5-2 フクロ……!?
光を抜けて異世界に着くと同時に、ゾンビを思いっきり轢いてしまった。
「アァ……!? さっそくの修羅場じゃねーのヨ……!?」
マッハクンが特攻服に飛びちった血を見て笑う。
俺たちはゾンビの大群の真っ只中にいた。
夜の荒野が歩く死体で埋めつくされている。
遠くに篝火の列が見えた。俺たちのいる場所より高いところに並んでいる。ミルホートの城を守る衛兵だろう。
ゾンビたちはそこに向かって歩いている。
「オウ、唯愚怒羅死琉ドコヨ……!?」
フブキが袖をつかんでくるゾンビに肘打ちを食らわせる。
「あッこのアレだベ……!?」
リコの指差す先を見ると、光の隊列がイワシの群れのように荒野を回遊していた。
数からいって唯愚怒羅死琉のヘッドランプにまちがいないだろう。
「オッシャ、俺らも合流すンぞ」
マッハクンがエンジンを吹かす。
「でもあッこまでどーやって行くンだ? 俺らドーグねーゾ?」
俺の前でナイトがいう。
「ドーグがない……?」
俺は彼の肩を叩いて、リアシートから降りた。「なきゃ調達すりゃいい」
こちらに向かってくるゾンビを蹴倒し、手にしていた棍棒をもぎとる。
「ほらよ。産地直送だ」
俺はいっしょにもげてしまった手首も合わせてナイトに放りわたした。
「なるほど……活きがイイナ……!?」
彼は嫌な顔をして、まだ動く指を棍棒からはがした。
それぞれ武器を調達できたので走りだした。
ちょうど城に向かって歩いていくゾンビたちの側面を突く形で突進する。のろのろ動く奴らをバイクで轢き、棍棒で叩き伏せる。頭や腕がちぎれて飛ぶ。
しばらくゾンビ狩りをしていると、正面から光が近づいてきた。
唯愚怒羅死琉がゾンビを叩き潰しながらこちらに迫ってくる。
「オメーら、こんだけかヨ……!?」
先頭にいた高瀬が俺たちを眺めわたし、失望の色を浮かべる。
「こんだけいりゃー充分だろーがヨ……!?」
マッハクンが返り血に濡れた顔を拭う。
「相手は5000匹くれーいンゾ……!? 全然足ンねーベヨ……!?」
「なァに、俺らにゃー作戦があるかンヨ……!?」
「アァ……!? 作戦って何ヨ……!?」
「決まってンベ……!? 包囲殲滅陣だァ……!?」
「だから人数足ンねーっつってんだろーが……!? そんなモンできるワケねーベ……!?」
「余裕だベ……!? 俺ら200人いて、スピードは敵の100倍で、強さも100倍だかンヨ、200×100×100で、えーと……カズゥ、1000万くれーか?」
「だいたいな」
俺は適当に答えておいた。
「とにかく、俺らは負ける要素ねーってコトだヨ……!?」
「話になンねーナ、そんなガバガバ理論じゃヨ……!?」
「いや、待てよ……」
俺がいうと、高瀬がにらんできた。
「何か考えあるンかヨ、カズ……!?」
「見たところ、そっちの200人の中央あたり、攻撃に参加していない人がけっこういました。俺たちみたいに15人くらいのユニット組めば全員を戦力にできるんじゃないですか」
騎兵の大群による突撃は、面の攻撃といえる。
それが与える効果は「恐怖」だ。整列したでっかい馬が全速力でつっこんでくるとめちゃくちゃ怖い(経験者は語る)。
その恐怖によって歩兵を恐慌に陥らせ、戦列を崩させるのが騎兵突撃の目的だ。
だがそれは、恐怖を感じないゾンビ相手にはたいして意味がない。ならば小部隊で確実に敵を削っていった方がいい。
少人数の騎兵にも、罠なんか仕掛けられたら瞬殺って弱点があるのだが(俺も以前、馬の足元に綱を張るトラップで敵を倒したことがある)、いまその心配はしなくていいだろう。
俺はそういったことを説明した。
「オーシ、ンじゃ、カズのゆーとーりにすンゾ……!? 支部ごとに分かれて存分に食いちらかせ……!?」
高瀬の号令で唯愚怒羅死琉が小部隊に分裂する。
そこからはゾンビ叩きの単純作業が続いた。
俺たちは一旦ゾンビの群れの外に出て、中に切りこんでいくという動きを延々と続けた。数えきれないくらいのゾンビをブン殴る。
いいかげんうんざりしてきた頃、遠くで城門が開いた。
中から騎兵隊が突出する。
「オイ……アレ王様じゃねーか?」
見ると、騎兵隊の先頭には前に広間で会ったオッサンの姿があった。
彼は俺たちと並走する。
「そなたたちはラグナロク騎士団か! よく来てくれた!」
「王様ァ、ムリすンじゃねーゾ……!?」
マッハクンがあいかわらずタメ語で話しかける。
「そなたたちこそ我らについてこられるかな、鉄車の騎士たちよ」
「ヘッ、ゴキゲンじゃねーのヨ……!?」
マッハクンがエンジンを吹かし、加速する。
負けじと城主のオッサンも馬に拍車をくれる。
この人、現代日本に生きてたら絶対DQNサイドにいたな。
「カズゥ、合流記念に旗ァ振ってやれ……!?」
ナイトがふりかえっていう。
俺はリアシートの上に立って旗を振った。
呼応して騎兵の旗手たちが旗を高く掲げる。
何だか楽しい。
心が通いあっていると感じる。
調子に乗って旗を振りまわしていると、突然、下から突きあげるような衝撃を受け、バイクから転げおちそうになった。
俺はナイトの背中にしがみついた。
「何だァいまの」
「地震か……!? 単車乗ってて感じるって相当デケーゾ……!?」
俺たちと並走していた騎兵の馬が後足立ちになる。
「どうなってる!?」
「あれは何だ!?」
「何かいるぞ!」
騎兵たちが騒ぎだす。
「オイ……ウソだベ……!?」
ナイトがバイクを停め、地平線の向こうに目をやった。
巨大な生き物が2体、こちらにやってくる。
『ジュラシック・パーク』に出てくるブラキオサウルスみたいに首と尻尾が長くて背の高い龍だ。前の異世界でもこれほどデカいのは見たことがない。そいつが1歩踏みだすたびに地響きが起こる。騎兵たちの馬がおびえていななく。
「オイ、サベーゾ……!?」
高瀬が部下を連れて俺たちのもとへやってきた。「アレが特攻ンできやがったら城壁なんてひとたまりもねえ。なんとかして止めンゾ……!?」
「止めるだァ……!? あんなモンどーやって止めろっつーンだヨ……!?」
マッハクンが怒鳴る。
「とりあえず足元狙うッかねーだろ……!?」
「チッ、しゃーねーナ……!?」
俺たちは龍に向けて走りだした。
ゾンビを倒しつつ接近していく。
「踏み潰されねーよーにして攻撃しろ……!?」
龍の腹を見あげる位置まで来たとき、
「危ない! 上から来るぞ!」
俺は叫んだ。
龍の背の上から矢の雨が降ってくる。
「火炎!」
俺たちは何とかそれを魔法で焼きつくした。
龍の足元を通過して後方にまわる。
「もっかい仕掛けンゾ……!?」
Uターンし、ふたたび龍に襲いかかる。
そのとき、龍が尻尾を振りあげた。
「オイ、オメーら危ねえッ!」
唯愚怒羅死琉の先鋒隊に高瀬が呼びかける。
龍は尻尾を薙ぎはらった。
唯愚怒羅死琉もゾンビたちもいっしょに吹きとばされる。夜空に派手なペイントのバイクが舞う。
「クソがァッ、ウチのモンをよくも……!?」
高瀬がハンドルに拳を叩きつけた。
「一発でコレモンかヨ……!? 羅愚奈落、STOPだァ……!」
マッハクンの合図で俺たちは停車した。
「オイオイ、こんなンじゃ近づくのもムリだベ……!?」
フブキがこちらをふりかえる。
「でも行かねーと城が危ねーしヨォ……!? オイ、どーするヨ……!?」
ナイトが俺を見る。
頼られてんなあ、俺。
しかしどうしたものか。確かに龍は城壁に迫りつつある。どうにかして止めるか方向転換させなければ。
ところでこれ、敵はどうやって操ってるんだ? そういえばさっき上から矢を射てきた奴らがいる。
上か……。
乗っちゃいますか。
「マッハクン、行こうぜ、アイツの背中の上に!」
俺は龍を指差し、叫んだ。




