1 第二部 始
「じゃあ改めて、生徒会の仕事について説明するけど」
異世界にやって来て一週間。放課後に生徒会室へ呼び出された俺とシビュラは、副会長であるヘルミオネと向き合っていた。
室内の様子は以前と同じで、殺風景としか言いようがない。何度か掃除をしたため汚れは目立っていないが、活動を行う上では寂し過ぎるのも事実だった。
少しは寛げる空間にしたいなあ、とイメージを膨らませながら、副会長さんの言葉に耳を傾ける。
「人手もこうして入ったわけだし、学園でのイベント運営、ギルドとしての活動。この二つがメインになるわね。後者については既に仕事が来てるから、さっそく取り掛かろうと思うんだけど――いいかしら? ユキテル君」
「俺は問題ないよ。手伝うって約束したんだし」
「ありがと。……じゃあその内容についてだけど、そう難しくないわ。大迷宮の生態系が乱れてるから、直すのを手伝って欲しいんですって」
「……そこはかとなく、責任を追及されてる気がする」
そりゃあねえ、と相槌を打つヘルミオネ。俺の隣にいるシビュラも頷いていた。
大迷宮の生態系に異常が生じているのは、以前出会った番犬兄弟の仕業だろう。ああいや、仕業とか言っちゃいけない。彼らはあくまでも被害者なんだから。
「ヘルミオネさん、地上に影響は出てるんですか?」
「まだ多少は出てるわね。先週時点に比べると随分減ってるらしいけど、放置するのは禁物よ。アタシ達の信頼にだって関わってくるんだから」
「――じゃあ頑張ってくださいね、お二人とも!」
まるで他人事のように言ってくるが、他人事なので仕方ない。
とはいえ少しずつ、シビュラは訓練を受けているそうだ。先週、彼女の父親から刻印を奪還することに成功したためである。
年単位で身体から離れていたため、馴染むには一月ほど掛かるらしい。が、シビュラ本人の願いもあって、詳しい使い方を教わっている最中だそうだ。
「シビュラ、悪いけど留守中、アンタにも仕事があるわよ?」
「えっ」
「今度、新入生との対面式があるから。そこで生徒会を含む学ギルドの対抗戦をやるのよ。先生と色々相談することがあるから、よろしくお願いするわ」
「ず、ずるいです! ヘルミオネさんだけユキテル様とデートだなんて!」
「な、何言ってんのよ! これはただの仕事よ! 仕事!」
ムキになって否定するヘルミオネだが、その大袈裟な反応がシビュラの餌になっていると気付いてほしい。こっちだって何か期待したくなる。
二人はいつものように言い争いを発展させていった。が、これまたいつものように、ヘルミオネが白旗を上げる。顔を真っ赤にしたまま、俺の手を掴んだのだ。
「ほ、ほら、行くわよユキテル君! 時間は有限なんだからねっ!」
「ユキテル様ー、あとで埋め合わせしてくださいねー」
「わ、分かった!」
シビュラはそれから追おうとはせず、生徒会室に戻っていった。
俺はヘルミオネに引かれて階段を下りていく。途中ですれ違う生徒達は、いずれも興味深そうにこちらのことを見ていた。あの二人付き合ってるの? と小声で語る人には、容赦なくヘルミオネが睨みつけている。赤い顔のままで。
勢いが落ち付いたのは、昇降口付近の階段に来てからだった。
「はあ、はあ、はあ……」
「何もそんなに焦らなくても……」
「だ、だって、誤解されたら困るでしょ? ユキテル君、シビュラのこと好きなんでしょ?」
「――そりゃあ好きだけど」
ヘルミオネの反応がわざとらしくて、それどころじゃない。
「……」
率直な感想は胸の奥に飲みこんで、彼女の容姿を改めて観察する。
燃えるような赤い髪。プロポーションはシビュラほどじゃないが、年頃の男性を引き付けるには十分すぎる威力がある。平均的な女子生徒から見れば、確実に嫉妬の対象となるだろう。
……ヘルミオネが生徒の大半から畏怖されているのは、正直言って好都合だった。
いや、普通に考えて欲しい。男を近付けさせない美少女と、一緒に活動できるんだぞ? 独占欲を満たすには最高の相手じゃないか。




