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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地下大迷宮編

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ユリアンとヴイーヴル

 ガララントが現れた。

 まぁ、コイツも本物のガララントか分からんけどな。

 その姿は美しかった偽者とは大違い。

 鼻を突く不快な腐臭。巨体が動く度に、その体から固体とも液体とも言えないゼリー状の物がボタッと落ちる。

「うひっひっひっ、他の者を先に逃がそうとしたのは、その力がもう尽きるからかねぇ?」

 声は相変わらず美しいが、笑い声がイラつくわぁ。

「さぁ、それはどうだろうね」

 あと一発、吹き飛ばしてやる!!

 俺はガララントに向けて魔法を……俺の体から光が消えた。魔法は発動しない。

「終わりだな。ひひひっ」

 次の瞬間。

 強い衝撃と共に、俺の意識はプツッと途切れるのであった。


★★★


 ……

 …………

 ………………

 ここは……どこだ……俺は……

「ガララント!!?」

 俺は飛び起きる。

「っつ!!」

 後頭部がズキリと痛む。

「起きた?」

 そこには少し生意気そうな少年。リコリスと同じくらいの年齢か。黒のように見える濃い紫色の髪。それと同じく濃く深い紫色の瞳。

「えっと、君は?」

「ユリアン。あんたは?」

「私はシノブ……ここ、竜の罠の中だよね?」

 部屋を見回した。俺が寝るのはベッドの上。質素ながら家具も揃っているように見える。

「そう。まだ竜の罠の中。残念だけどな」

 ユリアンが答えると同時。部屋に入って来たのはユリアンと同じ髪と瞳を持つ大人の女性。

「あら~起きたのね~大丈夫? 頭は? 痛くない?」

「少し痛みはありますけど大した程度ではないので大丈夫です」

「良かったわぁ~ガララント相手に良く死ななかったわね~偉い偉い」

 そう言って女性は優しい笑顔を浮かべながら、俺の手をポンポンと触った。

「あの、あなたは?」

「俺の母さん」

「ヴイーヴル。ユー君のお母さんやっています。シノブちゃんだっけ? シノブちゃんも『お母さん』って呼んでくれても良いのよ? お母さん、可愛い娘が欲しかったの~」

「えっと、じゃあ、ヴイーヴルさんで。勝手に娘になったら、私の両親が泣いちゃいます」

「そうね、そうよね。じゃあ、ユー君と結婚しちゃう? この子、良い子なのよ~。ちょっと口が悪い所はあるけど反抗期だからだと思うの」

「でも何年後になるんですかね?」

 ヴイーヴル相手だと、俺も思わず笑顔になっちまうぜ。不思議と空気を柔らかくしてくれる。

「母さん、そんな冗談を言っている場合じゃないだろ。それに『ユー君』って呼ぶなよ」

「ユー君、お母さん、本気なんだけど~……だってぇシノブちゃん、女神様みたいで可愛いじゃない?」

「だから呼ぶなって……」

 ヴイーヴルの言葉は嬉しいが、ユリアンの言う通り、確かに冗談を言っている場合じゃねぇ。

 ガララントだ。

 あの後はどうなったのか?


 母親のヴイーヴル、息子のユリアン。

 町の外で母子二人だけで暮らしているとの事。

 二人はガララントの様子を常に窺っていて、鉄の扉が壊れた時に中へ。そこで倒れた俺を助けて、そのまま逃げ出したのだった。

 つまり俺の命を恩人。


「でも何でそんな事を?」

「普段は隠しているんだけどね~ガララントを倒そうとしているシノブちゃんになら見せてあげちゃっても良いかな~」

 そう言ってヴイーヴルはニコッと笑った。その頭。

 二本の角が生えてくる。それは美しい紫水晶のような角。

 どこかで見たような美しさ。

 それはユリアンの頭にも二本、生えていた。これは……偽者だったガララントの鱗と同じだ……

「ガララントは私のお母さんなのよね~」


★★★


 美しい紫水晶のような鱗を持つガララント。

 彼女は人に対して友好的だった。その証拠に彼女は人との間に一人娘を授かっていた。それがヴイーヴル。

 人は、そのガララントをヴイーヴルと共に竜の罠へと嵌めた。欲しかったのは価値のあるその美しい鱗。

 しかし竜の罠へと嵌めたのが人なら、ガララントを助けようとしたのも人だった。それはもちろん夫であり、ガララントに友好的な人達。


「まぁ、私も戦ったんだけどね~。相手の数が多くて。勝ちもしないけど負けもしない感じ。向こうはお母さんを倒せなかったし、こっちはそのお母さんをあの部屋に閉じ込められるし~」

「えっ……二百年も前ですよね? ヴイーヴルさん、お婆ちゃんじゃん……」

 途端にアイアンクローが。ギリギリ……

「もう~駄目だよ~シノブちゃん。お婆ちゃんじゃないから~竜に属する存在ではまだまだ若い方だから~」

 優しい表情のまま凄い握力!!

 しかし負けへんで!!

「……ヴイーヴルおばさん」

「あらあら、また呼び間違えるなんて~」

 ギリギリギリギリ……

「ぎゃー!! ギブ!! ギブです!! ごめんなさいぃぃぃっ!!」

 頭が砕けるわ!!


 母親が閉じ込められた後、間もなくして父親も死んだ。

 それから長い時間、ヴイーヴルは一人で過ごしていた。母親を閉じ込められ、父親を殺され、竜の罠を脱出する事も出来ず、自分達を閉じ込めた復讐すべき相手は既に死に、目標も何も無く、ただ無気力に生きているだけだった。しかし十年程前。

「この子が生まれてね~いつまでもここに閉じ籠っているわけにはいかないじゃない? ユー君にも外の世界を見せてあげたいのよ~」

 ヴイーヴルはユリアンの頭をクシャッと撫でる。

「だからやめろ。恥ずかしいだろ」

 恥ずかしそうに、しかし少し嬉しそうに頭を振るユリアン。なんか家族って良いよねぇ~俺もお姉ちゃんに頭を撫でられたいわぁ~~~まぁ、それはさて置き。

「ヴイーヴルさんはガララントを倒すつもりなんですね?」

 ヴイーヴルは頷いて話を続ける。

「町の人達は協力してくれないだろうし、私達だけでは無理だと思っていたの。だからシノブちゃんには協力してあげたかったんだけど……」

「町からの定期連絡が遅れてシノブ達の事を知らなかったんだ。色々とあったんだろ? とにかく知らされて、すぐ協力しようと思ったんだけど、うちの母さん、トロい所があるから準備に手間取って」

「ちょっと、ユー君、酷い~」

 ……分かるような気もする。

「ちなみにね、町からの定期連絡はね、お父さんからなのよ~お父さんって言ってもユー君のお父さんで、私の夫なんだけどね、これが凄い良い人なのよ~」

「母さん!! そういう話は後!!」

「は、はい……」

「でもガララントはヴイーヴルさんのお母さんですよね? 本当に倒すつもりなんですか?」

 少しの間。

 そしてヴイーヴルのどこか遠くを見るような寂しそうな眼差し。

「……もう死んでいるのよ。あの部屋に閉じ込められた時にね……」

 二百年も前。

 戦いの中、相手方はガララントを倒す事が不可能と判断し、扉の奥へと生きたまま封印する事にした。ヴイーヴル諸共に。

「そこでガララントは……お母さんは一つの力を使ったの。それは死後に生き返るためのモノ……」

「でもそれは……」

 ありえない。

 魂や霊、そういったモノは確かにある。俺が転生した、それが証拠。

 しかし死した体が魂共々元の状態で甦る、そんな魔法は存在しない。失った命は戻らない。

「そうねぇ~死霊、アンデッド、ゾンビ、そんな存在にお母さんは変わってしまった……」

 さらにヴイーヴルは話を続ける。

 封印された扉は一方通行。中に入る事は出来るが、ガララントが死ぬまで外に出る事は出来ない。だからこそ、ガララントは娘を外に逃がすために一度死んだのだ。

 ガララントは死に、扉が開く。

 そして外に出る直前にヴイーヴルは見ていた。

「お母さんのね、綺麗だった紫水晶のような鱗。それが剥がれ落ちて、体は腐った肉塊のように変化したの……さすがにあの時は私も泣いちゃったのよね~」

「……」

 そうか……偽者だと思っていた竜は本来のガララントの姿だったんだな。それで後から出て来た方がただのバケモノになってしまった今のガララント。

 バケモノに生まれ変わったとは言え、元がガララントだったために扉は再び閉じる。

「今となっては、私を守るためだったのか、それとも復讐するためだったのか、分からないけど~。でも甦ったお母さんは元のお母さんではなかった。多分、理性も崩壊していると思うのよね~」

 ガララントを閉じ込めたのは良いが、その力全てを封じ込められたわけではないらしい。使える力で色々とやっているわけだ。その一つが人も外に出さないような結界。

 しかもヴイーヴルが言うにはすでに理性は崩壊し、行動に統一性が無い。だから矛盾する事も当たり前に行う。生前のガララントは全くの別物だと言う。彼女は聡明でもあったから。

 つまりガララントの行動に理由などは無い。ガララントがそうしたい。ただそれだけ。


「そのガララントは今どうしているんですか?」

「少しずつ町に向かってるみたいなの~」

 俺はヴイーヴルの言葉に息を呑む。

 俺のせいだ。俺が封印されていた扉を壊したから。向かう先で何をするのか今のガララントでは全く予想が着かない。

「それ遅らせているのが、シノブの仲間達みたいだぞ」

「マジか!!?」

「マジなのよ~」

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[一言] 小さな子供時代、ウジやハエが集まってる轢かれた猫の死体を観察しようと、服で鼻と口を塞いで近づいたけど、大人の腕(根元から手先)の距離が限界だった。 臭いが酷すぎて目が痛みだし開けてられず、息…
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