第5章 影の先にあるもの 3 観測し続ける者たち
「響君」
「ん?」
「……お弁当、持ってきたの。手作りよ」
瑞希が鞄から包みを取り出す。中には、少し不格好だが、彩りの良いおにぎりと卵焼きが入っていた。
「……悪くないな。いや、最高だ」
「でしょ? 今日は、デーモンのことなんて忘れて、ただの高校生として過ごしましょう」
二人は並んで座り、おにぎりを頬張る。
遠くの校庭では、陸上部の生徒たちがハードルの練習をしている。かつての響が大好きだった、あのアスファルトを蹴る音、ハードルを跳び越える時の風切り音。
響は、その音を心地よく聞いていた。もう、その中に混ざりたいとは思わない。ただ、今の自分の場所を愛おしいと感じるだけだ。
「瑞希、見てろよ」
響は、最後のおにぎりを食べ終えると、立ち上がって大きく背伸びをした。
「もしまた、この街に理不尽なハードルが並べられたら、その時はまた僕が観測者になって、君を導くよ」
「あら、頼りにしてるわ。でも忘れないで。導くのはあなただけじゃない。私が、響の背中をいつでも押してあげるんだから」
二人の影が、西日に長く伸びて重なる。
デーモンがこの世に存在し続けようとも、二人は知っている。自分たちが笑い合い、明日を夢見ることを止めない限り、泥沼のようなこの世界にも、必ず蓮の花は咲くのだと。
二人の戦いは、終わらない。
だがそれは、復讐のためではなく、自分たちの手で選んだ、かけがえのない人生という名の、終わりのないコースを駆け抜けるため。
響は眼鏡を外し、春の風を感じた。
「さあ、行こうか。……未来という名の、新しいハードルを跳びに」
「ええ。どこまでも、一緒にね」
二人は屋上を後にした。
彼らの歩みは、かつてのように目立たないようにと縮こまったものではない。確かな意志を持って、自分たちが選んだ道を、誇り高く歩んでいく。
世界は相変わらず不完全で、理不尽に満ちている。だが、それでも構わない。
自分たちが自分らしくあることこそが、最強のカウンターなのだから。
(了)
読んでいただき、ありがとうございます。
響と瑞希は、理不尽に立ち向かいましたが、それでも、巨悪の氷山の一角にカウンターアタックできただけです。
皆様は危ないので真似しないでください。
今のところ、巨悪の暴走を抑えられる術は、善人の国民の数の同調圧力です。
皆様の身近で脅威なのは、学校、職場のいじめだと思いますが。それも、数を集めないと抑えられないですよね。
殆どの国民は、いじめ加害者にもいじめ被害者にもなりたくなく、楽しく日常生活を送りたいだけですよね。
そして、いじめ被害者を見つけたら、自分が標的にされなければ、誰でも力になりたい、助けたいと思いますよね。
でも、現実は、日本のいじめ現場では誰も手出しできないようにされていますね。
こういう日本のいじめの構造は、三十数年は続いています。
今はいろんな価値観で生きて良いと思います。
社会的価値観で、自己嫌悪、劣等感になるのだけはやめた方が良いです。
自己嫌悪、劣等感は、巨悪にとってとても都合が良いからです。




