強く頷いた。

「……問題はその方法ね。今の私達ではガララントの進行速度を遅らせるだけで精一杯だわ」

 勝算があるのなら、もちろんロザリンドも参加する。

「いや、倒す事が目的なら無理かも知れないが、押し返す事を前提としてならやり方があると思う。ビスマルクさんは可能だと思いますか?」

 タックルベリーはビスマルクに意見を求める。

「お父さん……」

 リコリスはビスマルクを見詰める。そしてビスマルクは少しだけ間を置いて……

「少しだけ時間をくれ」

 そう答えてビスマルクはその場から離れた。そしてリコリスはそのビスマルクを追うのだった。


★★★


 ヴイーヴルもユリアンも凄ぇーな。強い。

「ユー君、駄目よ~その動きだと相手の次の行動に対応出来ないんだから~この魔物みたいに知能の低い相手なら良いんだけど~」

 ヴイーヴルに至っては巨躯の魔物を一撃で斬り飛ばしならユリアンを指導する余裕っぷり。

「違うって。俺は相手に合わせた戦い方をしているだけだから」

 そしてユリアンも相当に強い。

 これなら安心して魔法陣製作に没頭が出来るぜ。

 おりゃりゃりゃ~

 カキカキ


★★★


 ビスマルクの答えは『可能かも知れない』という予想。

 倒す為に火力を上げるのではなく、足止めする為に火力を継続させる。

 パーティを分け、間を置かずに攻撃を加える。足止めを嫌ったガララントが後退する可能性もあり、やってみる価値はあるとの事。

 今はリアーナ、ロザリンド、タックルベリーの三人でガララントに対峙していた。

「また来たのかい? 馬鹿な子達だ、ひっひっひっ」

「うるさい」

 開口一番、リアーナの魔法が炸裂する。

 そしてタックルベリーも追撃。魔法をその腐った体に撃ち込んだ。

「これはこれは。ちょっと面倒臭いねぇ」

 ガララントは少しだけであるが後退。

 そのガララントに話し掛けるのはロザリンド。これは事前にタックルベリーに確認して欲しいと言われていた事項。それは知性の確認。

「ガララント、私には分からないわ。あなたの本当の目的は何なの?」

「目的? 私の目的がお前達に関係あるのかい?」

「あなたは人を閉じ込める一方、生活の手助けをしている。そして今度は何? 何をするつもりなの?」

「ひひっ、私はねぇ、私をここに閉じ込めた人が憎いのさ」

「……」

 ロザリンドは次の言葉を待つ。

「……しかし時に人は私へと手を差し伸べた。だからありがたくも思っている」

「だったらどうして!!?」

「怨恨と感謝、だから破壊と手助けを与えよう。町は充分に発展した、今度はそれを壊す番だって事だよ、ひひっ」

「狂っているわね」

「どうとでも思えば良いさ、ひっひっひっ」

 狂ってはいると思う……けど、言葉のやり取りが成立している。知性はある。だからこそタックルベリーは作戦の成功を確信した。

 絶え間なく続く攻撃に、ガララントは少しずつ後退するのであった。


★★★


「ユリアン、みんなどれくらいまで近付いてる?」

「さっき様子を見て来たけど、あと半日ぐらいだと思う」

「シーちゃん、大丈夫? お母さんに手伝える事あるかな~?」

「無いです!!」

 呼び方がシーちゃんに変わってるし、そもそもお母さんじゃないし、ツッコミを入れたいがそれ所じゃねぇ!!

「なぁ、シノブ、俺ぐらい向こうを手伝った方が良いんじゃないか? 向こうもかなり消耗しているけど」

「ダメ!!」

「どうして?」

「多分だけど……ガララントが行動せざるを得ない状況を作っちゃう」

「……」

 ユリアンの表情は納得していない。もちろん意味が分からないから。まぁ、俺にしても勘に近いモノだし、説明をしている余裕が無い。

「まぁ、後でね」

 うおおおおおっ、あと少し、ラストスパァァァァァーーーット!!


★★★


 ついにガララントを、封印されていた部屋前まで押し戻した。

 最後はリアーナ、ロザリンド、タックルベリー、ビスマルク、リコリス、全員でガララントに攻撃を加える。後は扉があったここを越えれば……

「あと少しだぞ!!」

 タックルベリーは叫ぶ。

 しかし、その寸前だった。

 ガララントはその場で動きを止めた。

 そして高らかに笑い出す。

「ひーひっひっ、馬鹿だ、お前達は本当に馬鹿だねぇ!! 笑えるよ!!」

 魔法にも、物理攻撃にも動じない。全員の攻撃を真正面から受け止める。まるで全く効いていないように。

「この部屋の中に魔力を増幅させる触媒? 本当にそんな物があると思っているのかい?」

 リアーナもロザリンドもタックルベリーを見て言葉を待つ。

「あ、当たり前だ!! 僕は見たんだからな!! だからお前をここまで押し込んだんだ!!」

「小僧!! お前達程度の力で私に対抗出来るもんか!! 私はねぇ、お前達に付き合ってやったのさ」

 そう言ってガララントは笑う。

 リアーナもロザリンドも心の底では思っていた。ガララントの相手がこんなに上手くいくのかと。

「そ、そんなわけがあるか!! その部屋には魔力を増幅させる触媒がある!!」

 ガララントの言葉にタックルベリーは狼狽えた。

「無いねぇ、そんな物は無いのさぁ。もし存在しているなら、私は壊してからここを出るよ、ひひひっ」

 確かに。残して置く道理が無い。

「あっ……」

 タックルベリーは当たり前の事に気付き、その場に膝を着いた。そして呆ける。その姿を見て、リアーナもロザリンドも作戦が失敗した事を悟った。

 ロザリンドはビスマルクとリコリスに向けて叫ぶ。

「退きます!!」

 そしてタックルベリーに駆け寄る。

「立ちなさい!!」

「ち、違う、そんなわけない……僕に間違いは無いはず……」

「ベリー!!」

 タックルベリーがこんな状態なのに……ロザリンドはガララントに特攻するリアーナに気付く。

「リアーナ!! ダメ、戻って!!」

 リアーナから放たれた炎がガララント包むが……

「まだまだ、まだまだ、もう少し魔力が高ければ痛手にもなるけどねぇ、ひひっ」

「み、みんな騙されるな!! あるんだよ!! あの部屋の中にはガララントを封印できる触媒が!! あと少しなんだ!! 僕を信じてくれ!! 僕を!!」

 必死にタックルベリーは叫んだ。

「まだそんな事を言うんだねぇ? じゃあ、これで絶望の顔を見せてくれるかい?」

 そうしてガララントは封印されていた部屋へと自ら戻るのだった。そこに魔力増幅の触媒など存在しない事を見せ付ける為に。

 その姿を見届けて、タックルベリーはスクッと立ち上がった。

「作戦成功。僕って役者にもなれるんじゃないか?」

 そう部屋に触媒などあるはずが無い。タックルベリー自身の嘘なのだから。

 そのタックルベリーの姿に、今度はリアーナ達が呆けるのであった。

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