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「生徒会に入ってくれるって本当!?」
彼女は、朝っぱらから弾丸のようにやってきた。
突然の大声に、教室内は騒然とする。肝心の本人もそれに気付いて、注目を向ける生徒達に会釈してから向き直った。
「まだ決めたわけじゃないよ。少し興味はあるから、改めて説明を聞こうと思っただけで」
「それでも十分よ! で、何を知りたいの? 活動内容? 報酬? これまで輩出された先輩神子のこと!?」
ズイズイッ、と詰め寄ってくる副会長・ヘルミオネ。こちらは着席しているため逃げることなど出来ず、近付いてくる彼女に圧倒されるだけだ。
隣にいるシビュラは、不貞腐れてそっぽを向いている。本当は話に加わって欲しいんだけど、副会長の勢いに負けてなかなか声をかけられない。
「ま、まあ詳しい話は昼休みとかでいいよ。今からじゃ時間もないだろうしさ」
「何言ってるの、まだ五分もあるじゃない! ほらパッパと聞く! 端的に説明してあげるから!」
「い、いや、本当にお昼で――」
お願いします、と結ぼうとした直前、教室のドアが勢いよく開けられた。
何事かと、再び教室中の視線が集中する。ただし今度は俺達も一緒。苛立ちを隠していなかったシビュラも、音の正体が気になっているようだ。
厳めしい顔立ちに焦燥を滲ませているのは、アキレウス。
まだ予鈴が鳴っていないと段階での登場は、別にホームルームを始めるという風でもない。
「お、いたいた。ユキテルにシビュラ、あとヘルミオネも来てくれ。ちょっと話がある」
「あ、はい!」
ベストなタイミングでやってきた救いの手を、俺は遠慮なく掴むことにした。
してやったり、と思っているのはシビュラも一緒らしい、ヘルミオネを追い越して隣に並んでくる。その場所が特等席だと言わんばかりに、後ろの友人へ勝ち誇った顔を向けながら。
生徒会の勧誘に熱中していた当人は、もちろん目尻を上げて不満顔。
「ちょっとお父さん! もう少し空気読んでよ! 生徒会にやっと人が入りそうなんだから!」
「本人が嫌がってんのに、強引に説明を続けるのはどうなんだよ?」
「嫌がってなんてないわよ! ねえ!?」
「えっ」
非常に答え辛い。確かに迷惑ではあったけど、全面的に説明を聞く気はないわけで。
口籠っていると、ヘルミオネは矛先を父親の方へと戻す。が、アキレウスは適当に頷くだけの昼行燈に。娘の話には指先一本ほどの興味もない。
とはいえ仲の悪い親子には見えなかった。ヘルミオネの台詞には蔑みが混ざっているけれど、どこか温もりがあるようにも感じる。
「お前らに話ってのは、他でもないんだがな」
喚き続ける愛娘を放置して、アキレウスは歩きながら口を開く。
辺りには生徒の姿がほとんど見えない。現在地は別の校舎へ続く渡り廊下の傍。確か向こうの校舎には、特別教室などが密集していると聞く。
「今朝、各方面に預言が告知されたろう? しかしどうも、一部の町がそれを受け入れなかったらしくてな。問題になってる」
「受け入れなかった、っていうのはどういう意味ですか?」
「言葉通りだ。ネクタル石を使って連絡飛ばしたら、出鱈目を言うな、って返ってきたんだと。しかもオンファロスの近くにある町で、だぜ?」
「……リュステウスさんとは、何か関係とか?」
「ありも大有り、ヤツの出身地さ」
途端、生徒陣の目付きが鋭くなった。




