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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第八章 魔獣には決して餌を与えないでください
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3

 いつものように向かった、都市国家オンファロスの郊外。

 大迷宮の前にある迷宮通りは、攻略に乗り出す神子達で溢れ返っている。露店で行われる取引も盛んで、ここが町の中心ではないかと錯覚するほどの盛況ぶりだ。


「い、いつか仕返ししてやるからね……アタシだって、や、やる時はやるのよ?」


「はいはい、期待しないで待ってるね」


「ゆ、ユキテル君、最近シビュラに似てきてない!?」


 そりゃあ一週間あれば、対策ぐらい覚える。


 ヘルミオネの質問を笑って誤魔化しながら、俺は大迷宮の入り口へと向かっていく。ここ最近は毎日通っているので、門番を務めている中年神子とはすっかり顔見知りだ。


「ようユキテル。今回もヘルミオネちゃんとかい?」


「ええ。……ところでケルベロスですけど、上の層には最近?」


「ああ、来てねえよ。今後も来ない保証はないがな。――甘い食いもんだっけ? 持ちこんじゃ駄目なんだろ?」


「兄弟揃って大好物みたいですからね。味を覚えさせないようにした方がいいと思います」


 最下層に住む魔獣・ケルベロス。

 彼が上層にやってきたため、迷宮の生態系に乱れが生じた。となれば上に来ないよう対策するのは当然。大好物のクッキーなんかは、持ち込まないよう告知が出されている。


 まあ苦肉の策ではあるんだろう。オルトロスが攫われた日以降、ケルベロスとは会っていない。上層に来ないよう直接指示したいのだが、接触さえ図れていないのが現状だ。


「出現した場合は連絡してください。シビュラの特効薬クッキーもありますし」


「おう、任せとけ」


 会釈をしてから、だいぶ慣れてきた階段を下りていく。ヘルミオネも直ぐ追いついてきた。


 地下に降り始めてから、最初の層が見えるまでは少々時間がある。……この時間は独特なもので、不思議と口を閉ざしたくなる雰囲気があった。

 魔獣の住処へ足を踏み入れる覚悟ゆえか、それとも――


「ところでシビュラの名前、考えてくれた?」


 いい加減顔色が戻ってきたヘルミオネは、横に並ぶなり問いかける。


「まだ全然。毎晩聞かれてるけど、そう簡単にはね」


「自分一人で決めてくれ、って言われたんでしょ? ……いくつかアイディアがあるなら、賛否ぐらいは答えてあげるけど?」


「――ウラニア、ってどうかな?」


「どっかで聞いたことのある名前ね。意味は?」


「意味……純粋な愛情、じゃなかったかな。肉欲を含まない感じの」


 ぶっちゃけた話、美の女神・アプロディテの渾名である。

 一時、これにしようかと考えていた。が、名前としては仰々しいというか、個人的な願望が表に出ているというか。


「――つまり俺の嫁宣言なわけね?」


「まあそういう風に聞こえるよね……もう少し落ち着いた名前にするべきかな」


「んー、あの子は喜ぶと思うわよ? それに名前を貰ったからって、世間で名乗るかどうかは別でしょう? 二人の秘密なんだし、恥ずかしがることないじゃない」


「だろうけど……」


 意味を知ってる分、こっちが耐えられなくなりそうだ。

 もちろん名前のような交流をしたい気持ちはある。だが一方で、シビュラという肉体に興味を持たないのも、それはそれで失礼な気がした。


「ねえ、女性についてちょっと聞きたいんだけど」


「え? アタシに?」


「姿の見えない幽霊と話してるわけじゃないからね。――で、質問なんだけどさ。愛情ってどこから始まるものだと思う? 身体? 精神?」


「え、ええええっ!? アタシに答えろって!?」


「だから君以外に誰がいるのかと」


 前後を見てみると、いるのは屈強な男達だけだ。――正直、この疑問をぶつけるには抵抗感がある。

 ヘルミオネは少し迷った後、大きく深呼吸して話し始めた。


「あ、アタシに聞かれたって困るわよ。今まで恋人なんていたことないんだし……」


「有益な情報をありがとう。……まあ別にさ、イメージとか理想とかで構わないよ。誰かの受け売りだっていいんだ」


「……じゃあ、母さんからの受け売りでいい?」


「もちろん」

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