第4章 愛なき組織との対決 1 聖域への攻撃
夕闇が、響の自宅にまで忍び寄っていた。
これまで学校や街という「外側」で繰り広げられていた攻防が、ついに、もっとも脆く、もっとも守りたかった場所――響の家族という「聖域」へと及ぼうとしていた。
響は自室で、両親が階下で穏やかに夕食の支度をする音を聞いていた。包丁の刻む音、味噌汁の香りが漂ってくる。それが、デーモンの工作員が送り込んできた「脅迫状」と、あまりにも対照的だった。
脅迫状の内容は卑劣だった。響の両親が勤める会社に、響の「工作活動」の証拠を流すというものだ。それは、響の正義を「学校を混乱させるテロ行為」とすり替え、社会的に抹殺しようとする罠だった。
デーモンという組織は、気に入らない人を必ず悪者に仕立てて、社会で糾弾させる。響は、瑞希とともに、学校や街に混迷を引き起こすデーモンを退治しようとしただけだ。
響自身も中学時代、クラスの酷いいじめを見かねて、やめろよ!と思わず言っただけだ。酷いいじめをしていたいじめっこたちが悪い。
でも、響はその日から、いじめっこたちから、悪者呼ばわりされるようになった。そして、クラスメイトたちも、こぞって響を悪者扱いした。
悪者という言葉は、本当の悪者が気に入らない人たちを社会や集団で葬るのに、本当にうってつけの言葉だ。
「……響、反応は?」
端末越しに、瑞希の声がする。彼女の表情はモニター越しでも分かるほどに強張っていた。
「……全部、繋がったよ。彼らは最初から、僕の『日常』を崩すことをゴールにしていたんだ。学校での騒動は、僕を孤立させるための前哨戦に過ぎなかった」
「許さない。絶対にいかせないわ」瑞希の声には、殺気と呼べるほどの怒りが混じっていた。「私の父の時と同じ……! 大切なものを、無機質な論理で破壊するなんて」
「瑞希、落ち着いてくれ。今の君の怒りは、向こうの思う壺だ」
響は深く息を吐いた。かつて中学でハードルに躓いたあの時のような、冷たい焦燥感が胃の腑を駆け巡る。だが、今は一人ではない。
「……彼らはね、僕が『愛』を武器にしていることを理解できないんだ。彼らにとって愛はただの『弱点』でしかない。だからこそ、ここが反撃の最大のチャンスになる」
「反撃? この状況で?」
「ああ。奴らが僕の家族の職場に送りつけようとしているその『証拠』……実は、僕が用意した偽造ファイルに差し替えてある」
響はモニターに指を滑らせた。画面には、デーモンの工作員たちが必死になって準備していた「響の社会的抹殺計画」の全データが、まるで手の中で踊るかのように展開されていた。
「彼らが用意したデータは、すべてハッキングの記録……つまり、僕が彼らの悪事を暴くために行った『調査記録』そのものだ。もし、それを会社に送れば、会社は警察に通報する。そして、その通信元を辿れば、奴らの拠点が芋づる式に特定される」
「……響は、自分を餌にしたのね」
「最初から、そうするつもりだった。僕の日常を脅かそうとする奴らには、彼ら自身が掘った泥沼に、自分たちから飛び込んでもらう」
デーモンー巨悪ーに響と瑞希は反撃しますが、それは2人がまだ高校生だからです。若い正義感からですが。
でも、巨悪は本当に一筋縄ではいかない相手です。




