償いと頼み
一方、その頃。後で聞いた話ではあるが、リアーナ達は……
少しずつガララントが町に向かって進んでいた。
その姿は腐った肉塊。辛うじて竜の形をしているが……
ガララントが歩く度に肉が腐り落ちる。そして腐り落ちた肉を自ら口にする。そうして体を維持していた。
その最前線は魔法を使うリアーナ。
魔道書を手に魔法を放つ。炎と高熱、爆音と爆煙。ガララントが従える岩人形も砕け飛ぶ。そして一人でガララントへと歩を進める。
「リアーナ下がって!! 前に出過ぎているわ!!」
ロザリンドは叫ぶが、リアーナは意に介さない。
「おい、危ねぇって!!」
タックルベリーがリアーナを押さえようとするが、それを振り解こうと暴れる。そのリアーナの前にビスマルクが立つ。
「リアーナ。下がれ」
睨み返すリアーナ。そんなリアーナの表情をロザリンドもタックルベリーも知らない。ビスマルクは続けて言う。
「お前も死ぬ事になるぞ」
リアーナは唇を痛い程に噛み締める。
あの時……
シノブが扉を破壊した。そしてリアーナは振り返り、見た。魔法が発動されなかったシノブ。そして次の瞬間、ガララントの咆哮と共に吹き飛んだその姿。
リアーナ自身は助けに戻ろうとしたが、ビスマルクが強引に連れて逃げたのだ。
「リアーナ一旦退くの。良いわね?」
ロザリンドの言葉にリアーナは黙って後ろへ下がるのだった。
理由は分からないがガララントの進行速度は速くない。ゆっくりと鈍いくらいだ。竜の遊び場……ガララントはただ遊んでいるだけなのかも知れない。ロザリンドはそう考えていた。
★★★
「マジか!!?」
「マジなのよ~」
だったらすぐ行動せんと!!
俺はベッドから立ち上がる。
うぐっ、頭だけじゃねぇ……全身が痛ぇ……
「本当は私達が魔法を使えたら良いんだけど~竜に属する者って回復魔法は不得意で~」
確かに魔法は相性というモノが存在する。込めた魔力量が同じでも、その効果に差異が出る事があった。
「どうするつもり?」
「もちろんガララントを倒す」
ユリアンの言葉に即答。
「助けに入るつもりなの? 駄目よ~シノブちゃんはね、丸一日気を失っていたのよ? もっと休まないと~」
「いや、今すぐ助けに入るつもりはないんです」
しばらく俺の力は使えない。俺が今の状態で加わってもガララントを倒す事なんて出来ない。
「シノブはさ、ガララントを倒すつもりだったんだろ? 何か方法があったと思うんだけど、それが今は使えないって事なの?」
ユリアン、頭の良いお子様だぜ。あれだけのやり取りで分かるのか。
「準備に時間を要する一発限りの必殺技があるの。今回はその一発を偽物に喰らわせちゃったって事」
「ふ~ん」
ユリアンは思うところがあるのか、何かを考えるように頷いた。もちろん俺にもそれはある……が、今は後回しだ。
「じゃあ、危ない事はしないのね~? それだったら協力してあげるけど~どうするの? すぐ行くの?」
「急いで準備したい事があるんです。それで私の伝言だけ先に伝えて欲しいんですけど、お願い出来ますか?」
★★★
リアーナ達は町まで退く。
ガララントがこちらに向かっている事、出来ればすぐに避難すべきだとグレゴリ達に伝える。そして町中を説得して回る。しかし……
「どこへ逃げろと言うんだ?」
「お前達がガララントに手を出したせいだ」
「どうせ逃げられない。死ぬならこのままここで死ぬ」
「ふざけないで」
「お前達がこの町を壊したんだ」
「まだ小さい子もいるのに……あなた達のせいだからね……」
当然だ。
投げ付けられるのが言葉だけならまだ良い。
ガッ
「っつ!!?」
それは掌に収まる程度、投げ付けられた石がロザリンドの頭に打ち当たる。ロザリンドは頭を押さえて膝を着く。
「だ、大丈夫ですか!!?」
リコリスが駆け寄り覗き込むと、そのロザリンドの押さえた頭から鮮血が滴り落ちた。
「ええ、大丈夫よ」
「そんな事をしても償いにはならないぞ」
「……そんなつもりは無いわ」
ビスマルクの言葉にロザリンドは静かに返す。
普段のロザリンドならもちろん避けられた。わざと受けたのだ。
「ほら、回復してやるよ」
「後で良いわ」
「面倒な性格してやがる」
タックルベリーは溜息。溜息と共にリアーナに視線を向ける。まるで抜け殻。リアーナはまるで人形のよう。
シノブの最後の姿はタックルベリーも見ていた。本当に死んじまったのか、シノブ……タックルベリーは心の中で呟くのだった。
ガララントの進行速度と町までの距離を考えるなら、ここに辿り着くまであと数日は掛かるだろう。丸一日を掛けてガララントと戦いながら町まで撤退したのだ。休息も必要。
町の外でビスマルクが見張りをして、他のみんなは休んでいた。
タックルベリーは夜空を見上げる。
空を飛んで逃げる事が出来るならな……
「おい、シノブ……せっかく分かったのにさ……」
タックルベリーの手の中には脱出魔法道具。それを調べていたタックルベリーは球体が繋ぎ合わされている事に気付く。そして球体を割ってみると、その断面には魔法陣が刻まれていた。
「あんた……変態ベリーさん?」
「誰が変態だ!!?」
「静かに。俺はユリアン。これシノブから預かってる」
闇夜の中から現れた少年、ユリアン。年齢的にはリコリスと同じくらい。
「……僕はお前が誰だか分からない。みんなを呼んだ方が良いと思うんだけど」
「とりあえず俺が預かった手紙を読むから聞いててよ」
『変態ベリー。
私は生きているよ。とりあえず安心して。
頼みたい事があるの。
頼みを聞いてくれたら2枚目をあげるから。
どう? これで何でもヤル気が出るでしょ?』
「ちょっと貸せ」
タックルベリーは手紙を奪い取る。
「2枚目、って何?」
「……ハンカチだよ。シノブの国の風習で、感謝の証としてハンカチを渡すんだ」
実はハンカチではなくパンツ。
その事を知っているのは二人だけ。これは間違いなくシノブからの手紙だ……タックルベリーは手紙に目を通す。
そこには現状について分かっている事が説明されていた。それはヴイーヴルから聞いたガララントの情報も合わせての現状。
●最初に。
ガララントは既に死んでいる。
死んだガララントはアンデッドとして甦っている。
●今現在、この場所には三つの結界が張られている。
一つ目は竜の罠。
アンデッドのガララントにも有効。
●自身がアンデッドである為、対アンデッド魔法が使えないようにガララントが張った結界。それが二つ目。
●三つ目もガララントが張った結界。これはガララントが許可した協力者だけが、ここと外との出入を自由に出来るような結界。
●ガララントは既に理性を失い、その行動に整合性は無い。しかし偽者を用意したりするので知性が無くなったわけではない。油断禁物。
やっぱりか。タックルベリーは一人頷いた。
腐ったガララントを見た時にアンデッドの類だと予想した。そして実際に対アンデッド魔法は発動しなかった。
そしてこれ、脱出魔法道具に刻まれた魔法陣の一部が対アンデッド魔法の魔法陣と似ている事に気付く。脱出魔法が発動しなかった理由、力の契約先が同じなのだ。
現状を説明した上でどうしろと言うのか、タックルベリーは手紙を読み進める。
『私が生きているのをみんなに隠したまま、三日くらい掛けてガララントを封印されていた部屋まで押し返して』
「ふざけんな、あの成長不足野郎。メチャクチャ難しい頼み事じゃないか」
ガララントの進行を止められないのに、そのガララントを元の場所に戻せと言う。しかも時間を掛けて。それがどれだけ難しいか。
そして何でシノブが生きているのを隠したままにするのか……その理由も書いてあった。
そしてその手紙の最後。
『信じてるよ』
……やるしかないか。
タックルベリーは笑みを浮かべるのだった。




