二回戦と屈辱的敗北
「レイラ、弓上手いじゃない」
「これでもエルフですから。私が落ち着いた状態で、止まった相手になら当てられます」
「ベリーもお疲れ様」
「これでも魔法使いですから。僕が落ち着いた状態で、止まった相手になら当てられます」
「何で私の真似を……」
「二人のおかげで完勝だよ」
「良かったです!!……ん? リアーナちゃん?」
「どうした? 急な生理?」
「死ね」
俺はタックルベリーをブン殴る。
「リアーナ、気にするな。少しだけ時間を置いて、また話せばいい」
「……そうだね」
ミランの言葉にリアーナは頷く。
「さて。リアーナも気持ちを切り替えて。次は二回戦だよ」
次の二回戦、その対戦相手。予想通りディン達である。
★★★
それは一回戦後の話。
トイレでスッキリした後に、スッキリしない現場に俺一人が出くわすのだった。
その笑い声には聞き覚えがある……と、言うか俺の大っ嫌いな奴の声なんだけど。
「お前も一応は特別学部の生徒だろう? あんな負け方で恥ずかしい奴だな。はははははっ」
ディンだ。
それと……
「……」
ただ黙っているだけのマルカ。そしてそのパーティーメンバー。
「お前も、お前達も特別学部に在籍する価値なんて無いだろ。あのクソ野郎に負けるんだからな。これでまた調子付くんだろ、腹が立つ」
「……どうしてシノブをそこまで敵視するの?」
「敵視? あのな、この王国を治めているのは俺達だ。劣等種であるエルフじゃない。その薄汚いエルフの町で育った裏切りの邪神そっくりな女。あの白い髪も、赤い眼も気持ち悪い。そんな奴がこの王国、同じ特別学部、そこへ一緒に存在するなんて間違っているだろう? その間違いが許せないんだよ」
「……」
「お前達もだ。俺達の国から出て行けよ。目障りだから、今回の負けが良い機会だ」
マルカ達を笑い揶揄するディン達。
マルカは何も言い返さない。拳を握り、ただ黙ってその言葉を受け入れていた。
「ちょっと言い過ぎじゃない?」
「お前……」
「私が気に入らないのは分かったけど、マルカ達にそれをぶつける必要は無いでしょ?」
「ふっ、仲間にあんな格好までさせてそこまで目立ちたいのか? 馬鹿丸出しだな」
「まぁ、本当にただの馬鹿にならないように気を付けるよ。ほら、マルカ、みんなも行くよ」
「待て」
「やだよ。気分悪くなるし」
「お前がいるせいでこっちも気分が悪くなる。分かっているのか?」
「はいはい、だから今すぐ消えるって」
「この王立学校から消えろ」
「考えとくね」
「シノブ……」
「無視無視。行こ」
内心は腸煮え繰り返りそうだけどな。この馬鹿共には極上の屈辱的敗北をプレゼントしてやるぜ。くっくっくっ……
★★★
二回戦。場所は巨大な洞窟。
湿気を感じる洞窟内に光源は無い。しかも足場が悪く場所により高低差がある。足を滑らせて転がり落ちるなんて危険もあり、移動時には特に気を付けないと。
そんな暗がりで頼りになるのはタックルベリーの魔法のみ。発光する球体が頭上に浮いている。
「さて。二回戦だけど……リアーナ、怒ってるねぇ~」
「当たり前だよ!!」
光源があるとはいえ薄暗い洞窟内。さらに鉄仮面で表情は分からないが長い付き合いだ。雰囲気で分かる。
一回戦後の話はみんなにしてある。
「みんなを馬鹿にしたんだよ!! 私がやっつけるんだから!!」
「そのビキニアーマーも馬鹿にしてたんだろ? もちろん僕は良いと思うが」
「やめて!!」
もちろん今回もリアーナはビキニアーマーと鉄仮面とマントである。
「リアーナの気持ちも分かるけど出番は無いかも知れないよ。でも大丈夫、ディンにはこれ以上無い程の屈辱を喰らわしてやるから」
俺はニヤリと笑う。
★★★
ここはスピード勝負。相手に先を越されれば別の作戦に移る必要がある。
俺達は洞窟の最深部を目指す。
迷路のように伸びる洞窟内は狭く、武器を振り回すのはもちろん、魔法の使用も危うい。戦える場所ではない。その中で唯一だ。最深部だけ戦闘に充分な空間がある。
交戦をするつもりなら馬鹿なディンでもここを選ぶだろう。
そしてそれは目の前。この狭い通路の先、足場の悪い斜面をかなり下へと降りる。
「みんな足元に気を付けて。特にリアーナ、視界が悪いと思うから」
「だったらこんなカッコさせないで」
「レイラも気を付けろ。ドン臭そうだから」
「そうだけど、ベリー君に言われたくない……」
「シノブ、どうやら先に到着出来たようだぞ」
ディン達より早くそこに到着する。まぁ、俺達は洞窟内も充分に下見をしてある。当然だ。あいつ等、あんまり下見とかしてなさそうだしな。
「じゃあ、レイラ。お願い」
「分かりました」
そしてレイラは魔導書を取り出し魔法の詠唱。得意なわけではないが、そこは王立学校の生徒、魔法も人並み以上に使う事は出来る。
そうして下準備を完了。
「ミラン。模擬戦中なら良いんだよね?」
「ああ。文句は無い」
そしてそのまま待機である。
★★★
おい、いたぞ……下だ。
灯りを着けたままで馬鹿じゃないのか?
どこにいるか丸分かりだ。
このままこっちは闇に紛れて全員一気に行くぞ。
よし、突撃だ!!
……とか言ってんだろうな。
ディン達の会話を想像して、思わず笑ってしまう。
そしてその後の光景を見て、さらに大笑いだ。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
ディン達五人は斜面で足を滑らせて、全員で斜面を転がり落ちて来た。
うわー、ぎゃー、おおー、ぐごぉー、どわー、ゴロゴロゴロゴロッ
「あはっ、あははははっ、ちょ、リアーナ、見てよ。あれ、めっちゃ転がってる!! あははははっ」
「わ、笑っちゃダメだよ、ふっ、ふふふっ」
「はははははっ、腹が、腹が痛ぇ、はひー、予想以上に、き、綺麗にゴロゴロしている!! はははははっ」
しかし自らの魔法で起こった事態にレイラは引く。
レイラの魔法は氷を生み出す魔法。ディン達が下りてくる斜面を凍らせておいたのだ。ミラン的には模擬戦中の罠は許容範囲らしいので使わせてもらった。
そして文字通り、ディン達は足を滑らせた。
「わ、私の魔法で大惨事が……」
「だ、大丈夫だ。こ、これは戦いだから、うひっ」
ミランも笑いを堪えるので精一杯。
そして俺達の足元まで転がり落ちたディン一派。ウーウー呻いている。
「ほら、最後もレイラがお願い」
「分かりました」
俺の言葉にレイラは頷くと、短剣で五人の頭をポコポコと叩いていく。これが刃のある短剣だったら、ディン達は絶命している。
そう、準決勝である二回戦も俺達の勝ち。
いくつも作戦は用意してあったが、馬鹿の相手は楽で助かるね。
★★★
芸術学部の生徒一人に魔法で嵌められ、芸術学部の生徒一人に五人とも止めを刺される。シノブ達他の四人は武器さえ抜いていない。
交戦はもちろん、何も出来なかった特別学部の五人組。見せ付けたのは戦いではなく、足を滑らせた後の転がりっぷり。
どうせ一回戦を勝ったのもまぐれだろう。
特別学部には相応しくない、まさに口先だけの無能。良いのは家柄だけなのか?
王立学校の笑い者、ディン・ロイドエイクとその仲間達。
まさに屈辱的な負け方だろ?
★★★
そんなわけで明日は三回戦、決勝戦である。
ここも予想通り、相手はロザリンドのパーティー。
俺もロザリンドの一回戦と二回戦を見たが……こりゃ、強ぇや。
ロザリンド自身も強いがパーティーメンバーも全員強い。しかも個々の戦闘能力に頼っているだけじゃない。試合前に色々と作戦を練っているように感じる。
もちろん簡単な相手じゃないのは分かっている。だからと言って俺だって負けるつもりなんてさらさら無いからな。
俺は頭をフル回転をさせるのだった。




