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一番上には名前と、加護を与えている神の名が記されていた。あとは箇条書きで、ソレっぽい単語が羅列している。
「千里眼、変身、百腕巨神……なんか、まだあるね。天候操作とかまで書いてあるよ」
「ね、色々あるでしょ? 本当はそれぞれ、後ろにDからAまでのランクがついてる筈なんだけど――」
「測定不能、って書いてあるね」
「言ったでしょ? 振り切ってるって。Aより断然高いと、そういう表記がなされるのよ。百腕巨神なんてレア中のレアだしね」
「一応聞くけど、ヘカトンケイルのこと?」
「そ。千里眼は周囲の空間を把握する能力。変身は読んで字のごとくね」
成程、いずれもゼウスに関係している能力だ。
ギリシャ神話において、かの神王が姿を変えることは珍しくない。ヘルミオネの祖母であるレダを始め、女が絡む時には恒例として使っている。彼女らの夫に化けるのはもちろん、雨にも姿を変えるとか。
少し使ってみたい気はするが、百腕巨神と千里眼しかやり方が分からない。案外と叫べば出来たりするんだろうか?
「――変身!」
が、変化は起こらない。
むしろ冷えた視線が突き刺さってくる。何だあの痛々しいやつ、と言わんばかりだ。お願いです無視してください。
「……何やってんの?」
「直接言われるともっと傷が抉られるね。――まあ、変身能力を試そうと思ってさ」
「あー、ユキテル君の変身能力は自動系みたいだから、意図して発動させるのは難しいわよ。必要な場面になれば、身体が勝手に対応すると思うけど」
「変身が必要な場面って……?」
「さあ? ゼウス様に直接聞いてみたら? 神殿からだったら連絡取れるでしょうし」
「じゃあ、帰ったら試そうかな」
しかし本当、何なんだ? 変身が必要になる身体の状況って。
想像を巡らせながら、別の建物に向かうヘルミオネを追っていく。途中ですれ違うのは、女神たちのトラブルを止めようとする関係者ばかり。
喧嘩の場所からは未だに破滅的な音が聞こえてくる。死人が出たって驚かないようにしよう。
「これから許可証を発行してもらうから、大切にしておいてね。失くすと再発行まで時間が必要になるから」
「了解」
屋根の下に入ると、やっぱり大勢の関係者がいる。
ヘルミオネは今度もしっかり手を握り、受付の元へ全速全身。割り込みも辞さない勢いで、加護の詳細が記された紙をたたき付ける。
「大迷宮への許可証を発行してもらえますか? この方、神級の神子なんです」
「!? か、畏まりました、少々お待ち下さい」
対応してくれた女性は、急ぎ足で奥の個室へと消えていく。――半ば脅しだった気もするけど、早急に終えてくれるなら素直に甘えよう。
「ところで、大迷宮では何を?」
「今日は軽い探索のみにしましょう。ギルドの責務に従うなら、魔獣の討伐と深層の調査を進めないといけないけど……それは貴方が会長になってからね」
と、話しているうちに受付嬢さんが戻ってくる。新しく持っているのは手のひらサイズのバッジ、だろうか?
先ほどの紙とバッジを置いて、彼女は改めて話し始めた。背後には気の良さそうな老人が一人。こちらに深々と会釈を送ってくる。
「では本日より、神子様の大迷宮への入場を許可します。所属ギルドは決まりでしょうか? 良ければ専属の――」
「あー、はいはい。そいつはウチの生徒会ギルドに入るって決まってますから。――行くわよ、ユキテル君」
「え、ちょ……」
言うが早いか、戻る時もヘルミオネに引っ張られていく。
だが指先の力はさっきよりも強い。誰かから逃げるようで、心なしか歩幅も大きくなっていた。
「急いで出ないと、囲まれるわよ。言ったでしょ? 引く手あまた、って」
「ああ、そういう」
奥の部屋から老人が出てきたのも、勧誘に基づく対応だったのかも。




