第3章 システムへのカウンター 1 鏡合わせの欺瞞
街の空気が、わずかに変質し始めていた。
響と瑞希がデーモンの工作員たちを神出鬼没に翻弄し始めたことで、工作員たちの間には「見えない力に対する恐怖」が蔓延していた。
「あいつら、どこにいるんだ? まさか……俺たちの無線を傍受しているのか?」
廃ビルの屋上で、デーモンの下級工作員たちが疑心暗鬼に陥っていた。
響は、彼らが使っている端末に「ゴースト信号」を送り込み、仲間同士で互いを裏切り者と誤認させるプログラムを仕掛けていた。
「瑞希、聞こえるか。標的は今、互いの信頼を失いかけている。ここが引き金だ」
「了解。ノイズを最大にするわ」
響の端末操作一つで、彼らの無線機からは、味方同士の会話を歪めた罵り合いが聞こえるように細工された。信頼関係など微塵もない、薄っぺらな組織の「悪意の連鎖」を、響はあえて鏡のように反射させたのだ。
「お前、さっきから俺を嵌めようとしてるだろ!」
「は? お前こそ、組織の金を横領したって噂は聞いてるぞ!」
怒号が飛び交い、ついに暴力が始まる。響はその様子を、瑞希と共に少し離れたビルの屋上から冷ややかに見守っていた。
「……彼らの正義は、結局この程度なのね」瑞希が呟く。
「彼らは『誰かを引きずり下ろすこと』でしか自分を保てない。だからこそ、少しの疑念を植え付けるだけで、自滅するんだ」
響は眼鏡をずらした。そこには、かつて理不尽に自分を追い詰めた連中に対する、静かな慈悲にも似た侮蔑があった。
「自分たちの鏡を見せてやる。どれほど醜い生き物を、彼らが崇拝しているかを知ればいい」




