ミーティングと熱い青春
模擬戦の詳細決定。
参加パーティー八チームでのトーナメント制。相手のパーティーメンバー全員を戦闘不能、もしくは降参をさせれば勝ち。
戦闘不能には頭部、首、心臓部などに武器が当たる事も含まれる。本来なら致命傷である、という意味で。
ロザリンドとはトーナメントの反対側。戦うとしたら決勝戦か。
一回戦はマルカのパーティー。準決勝の二回戦は……多分、パーティーのメンバー的にはディンの所だろう。決勝戦でロザリンドと。そんな感じか。
「おい、どういうパーティーなんだよ? 誰だ、このレイラってのは?」
「美術学部の奴だろ。まさかこんな所から連れて来るなんてな」
「いくらパーティーの仲間がいないからって、ありえないよね」
「ふざけるつもりなら最初から参加するなよ」
「実力も無いくせにただの目立ちたがりって本当に迷惑」
教室、こちらにわざと声が聞こえるように嘲笑される。
もちろんそれはディン一派。
「言われているけど」
「元気よね~ロザリンドも混ざってくる?」
「冗談」
「まぁ、模擬戦でボッコボコにしてやるから」
「それって一回戦の私達に勝つって事? 私達だって優勝候補に挙げられているんだから」
「マルカの所はボコ辺りで勘弁しとく」
「ちょっとリアーナ、あんな事を言ってるんだけど?」
「シノブちゃん、ボ辺りで終わりにしようよ」
「違うでしょ!!」
しかしマルカのパーティーも強い。作戦次第ではロザリンドのパーティーを倒す事も不可能じゃない。決して油断は出来ないし、無策で戦える相手でもない。
模擬戦の場所も指定された。
一回戦は森林地区。緑深い森の中での模擬戦だ。
二回戦は巨大洞窟の中。最初から洞窟の中で始まるらしい。
決勝である三回戦はなんと王立学校。生徒がいる状態で始まり、生徒達に被害を出してしまった時点で、そのパーティーは失格となる。
そして模擬戦に参加するパーティーは、明日から試合開始の七日後まで学校を休む事が許可されている。
そんなわけで……
「じゃあ、ロザリンドもマルカも首を洗って待っていたまえ。ふっふっふっ」
「シノブちゃん、それ、絶対にやられる方のセリフだよね?」
「黙らっしゃい!!」
もう模擬戦は始まっているのだ!!
★★★
これから七日間、徹底的に地形を調べ、作戦を立てるのだ。
一回戦の場所でもある森の中。王立学校から少し離れた場所。思ったよりも森は深い。緑の爽やかさよりも、湿った土の匂いを強く感じる。
斜面も多く、足場も悪い。崖などもあり気を付けないとな。
「僕の体力が尽きたのだが? 休憩を要求する」
「おいベリー、まだほとんど調べて無いだろう? 男のくせに体力が無さ過ぎる」
「はい、性差別。体力馬鹿のミランとは違うんだよ。僕は」
「お前、この場に埋めるぞ。前の二人を見ろ。全く疲れてないだろ」
「エルフは森の民だから。僕は街の民だから。こんなトコには慣れてねーんだよ」
「ねぇ、レイラちゃんって呼んで良いかな?」
「はい、それはもちろんです。私もリアーナちゃんって呼んで良いでしょうか?」
「うん、レイラちゃん」
「ミランちゃん。休憩がしたいのぉ」
「静かにしろ」
「シノブぅーシノブぅー!! 助けろ!! 体力馬鹿野郎がアイアンクローで殺しに来るぅ!!」
「うるさい……こっちもギリだから」
「シノブ……お前はリアーナと同郷だろう? 何でそんなに体力が無いんだ……」
「あのね、ミラン……エルフは森の民だから。私は街の民だから」
「僕のセリフをパクるんじゃないよ」
「大丈夫、シノブちゃん?」
「どうしますか? 休憩を取りますか?」
なんて感じで、五人揃って偵察。
森の中が終われば、次は巨大洞窟。調べて調べて調べて、アッと言う間に五日間が過ぎる。その間に色々と作戦は練ってみたが。
★★★
空いた教室でミーティング。
「何か作戦はあるんだろう?」
ミランの言葉に俺は頷く。
「勝つのは簡単だと思うよ」
「僕の予想ではレイラを生贄として捧げるんだろ」
「ひぃっ」
「大丈夫だよ、レイラちゃん!! そんな事しないよね?」
「私の案では捨て駒として死んで貰うけど」
「ひぃっ」
「ベリー君!! シノブちゃんも!!」
「シノブ。簡単に勝つ方法なんてあるのか? それも簡単に?」」
「もちろん。今から罠を仕掛けられるだけ仕掛ける」
「本気か?」
「汚い。さすがシノブ、汚い。僕はそういう奴が大好きだ。それで行こう」
「でも、それはルール違反じゃないんですか?」
レイラの質問に俺は言う。
「まず模擬戦は実戦に近い形で行われる。さらに模擬戦の開始まで猶予がある。同時に場所まで指定された。先生の『勝つ為に出来るあらゆる努力』と言う言葉から考えれば、罠を事前に用意する事は当然だよ。だけど他のパーティーはそれをする気配が無い。罠を作って備えるって考えが無いんだと思う」
「当たり前だろ。せめて模擬戦中に用意をするなら文句も言わないが、罠を事前に仕掛けるなんて、そんな事が許されるわけないだろ」
ミランだ。
「だからこそ大きな利点になる」
「そもそも全てはシノブの勝手な解釈だ」
「実は初日にリアーナと一ヶ所だけ罠を仕掛けてみたの。今日、確認してみたら罠はそのまま、解除はされていない。先生からの注意も無い。罠を用意するのはルール違反じゃない。もう模擬戦は始まっているの」
空気がピリピリとしてくる。
不満を露わにするのはミラン。ロザリンドと同じく芯があり、こういうやり方は絶対気に入らないと思った。
「リアーナもシノブと同じ考えか?」
その鋭い視線はリアーナに向かう。しかしリアーナはミランから目を逸らさない。
「私も勝つためには何でもするべきだと思う。この模擬戦で求められるのは結果だから」
「結果が良ければ何をしても良いのか?」
「さっきもシノブちゃんが言ったけど、ルール違反じゃない。これが実戦だったらミラン君だって色々と準備をするでしょう? 魔物が相手だったら罠だって使うはず」
「実戦に近いが、決して実戦じゃない。相手だって魔物じゃない。周りだって認めない」
ハラハラと心配そうに視線を右往左往させるレイラ。この雰囲気にどうしていいのか分からないんだろう。
「結果が全てだろ」
割って入るのは真面目な顔をしたタックルベリーだ。言葉を続ける。
「結果を出せずに『過程を頑張った』なんて褒められるのは小さな子供だけだ。僕達はまだそんな小さな子供か? 求められるのは結果なんだよ。僕はシノブの案に賛成するね」
「あの、私は……反対……です」
戸惑いながら、小さくなりながら、レイラは言葉を続けた。
「絵を描く時、過程に納得出来ない部分があったままじゃ絶対に良い絵は完成しないんです。もし罠とか使って優勝したら、ルールで問題無かったとしてもミランさんの言う通り周りが認めてくれないと思う……」
「結果として優勝が全てだ」
タックルベリーの言葉にレイラは首を横に振る。
「違います……目指すべき先はもっと先にあると思うんです。模擬戦の結果もまだまだ過程で、だからその……絵と同じで、私は過程も大事にしたいです……周りに何かを言われたくない……」
「俺は完璧な優勝をしたい。誰にも文句を言われない優勝をだ」
「シノブちゃん?」
「何がおかしい?」
「笑ってるのか? お前は? 気持ち悪ぅ」
「私が変な事を言っているからでしょうか……ごめんなさい、言葉が上手く纏まらなくて……」
良いよ良いよ、この青臭く真剣な感じが!! こういう雰囲気、凄く好きぃ!! 俺はこういう熱い青春に憧れていたんだよ!!
考えが拙くても、一生懸命に主張する。実に美しいじゃないか!!
「いやね、事前に罠があれば楽に勝てるってだけで、無くても頑張れば勝てるんだけど」
「……」
「……」
「……」
「……」
「じゃあ、罠無しで頑張っちゃう?」
「……シノブちゃん、意地が悪いよ!! もっと早くそう言ってよ!!」
「俺達の反応を楽しんでいたってわけか……」
「マジか。お前、本当に性格が悪いな。本当に裏切りの邪神の生まれ変わりか?」
「私、頑張って言ったのに……怖かったのに……」
「まぁまぁ。その代わりミランが言う『完璧な優勝』ってヤツを目指してみましょ」
そして模擬戦が始まる。




