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建物から出ても、彼女は握った手を離さなかった。といっても連れて行かれるのは、人気がないどころか真逆の場所。
辺りには露店が並び、訪れている神子たちと話し込んでいる。取引を行っているような者も少なくない。
「この先に大迷宮の入り口があるわ。迷宮通り、って場所で、迷宮で発見される珍品目当てに商人が来てる。良さそうなのがあったら売ってみなさい」
「ちなみに、買ったりは?」
「それも出来るけど、見物はまた次回にしてね。今日は大迷宮が最優先、ってことで」
頷きつつ、店先に並んでいる品に横目を使う。
何やら、珍しそうな石がいくつも並んでいた。他には動物の骨とか、干し肉らしき物まで。武具の類もあり、ジャンルを一つに絞ることは出来ない。
溢れる興味を抑えて、俺達は通りの中心へ辿り着いた。
そこにあるのは地下へ伸びた穴。二人が揃って入っても余裕の大きさで、緩やかな階段も設置されている。
穴の手前には甲冑に身を包んだ男性が一人。通る者達に許可証のバッジを提示するよう求めていた。
大迷宮の、入り口だろう。
「さあ行くわよ。アタシは何度か潜ったことあるから、観光気分で構わないわ」
「……」
言葉にされると嫌な予感しかしないけど、黙って彼女についていく。
これより先は地下、魔性の領域。
人の手が当たらない暗闇へ、大きな一歩を踏み出していく。
――――――――――
大迷宮は、ラビリントスという別名を持っているらしい。
故郷では英語で、迷宮をラビリンスと言う。ギリシャ神話、半人半牛の怪物・ミノタウロスを閉じ込めた迷路を語源にするとか。
その迷路がラビリントス。ミノタウロスを閉じ込めるため、複雑かつ大規模なモノが作られた。
ギリシャ神話の影響下にあるこの異世界では、これ以上なく適切な別名かもしれない。
ちなみにミノタウロスと聞くと、斧を持っているイメージがある人も多いだろう。これはラビリントスの更に語源が、ラブリュス――斧を意味する言葉だからだそうだ。
「にしても……」
目前に広がっている光景へ、俺は舌を巻いていた。
地下だというのに、辺りはまったく暗くない。日中と同じぐらい照らされて、影まで伸びている。日がな一日大迷宮で過ごしたら、体内時計が狂うんじゃなかろうか?
「ネクタル石って、知らない?」
呆気に取られているお陰で、疑問を抱いていると悟られたのか。ヘルミオネは先導役を買いながら、謎の光を指差していた。
「いや、まったく」
「一体どんな環境から来たのか不安になるわね……ネクタル石っていうのは、根源物質・エーテルが固まったもの――って、エーテルは分かる?」
「同じく知りません」
「……授業、分からないところがあったら聞きなさいよ? シビュラがいるから大丈夫だとは思うけど」
「そりゃあもう。初日からお世話になってるから」
「自慢できることじゃないけどね」
改めて咳払いをして、彼女は説明を再開する。




