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天罰必中暗闇姉妹 〜魔法少女の始末人〜  作者: 村雨ツグミ
??編

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小娘の時

 グレンの、文字通り炎で燃える拳である。が、トコヤミサイレンスは、避けるどころか真正面から受け止めた。ジュッという音と共に、人間の皮膚が焼ける香りがたつ。


「ああっ!?」


 次の瞬間、体を吹き飛ばされたのはグレンバーンの方だった。トコヤミがグレンを、力任せに殴ったのだ。その力の強さはグレンを上回っていた。


(強い!この世界のツグミさん……いえ、チドリさんは私が知っているより、ずっと強い!)


 サナエはそう思った。もはや、拳法すら必要ないということなのだろう。荒削りな体術は、彼女の荒んだ心が、そのまま表れたようであった。


「お前さえ、いなければ!!」


 受け身をとって、跳ねるようにグレンが立ち上がる。そのまま両手を前に構えると、ドッジボールほどの火球が生まれた。グレンの必殺技、強火玉(つよびだま)である。


「おらああっ!!」


 グレンは強火玉をトコヤミへ投げつけた。だがトコヤミサイレンスは、避けるどころかグレンに向かって正面から歩いていく。


「あっ!?」


 トコヤミは無造作に、手で強火玉を払った。軌道を逸れた強火玉は、トコヤミの斜め後ろに立つビルに着弾し、大爆発を起こす。折れるように崩壊するビルをバックに、トコヤミサイレンスはグレンの目前で止まった。


(アタシの攻撃が、まるで効かない……)


 グレンはその場にへたりこんだ。無力感に打ちひしがれるグレンの心を完全に折ったのは、トコヤミの表情だ。無表情とは、また違う。怒りや絶望でもない。狙ったからには必ず殺す、ハンターの顔。氷のような表情が、グレンを見下ろし、やがてトコヤミサイレンスはグレンの首に両手をかけた。


(あっ……ああああああぁ…………)


 グレンの気道がギリギリと圧迫され、視界が端から徐々に暗くなっていく。万事休す、その時であった。


「やめて!チドリちゃん!」


 突如そんな声が響いた。そして、グレンが驚いたことに、本当にトコヤミサイレンスの動きが止まったのだ。イタズラを見咎められた猫のように、ビクリとして声の主を探す。


「ゲホッ!ゲホッ!」


 グレンもまた咳き込みながら声の主を見た。


(え?誰なの?)


 そこには糸井アヤの姿が立っていた。誰あろう、本郷チドリがトコヤミサイレンスに変身する理由となった少女だ。


「お願い!やめて!チドリちゃんは優しい子でしょ?そんなひどいことをする子じゃないよね?」

「ア、ヤ、ちゃん……?」


 トコヤミサイレンス、本郷チドリが、まるで忘れていた言葉を思い出したかのように、そう口にする。


 しかし次の瞬間、トコヤミの表情が豹変した。ギリギリという奥歯を噛み締める音が鳴り、目も、眉も、口元も怒りで歪んだ。


「何のつもりだ小娘!!今すぐ八つ裂きにしてやろうか!?」

「ひぇ!?」


 すっかり萎縮したサナエは、糸井アヤへの変身を解除した。別人に変身することは、サナエの得意技だった。おかげで、たしかにグレンの命は救えたかもしれないが、トコヤミの強大な殺意は、今度はサナエに向けられている。


「うわあああああ!?」


 トコヤミの目から再び赤い光線が照射され、サナエの足元のアスファルトを焦がした。サナエが慌てて飛び退かなかったならば、両脚を溶断されていただろう。


「うおおおおおおお!!」

「!?」


 その隙に、グレンはトコヤミに側面から組みついた。グレンは力任せに、そのままトコヤミを押し倒す。おかげで、サナエは光線に焼かれずにすんだ。


(このまま体を発熱させて!コイツを焼き殺す!)


 そう考えたグレンであったが、トコヤミは拳法を忘れているわけではなかった。使う必要がなかっただけなのだ。今のような、例外を除いて。


「ぎゃっ!?」


 トコヤミは巧みに体位をコントロールし、グレンの左腕を後ろに捻り上げた。そして、鈍い音と共にグレンの肩関節が脱臼する。


「ぐえっ!?」


 なおも発熱してトコヤミにダメージを与えようとするグレンを、トコヤミは力任せに蹴り飛ばした。


「あわわわわ……!」


 その間、サナエはどうすることもできない。二人の間に割って入るには、今のサナエはあまりに実力不足であった。


 トコヤミの目から再び赤い光線が噴き出した。狙いは、片膝をついて、かろうじて身を起こしたグレンである。


「くぉああっ!!」


 炎に耐性があるグレンでさえ、赤い光線には耐えられなかった。グレンは右手の先に炎の結界を作り、光線から身を守らんとする。


「…………」


 トコヤミは無言のまま、光線にさらに力を入れた。今は氷の表情ではなく、怒りに満ちた眼差しを、ひたすらにグレンへ向けている。グレンの出した結界に、やがて細かいヒビが広がっていった。結界が壊れるのも時間の問題だ。


 サナエは思わず叫んだ。


「ああ!嫌だ!嫌だ!二人がこんなに!憎しみあって戦うなんて!」

「うん、私もそう思う」


 トコヤミは何かを察知し、目から光線を放つのを止めた。左を見ると、その視界にキラキラと光る物が映る。


 それは、青く光る、結界で作られたトランプであった。トコヤミが跳躍して避けると、青いトランプはトコヤミがいた地面に深々と突き刺さった。そのトランプの結界は、グレンにもサナエにも見覚えがある。二人は同時に、トランプが飛んできた方向へと視線を向けた。


「オトハさん!」

「オトハ……!?」


 和泉オトハである。しかもオトハは、黒いマサムネリベリオンに乗って現れたのだ。


「オトハが……いいえ、おかしいわ!オトハは、とっくに、もう、死んで……!」


 口を開いたのはグレンからだった。


「本当におかしい!オトハだけど、まるで子どもじゃない!」

「そう言うグレンは、ちょっと老けちゃったみたい」


 16歳のオトハがイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「そうか。君は2024年のグレンバーンなんだね」


 同時に、飛行するマンダーレイアに乗るレジーナとリコもまた、グレンたちを視界にとらえていた。下界のオトハが、右拳を胸の前に持ち上げて叫んだ。


「変身」


 オトハの周囲が青い光に包まれると、彼女の姿が、青いシルクハットをかぶった、奇術師のような格好をした少女に変わった。レジーナが悲鳴にも似た声をあげた。


「嘘でしょ!?あの、オトハが、アケボノオーシャンに変身した!?」

「嘘じゃあねーよ」


 リコがふんと鼻を鳴らした。


「あれは2002年の世界から来たアケボノオーシャンだ。オトハの奴、もったいぶりやがって」

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