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夜露死苦! 異世界音速騎士団"羅愚奈落" ~Godspeed You! RAGNAROK the Midknights~  作者: 石川博品
第4突堤 百機夜行 "拷死苦" 侵略すること死の如し!
43/54

4-10 ~Princess Side~ 「危機」

 ――ゾクどうしのけん


 ――パトカーとの追いかけっこ


 ――顔なじみの危険じゃ


 ――もうドキドキできない




 ――だけどアイツは


 ――見知らぬ危険


 ――私を見つめる熱い瞳が


 ――すべてを捨てろとささやいている






 ここはドリッジとりで

 

 こく連合れんごう拷死苦(ゴシック)に奪われたこの場所を取りもどすため、私たちは襲撃をかけた。


 中はスケルトンでいっぱいだったけど、余裕で倒す。


 私は悪糾麗(ワルキューレ)を引きつれて砦の主を救出しに向かった。


 兄の唯愚怒羅死琉(ユグドラシル)とカズの羅愚奈落(ラグナロク)は拷死苦の総長を叩きに行く。


 私も本当はカズといっしょがよかったけど、他の連中にジロジロ見られるのが嫌で別行動になった。




 私はいまほとんど裸みたいな格好をしている。


 ひとつ前の町でもらった伝説のよろいというのが水着みたいなデザインだったのだ。


 おかげで男たちがいやらしい目を向けてくる。


 そうしなかったのはカズだけだ。




「興味ねーよ、オメーのカラダなんかよ」




 私がこの鎧を着て彼の前に立ったとき、彼はそういって顔を背けた。




 そうだよね……


 カズのことだから、他の女の子のカラダいっぱい見てるもんね……。


 でも……


 私、カズになら見られてもいいかなって思ったんだよ……。




「お屋形様はこちらです」


 砦の家令だという男に案内されて私たちは塔の前まで来た。


 この男はさっきからチラチラと私の方に視線を送ってくる。


 私は鎧の上に特攻服マトイを羽織っているけど、それを透かして体を見られているような気になる。


 私たちは単車から降りた。


「2人残って。他は私についてきて」


 悪糾麗の仲間に指示しておいて私は塔の中に入った。


 上に行く階段はなかった。


 天井に木の戸みたいな部分があって、のぼるときはここを開けてはしごでもかけるんだろうか。


 家令を先頭に、地下への階段をおりていく。


 暗くじめじめした細い通路だ。


「何かお化けでそうなとこだなあ」


 副総長の陽菜ひながいう。




 さっきまでスケルトンを倒しまくってたのに何いってんだ……。




 私は斧を構え、不意討ちに備えた。


 地下室には誰もいなかった。


 壁の松明たいまつが私たちの影を不気味に大きく映す。


 床にいくつも穴が空いていて、おりみたいな蓋がしてある。


 この中が牢屋になっているみたいだ。


 家令が一番奥の穴に寄る。


「お屋形様と奥方様はこの中です」


 私はそこに行って中をのぞきこんだ。


 相当深いのか、暗くてよく見えない。


「誰かいますか。助けに来ました」


 呼びかけても返事がない。


 穴の奥の方で何かが動いた。


 じっと見つめていると、やがてそれは檻に迫ってきた。




「何これ!」


 私はジャンプして穴から離れた。




 ガシャン




 すべての穴の蓋が跳ねあげられた。


 中から無数のスケルトンがいでてくる。


「何だコイツら」


 私はすぐそばの穴から出てきたスケルトンの頭を斧で叩き割った。




「ククク……まんまと罠にかかったようですね」


 家令が笑う。「私はスカーレット様の忠実なるしもべ。あなた方は我々の捕虜となるのですよ」


「あっそう。じゃあアンタは私の敵だね」


 私はそいつに思いきり蹴りを食らわせた。




 ドカッ




 上段蹴りがきれいに決まって相手は完全にトンだ目をして倒れた。


「みんな、敵を倒して地上にもどるよ」


 まわりに声をかけるが、こちらは数で圧倒されている。


 仲間たちはスケルトンの大群に呑みこまれて見えなくなった。


「ウソ……」


 私も近づいてくるスケルトンを斧で倒すが、キリがない。




 ガシッ




 ついに迫ってくるスケルトンに押さえつけられてしまった。


 特攻服もぎとられてしまう。




 ダメ……いくら雑魚モンスターといってもこの人数にはかなわない……。




 私は手を縛られてしまった。


 壁の一部がゴゴゴと音を立てて開いた。


 その向こうから特攻服の男2人が出てくる。


「よーし、全員捕まえたな」


 スケルトンが彼らのために道を空ける。


「スカーレットサンの親は別の場所に監禁されてる。残念だったな」


 太った男が笑う。


 私はソイツをにらみつけた。


「仲間を放して!」


「おまえがおとなしくしてりゃ放してやるよ」


「なあコイツスゲー上玉だな」


 金髪の男が私の体を舐めまわすように見る。


じんサンとこ連れてく前に俺らで味見しようぜ」


 そういって手を伸ばしてくる。




 やだ……


 こんなところで私、犯されちゃうの……?


 助けて……カズ……。




「オイ、やめとけ」


 太った男がかぶりを振る。


「ソッコーでこの女連れてこいって神野サンの命令だろ? いうとおりにしろ」


「チッ」


 金髪男が手をひっこめる。


 私はスケルトンたちにひっぱられ、壁に空いた隙間に入った。


 中は急なのぼり階段になっていた。




 抜けた先の広間にはカズがいた。


 兄や唯愚怒羅死琉、羅愚奈落もいる。


 床にはたくさんの骨が散らばっていた。




「テメー……俺のオンナに何しやがる……」




 カズが椅子に座った男をにらむ。


 私の目の前にいるこの男……写真で見たことがある。


 拷死苦の総長・神野()だ。


 イケメンだっていうんでブリ商の女子に人気がある。




「動くなよ? でないと、この女の命はないぜ」


 神野のとなりにはスカーレットが座っていた。


「ネオ、ソイツのことムイちゃいなよ」


 神野が私の方を見て舌なめずりする。


「そうだな。ここはひとつ、ご開帳といくか」


 そういってスケルトンに目くばせする。


 スケルトンは短剣を抜いて私の鎧の胸当てに当てた。




「ヤダ……やめて!」




「テメー……そんなことしたらどうなるか、わかってんだろうな」


 カズがゾッとするほど怖い目で神野をにらむ。




 神野はニヤリと笑った。


 スケルトンが短剣を握る手に力をこめる。




「ッ……!」




 私は目をつぶった。




 みんなに見られちゃう……カズにも……。




 でも何か変だ。


 目を開けると、胸当てはまだ私の胸を隠していた。


 ただの細い紐みたいなのに、敵の刃を跳ねかえしている。




「ハハハ、そういやそれ、伝説の鎧だったな。忘れてたわ」


 フブキが笑いだす。


 カズも吹きだした。




 ちょっと……笑いごとじゃないんだけど。




「チッ……こうなりゃ皆殺しだ」


 神野がいうと、スカーレットが杖をカズにつきつけた。


「地獄にちな!」


 青い光の中から大きなスケルトンが2体出てくる。


 手には丸太みたいな棍棒こんぼうを持っていた。


 羅愚奈落の3人が向かっていく。




 バキッ




 一瞬で彼らは吹きとばされてしまった。




 ウソ……


 コイツすごく強い……。




「俺にまかせな」


 カズが進みでる。




 まさか……ひとりでやるつもりなの?


 そんなの無茶だよ……。




 スケルトンの1体がカズに殴りかかる。




 やだ……


 カズが死んじゃう!




 でも――




 グシャッ バキッ




 目にもとまらぬ速さでカズはスケルトンを2体とも倒してしまった。


「な、何だと……?」


 神野とスカーレットが固まっている。




「俺のオンナに手を出した奴はみんな地獄に行った。おまえらもそうなる」




「く、くそっ……」


 神野が私の腕をひっぱる。




「キャッ」




「おまえら、アイツを止めろ」


 彼の命令で拷死苦とスケルトンがカズに向かっていく。


 さっき私を捕まえた太った男と金髪もその中にいたけど、カズに瞬殺された。


「おまえはこっちに来い」


 私は神野にひっぱられ、壁に空いた通路に入った。




 階段をおりていくと、砦の外に出た。


 単車が2台停まっている。


 それぞれに神野とスカーレットが乗りこむ。


 私は神野のリアシートに乗せられた。


 単車が走りだし、砦が小さくなっていく。




「で、これからどうするつもり?」


 スカーレットが単車を寄せてくる。


 神野は彼女の方を見ない。


「とりあえず黒死卿サンに頭さげて人数出してもらう。このまま元の世界にもどったんじゃ、唯愚怒羅死琉にシメられちまうからな」


「結局他人の力を当てにするの? アンタにはがっかりだよ」


「おまえだって自分じゃ何もしてねーじゃねーか」


「私は親を裏切った。アンタのために」


「別に俺が頼んだわけじゃない」


「アンタ最低だね。こんなクズにひっかかった私がバカだった」




 なんか仲間割れしてる……。


 スカーレットは神野にだまされていたみたい。




 私もそうなのかな……。


 自分の中で勝手にカズのイメージを作りあげて、それを好きになってる。


 ホントの彼がどんなだか、知らないのに……。


 でも彼はウソで飾ったことばを使って私をだましたりはしない。


 まっすぐな気持ちを行動で示してくれる。


 それだけは絶対に真実ホントウだよね……。




 単車の音が迫ってくる。


 荒野の点としか見えなかったものが人の形になる。


 羅愚奈落の3人が私たちを追ってきていた。


 ナイトのリアシートにはカズ、マッハのうしろには兄がいる。


「チッ、追ってきやがった。おい、スカーレット――」


 神野がスカーレットに目で合図する。


 彼女は杖を振った。


 荒野が青い光で満ちる。


 ものすごい数のスケルトンが召喚される。


 スケルトンたちは寄りあつまって低いバリケードを作った。


 単車が衝突し、乗っていた人たちが投げだされる。


 うしろに乗っていたカズも地面に叩きつけられた。




「ウソ……やだ……」




 カズが……


 カズが死んじゃう!




「ハハハッ、ざまぁねーな!」


 神野が高笑いする。




 カズ……嫌だよ……


 あなたがこんな奴らに負けるなんて……。


 お願い……立ちあがって……。




「オ、オイ……アレは……」


 スカーレットが空を見あげる。




 そこには大きな影が浮いていた。




「何だアリャ……」


「骨の……龍……!?」


 龍が急降下してきてスカーレットをつかんだ。


「ギャッ!」


 彼女をつかんだまま龍はふたたび空へと舞いあがっていく。


 乗り手を失って転倒する単車をかわし、神野は加速した。


「クソッ、何なんだアレは」




「カズだよ」


 私は背後の荒野を見つめた。




「何ッ?」


「あんなことできるのはアイツだけ」




 私は誇らしさで胸がいっぱいになった。




「うわっ!」


 神野が急ブレーキをかける。


 私は彼の背中に体をぶつけてしまった。




 いつの間にか骨の龍が私たちの前方にまわりこんでいた。


 聞きおぼえのある排気音が近づいてくる。


 ナイトのFXだ。


 それに乗ってきたのはカズだった。


 私たちと並べて単車を停める。




「ゲームオーバーだ。観念しな」




「クソがァッ!」


 神野が殴りかかる。


 単車を降りたカズはそれを軽くかわしてボディーブローを叩きこんだ。


 兄に勝ったときと同じだ。




「グハッ」




 神野はおなかを押さえてしゃがみこむ。

 



「俺のオンナを奪えると思ったのか?」


 カズは彼の髪をつかんだ。




「この世界のルールを教えてやる。俺が奪う側でテメーは奪われる側だ」




「カズ……」


 私は彼に駆けより、すがりついた。


 汗のにおいがする。


 特攻服の下にたくましい肉体カラダがある。


「私、怖かった……」


「すまない」


 彼の手が私の肩をつかむ。


 大きくて熱い掌。




「どうしてカズが謝るの?」


「おまえのこと守れなかった」


「でもこうして助けてくれた」


「もう二度とこんな目には遭わせない。約束する」


「……うん」




 彼が私の顔に触れた。


 たくさんの敵を倒してきた厳つい手が私の頬を優しく撫でる。


 彼の顔が近づいてくる。




 えっ……これって……


 キ……ス……?




 ファーストキスは大好きな人とするんだって決めてた。


 だから……うれしいけど……緊張するよ。




 私は目を閉じた。


 息を殺し、彼が触れるのを待つ。




 でも何も起こらない。




「チッ、邪魔が入ったな」


 彼がつぶやく。




 私はそっと目を開けてみた。


 地平線の向こうから単車の群れがやってくる。


 兄の唯愚怒羅死琉、羅愚奈落、私の悪糾麗もいる。


 神野とスカーレットを倒したからみんな解放されたんだ。


 私はカズの顔を見た。


 そこにはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。




「ワリーな。キスはまた今度」


「えっ……」




 そんないい方……


 まるで私が欲しがってるみたいじゃん……。




「来い、ボーンドラゴン!」


 彼は骨の龍に号令をかけると、FXに乗って仲間たちのもとへ走っていってしまった。




 仲間(イノチ)な彼はいつも誰かに囲まれている。


 そんな彼を私だけのものにすることはできない。




 それでもあの約束は真実ホントウだよね?


 私だけのものだって思っていいんだよね?




 彼の熱が残る肩に私はそっと掌を重ねた。






 週明けの学校。


 授業中にこっそり別のクラスの陽菜と結月とLINEする。




   フブキがアイツらのチン毛燃やしたの

   めっちゃウケたな

   ブワッて一気に燃えて


   そのときの動画がこちら(ドン)




 私たちはこの間の戦いのあと、拷死苦のメンバーに制裁を加えた。


 陽菜も結月も、縛られた相手にメチャクチャやっていた。


 まあ、あやうく拉致らちられそうになったんだし、気持ちはわかるけど……


 動画はさすがに見たくない。




 スマホをしまって授業を真面目に聴こうとしたとき、またメッセージが来た。




   いまマッハクンからLINE来て

   あのスカーレットがシャバ高にいるらしい

 



 えっ……どういうこと?


 私は詳しくたずねてみた。




   転校してきたみたい

   授業中なのにカズとイチャついてるって




 何それ……。


 スカーレットは金髪で青い目でお人形さんみたいにかわいくて……


 私なんか絶対勝てっこないよ……。




 でも……


 カズは約束してくれたよね……


 私のこと守るって……。


 あれはウソだったの?




 私は立ちあがった。


「高瀬ェ、どうしたんだ?」


 先生の声も同級生の視線も振りきって走りだす。


 CBRを飛ばして私はシャバ高に向かった。




 シャバ高の校舎に入ると、知らない先輩が絡んできた。


「おいオメー、ドコ高だ?」


 不良校だから授業中なのに教室から出てフラフラしてる。


 私は殴られたりする前に急いでその場を離れた。


 カズのクラスは1年A組。


 その教室のうしろの戸を開けると、カズの姿が目に飛びこんできた。


 彼の膝の上にはスカーレットが乗っている。


 授業中だっていうのにふたりは抱きあってささやきあっていた。




「あれっ? どーしたよオメー?」


 カズが私に気づいて声をかけてくる。


 スカーレットが挑むような目を向けてくる。




「アンタ、悪糾麗……だっけ?」




「カズから……離れてよ!」




 私は声を震わせた。




 教室の中の人たちみんなが私を見ている。




 逃げだしたい……。


 でも……


 ここで逃げたら……目の前で起きてることを認めることになってしまう。


 そんなの嫌だよ……。

 



 スカーレットが立ちあがり、迫ってくる。


「なんでアンタに指図されなきゃなんないの?」


「だって……私……」


「アンタ、カズのオンナ気取ってるけどさあ、カズが学校いるときヤリたくなったらどーすんの? 呼んだらすぐ来るの?」


「そんな……」




 私がスカーレットに詰められているのに、カズはこちらを見ようともしない。


 前の席に座るマッハがふりかえる。


「オイオイ、アイツら止めなくていいのか?」


「俺には関係ねーからな」


ツメてーな」


「女どーしのことは女どーしで決めりゃいいんだよ」




 ひどいよ……


「おまえのこと守る」なんて約束されたら、女の子は自分が彼の特別な存在になれたって思っちゃうよ。


 それなのに……。




 私は教室を飛びだし、廊下を走った。


「おい、リコじゃねーか。どうした?」


 となりの教室からフブキが顔を出した。


 私は彼女の胸にすがりついた。




「カズが……カズが……」


 つらい気持ちを訴えようと思うけど、ことばにならない。


 私は彼女の腕に包まれたまま涙を流しつづけた。






 ――あなたが私を弱くした


 ――「おまえを守りぬく」


 ――そんな約束を


 ――信じてしまったその瞬間とき




 ――あなたがいなければ強い私でいられた


 ――あなたがいなければこんなに胸は痛まなかった


 ――でも、あなたがいなければ


 ――本当の愛を知らないままだった

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