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……昨日、ケルベロスが使ったらしい道について、彼女には話していない。不用意に情報を拡散させて、人間達の知るところになれば番犬兄弟に迷惑をかけるからだ。
かといって、いつまでも隠し通すのも難しい。こうなったら口止めを頼む前提で、洗いざらい白状しよう。
「報告したケルベロスさんですけど、その抜け道を使って大迷宮の一層に来てたらしいんですよ。もしリュステウスさんが知っていたら、利用しているかもしれません」
「有り得そうだな……よし、さっそく探し出すとしよう。私が単独で動く」
「よ、宜しいんですか? っていうか、黙ってたお咎めはなしですか?」
「そりゃあ無しに決まってるだろ。君の考えは尊重するさ。――それとも、私を陥れるつもりで隠していたのかな?」
「……冗談が上手いですね、アテナ様」
「君ほどじゃない」
互いに、不敵な笑みを交換する。
シビュラがやってきたのはその直後だった。預言後と同じように息を切らしているが、これは単に急いだからだろう。寝坊しなければ良かったのに。
「う、うう、なんですかユキテル様? 私の顔に何か付いてます?」
「いや、いつも寝坊するなんて大変だな、と思ったんだよ」
「あー、馬鹿にしてますね!? ――き、昨日は特別だったんだから仕方ないんですよ! ユキテル様と寝るのが初めてでなければ、あと一分ぐらい早く起きてました!」
「あんまり変わらないような……」
さすがは常習犯。
しかしそうなると、俺よりも夜遅くまで起きていたんだろうか? 昨夜の記憶を辿ると、彼女の寝入った姿を見た覚えはない。最後の最後までからかわれていた、ような。
食事は一緒なので、シビュラは隣の椅子を引く。
「はあ、楽しいからって油断してました。ユキテル様の寝顔を突いてただけなのに、まさか朝日が差し込んでいたなんて……」
「夜更かしどころか徹夜じゃないか! っていうか、人の顔面で遊んでたの!?」
「だって可愛かったんですもん。仕方ないでしょう?」
「……」
向かい側にいるアテナは、自分を煽ぐような仕草をしている。こっちも顔から火が出そうだ。
恥ずかしがっていないのはシビュラだけで、推測した彼女の性質を裏付けてくれる。……後でアテナに教えておこう。もう知ってるかもしれないけど。
「ところでアテナ様、今後の方針は如何いたしましょうか? しばらくは平穏な日々が続きそうですけど……」
「いや、分からんぞ。私達なら問題なく対処できるという意味で、平穏が続くのかもしれん。状況が確定するまで、油断はしないのが賢明だな」
「了解しました。あ、ところでユキテル様、生徒会の方はどうするんです?」
「ああ、ギルドのこと?」
「はい。仕事の大部分はヘルミオネさんがしてくれると思いますし、協力して頂けると嬉しいのですが……ユキテル様が活躍できる場面も増えますし!」
「うーん」
悩む。もちろん興味はあるんだけど、やっぱり名前だけ貸すのは軽率じゃないだろうか?
だったら、そうだ。あまり期待を持たせ過ぎない程度に、ヘルミオネから話を聞いてみよう。無理そうじゃなければ、もっと前向きに検討できるだろうし。
彼女以外にも、生徒会のメンバーはいる筈だ。……埃まみれの小屋を思い出すと、実は一人です、なんてオチがありそうだけど。
「今日、改めて彼女に会ってみるよ。お昼頃だったら問題ないよね?」
「はい。私の方から呼び出しておきますね」
答えながら、シビュラは机の上に弁当箱を置く。外見は昨日と同じだが、漂ってくる匂いは異なっていた。
今日もサンドイッチか――尋ねようとして、そのまま飲み込む。知らない方が楽しみになりそうだし。
そうこうしていると、預言官たちが朝食を運んできた。
「よし食うぞ。ああユキテル、おかわりはあるからな。遠慮するなよ?」
「は、はあ」
目前に広がった料理は、やはり異文化の象徴。
未だに好奇心と不安を覚えながら、空っぽの胃を満たしにいく。




