第6話:〔ミミクリーテクスチャ〕
「ここのお店、開いてるから入ろう。」
「うん。」
扉開けると、あのカランカラン鳴るやつがカランカラン鳴った。店内は雰囲気のある薄暗さで照明が淡い。なんかオシャレ。
ボクら2人を見た、店主は口を開いた。
「こんな時間に子供ふたりかい?まぁそれでもお客さんだ…いらっしゃい。」
周囲を見ても他に客は居ない。
「すぐに出せる食事はありますか?」
ポロンは周りの装飾を見て回ってる。
「今ならパンとスープ、それから昨日の残りの肉料理があるな。」
「じゃあそれをお願いします。」
「あいよ。」
店主は頷き奥の部屋に向かっていく。サクマは目の前のカウンターに座り、考えこむ。
ふぅ…やっと一息つけたよ。ねぇカレン。これからアストロフーを探すわけだけど、まずは手がかりがないとね。
〔そうだな…手がかりを集めるなら聞き込みが1番だ。手始めに店主が戻ってきたら聞いてみよう。〕
うん。それとイデアチャートについてなんだけど……
〔なんだ?〕
あれは世界を壊しかねない物。そんな物をポロン一人で取り返しに行かせるかね?
〔確かにそうだな。〕
そもそもレフティーいち族がどのくらい強いのか…どの程度いるのかは分からないけど、そう簡単に盗まれるとも思えない。
〔ふむ…。考えるなら…変化させた偽物を盗ませた可能性があるな。〕
だとしたらどうしてポロンを行かせたの?
〔修行じゃあないか?レフティーいち族の風習は知らないがポロンはまだまだ未熟。だから成長させる為に行かせた……。〕
なるほど……
〔まぁあくまで憶測。本当に盗まれるって事もあるさ。〕
〔ム。店主が戻ってきたぞ。〕
店主は料理を乗せたトレーをふたつ持ってきた。
「ポローン!ご飯だよー」
「はーい。」
トコトコ、コチラに歩いて高めの椅子によいしょと座る。
「少し温めすぎたかもしれないから気をつけてな。」
「うん!」「ふぅー…ふぅー…」
スープを息で覚ましてから口に入れる。そんなポロンを横目にサクマは質問を投げかける。
「店主さん…この辺りでアストロフーと言う人物を知りませんか?」
「アストロフー?………ああ!思い出した!……確かこの街の北の外れにある古い屋敷に住んでいる。しかしなぁ…」
「その屋敷に見知らぬ女が出入りしてるんだ…召使いならいいんだが…どうもそんな感じはしなくてなぁ…それ以前にアストロフーがまだ生きてるかさえ分からない…」
「なるほど…ありがとうございます。」
「あんた、あやつに何か用があるのかい?」
「まぁ…はい。」
「そうか。気をつけて行きな。」
「あ、ポロン。これからなんだけど、まずはアストロフーに会って話をする。どのくらいかかるか分からないけど、これが終わったらイデアチャートを探しに行こう。」
「うん。わかったー。」
「良し。ちゃっちゃと食べちゃおうか」
数分後。食事を終えたサクマは通貨を2枚取り出し店主に手渡す。ふたりは席から立ち店を出た。
「えーと…こっちか…」
店を出る前に店主から貰った地図を頼りに歩きだす。
にしても、どこを見ても歩道や装飾、建物、景色が綺麗だ…。まるでボクに見せびらかすかのような美しい景色が、歩いて歩けば視界に入り込んでいく。
そろそろ早起きのヒトが起きてくる時間。お店の開店準備や散歩をしているヒトが所々にいる。
そういえばこの世界、戦争をしていると言っていたがあまり戦時中感が無いな…皆平和な時を過ごしている。でもここは異世界。ボクが居た世界と戦争の仕方が違うのかも。
そんな事を考えてると支度中のパン屋の店主が声をかけてきた。
「よぉ兄ちゃん!早起きだねぇ。飯は済ませたかい?」
「はい。お腹いっぱいです。」
「そうか。それならお昼ご飯にこれを持ってきな!」
店主は紙袋にいくつかのパンを詰め込みサクマに渡す。
「タダでやるよ!」
「おお。良いんですか?ありがとうございます!」
「良いってもんよ!それじゃあ気をつけてな。」
「はい。」
再び歩き出す。ちゃんとポロンが着いてきているか後ろを見るとそこには姿が無かった。
あれ?
すると遠くから声が聞こえる。
「アキーこっちだよー。」
聞こえた方を見ると小さな丘の上にポロンは居た。真っ白な猫を片手で抱え手を振っている。
元気だなぁ…そう思いながら丘へと向かった。
「ポロン。あそこ店主さんからパンを貰ったんだ。お腹が空いたら食べよう。」
「おいしそー!」
中を見せた後ポーチの中にしまう。…本当にこのポーチは便利だ。サイズ以上の物もしまうことが出来てしまう。それとどーゆー原理なのかもとても気になる。
「アキーそのポーチいっぱい入るねー」
「そうだよ。しかもいっぱい入るだけじゃあないんだよ…見ててね。」
そう言いサクマはポーチをグニッと押すと中から硬貨が飛び出してきた。
「おおー!すごぉーい!今度でいいから何か物出す時ぼくにもやらせてー!」
「良いよ。それじゃあ、そろそろ行くよ。ポロン。」
地図を開き再び歩き出す。
様々な景色を楽しみつつ数十分。目的地に着いた。開けた野原にポツンと古びた屋敷が佇んでいる。外見はボロボロ。塗装剥がれ、蜘蛛の巣、放置されたクワにスコップ。人が住んでるのかさえ怪しい。
だけど気になる部分がひとつある。何日も…何日もと歩いて歩いて出来た跡。誰かがこの家に入るために歩いた道のり…そこだけ草が剥げている。その道はかなり遠くまで出来ていた。
道を作ったのはアストロ フー…だとは思えない。あんなに遠くまで歩けるならもっと家の手入れをするはずだ。きっと店主の言っていた女性の事だろう。
ま。尋ねればわかることだ。さっさと入ろう。ボクは止めた足を再び前へ運ぶ。
玄関ドアをコンコンとノックする。数秒待っても物音ひとつしない。近くの窓から中を確認しようとするがカーテンは締め切っている。もう一度ドアを叩く。数秒経っても返事は無い。
……。ドアノブに手をかけると、
「開いてる…」
鍵はかかってなかった。少しドアを開け中を確認する。机や椅子、ほとんどの家具に埃が被っている。カーテンの隙間から差し込む光で舞っているのもわかる。
サクマは後ろを振り向む。それにポロンはコクッと頷いた。
前を向き直しゆっくりとドアを開ける。ギギギ…と軋む音がなる。人が通れるスペースまで開けたとこで止め、中へ入りポロンも後を追う。
中は驚く程に静か。前世の家だとだいたい換気扇とかの機械の音がなっていたが、ここまで静かだとなんだか気味が悪い。
そしてふたりはアストロフーを探しに手分けして探索する。と言っても、ポロンは人探しというよりも家具や珍しい物を見て回ってる。
馬車の時はかっこいい所見せてたのに、普段はこーゆー風に子供らしい。
〔いくら男気あっても子供な事に変わりないからな。〕
それはそれとして探索を続けていると、扉が半開きの部屋があった。ふとドアノブを見ると埃が被っていなかった。
ドアノブに手を伸ばしたその時、
扉がひとりでに開き出した。まるで『おいで』と誘われてるかのようにゆったりと…開き出した。風が吹いてる訳では無い。触れた訳でもない。勝手にだ。
……。
〔まずはその場で中を覗け。警戒しろ。〕
わかった。
人差し指にエネルギーを溜め、集中力を高める。そして指先を目の、前に持っていく。
「ポロンこっち来て。何が起こるか分からないから、ボクの後ろから見張ってて。」
「わかったー。」
ゆっくりと扉が開かれた部屋に近付く。相変わらず物音はしない。不気味な雰囲気だけがある。
まずは正面。部屋の中央奥にはかなり大きめな5段の引き出し棚がある。その右隣に物置用の机。左には床に積まれた本の塔。棚の前には絨毯。
サクマは入口の右側に張り付き部屋の左角を確認する。壁一面はぎっしりと詰まった本棚がそびえ立っている。その下には幾つもの散らばった紙。そしたら反対側。コチラには読書用の机と椅子。次いでベット。
あらかた調べたが手前側のふたつの角は確認出来てない。確認するには完全に部屋に入らないといけない。
〔ここはポロンと入ろう。〕
「ボクのナイフを貸すから一緒に入るよ。」
「わかった。」
ポロンは左側を見張る。
「数をかぞえるから一緒に入るよ。」
ふたりは息を合わせあゆみ出す。
「いち…にの…さん!」
バッ!と部屋に入り角を確認するが何も無し。敵はいなかった。
「ふぅ…良かった。」
指先の集中を解き、気を緩めたその時。
ガタガタリ…ガタガタリ…と1番上の引き出しが揺れ始めた。
「何かいるのか!?」
サクマ再びスタープローブを構え棚に近付く。
ガタガタリ…ガタガタリ…ガタ…ガタ……リ。
揺れが収まっと思った瞬間。引き出しがサクマの顔目掛け飛び出してきた。
「ンなッ!」
咄嗟に腕で防ぐ。しかしそれで終わりでは無い。次の引き出し…上から二段目が飛び出してきた。
「ロケットショット!」
拳をぶつけ引き出しを砕く。
そして3段目。再びロケットショット。さらに4段目が飛ぶ。ここまで来れば避ける事は可能。ポロンのいる方へと跳んだ。
「これは一体!何が起きている!?」
驚いているサクマをさらに驚かせようとビシャッと窓が勢いよく開いた。それにつられカーテンさえも開く。窓から見える美しい景色にそぐわぬ荒々しい風が吹き込んで、紙が吹雪となり部屋を舞う。
そして…
残った一番下の段の引き出しが飛び出した。ちょうど絨毯の真ん中かつサクマの前方に留まる。
「…っ!アキィ…中に…ヒトがっ!」
〔なんだあれは!?〕
引き出しの中には全身が折りたたまれたヒトが入っていた。
凝視するサクマ達の後ろの本棚から沢山の本が床へ落ちる。2人は驚き後ろを振り向いた。閉じている本は次々と開かれていき、全てが9ページ目で止まる。
〔九?〕
バアッキリ…
突如とした鳴った骨の様な音に視線を戻すと引き出しの中は空っぽだった。
「さっきから何が起きているんだよッ!?」
サクマに得体のしれない恐怖が襲いかかる。すると突然、指に痛みが走る。
メキリリリ……メキリリリッ……
小指の爪が…剥がれていくッ!
「あ゛ぁぁッ!」
完全に剥がれきったとしても、次は薬指の爪が剥がれいく。
体の異変はサクマだけはでない。ポロンも何かしらの異変が起きている。
「アキぃ…まぶたがっ…閉じないのぉっ!」
「目がっ…乾燥して…痛いぃっ!」
「わかったッ…これが…どーゆースキルかがッ!」
「このスキル…閉じている物を開かせる事ができるッ!」
「扉、引き出し、窓にカーテン、本。そして爪とまぶたッ!」
「全てッ…『閉じている物』なんだッ!」
その時、どこからともなく女性の声が響く。
「正解だが…わかったとしても意味は無い。」
声の位置的にこの部屋の入口だろうか。
「誰だッ!?」
「それは私のセリフだ。不法侵入したのはそっちだろう?まぁどうせ金品狙いの泥棒だろうがな。」
ポロンが反論する。
「ちがうよー!ぼくたちはアストロフーに会いに来たのー!」
「ん。アストロだと。」
何かを知っているかのような口ぶりにサクマは揺さぶりをかける。
「何か…知っているんですか?」
「その前にお前らふたりは何者かを、そして…アストロに会いに来た理由を説明をしてもらおうか。」
「えと…アキです。」
「ぼくはポロンだよー。」
「それで…アストロフーにスキルを教えて貰うために来ました。」
「スキル…?闇属性か?」
「いえ…無属性です…」
「…ッ!?無属性…そうか…無属性か…。」
「私はもう…無属性なんて言葉聴きたく無かった…」
「お前らがどこからその情報を得たのかは知らないが、知っちゃったもんはしょうがない……腹を引き裂いて殺してあげるよ!」
〔地雷を踏んだかッ!〕
入口の影からナイフが飛んでくる。サクマはそれを避けた。だがしかし、迂闊にもスタープローブを構え、入口に向かい走り出し、ちょうど絨毯の真上に来たその時。
「サンライト・オープン」
絨毯の下の床に紛れた隠し扉!落とし穴!開いてサクマは落っこちる。その寸前ポロンは掴もうとするも失敗、ズボンの一部だけがちぎれ取れた。サクマは抗いなんとかフチを掴むが、激痛。痛みに耐えられず手を離してしまう。
「アキーっ!」
女は入口の影から現れる。
「そこのお前。獣人のオマエだ。オオカミでもキツネでもない…見た事のないタイプだな…まぁ良い。お前はまだまだ幼い。だから命だけは助けてあげる。ただし!」
「無属性という言葉を記憶から消えるくらいに最高なトラウマを植え付けてあげるぅ!」
しかしポロン。女の話を聞かず穴の中を屈んで覗き続ける。
「ガキィッ。…この私が命を助けてやるって言ってんだッ!話を聴けぇぇぇッ」
指をグンと指し怒鳴りつける。
「うん。聞いてたよ?…タップリと。」
立ち上がり、女を見つめる。
「要は…ぼくがおねーさんを…ヴィオラを倒せば良いんだよね?」
「………は?なんで名前を…」
「ぼくは攻撃系のスキルは持ってないから…アキから貰ったこのナイフで戦わなきゃいけない。」
「待て!何故名前を知っているッ!」
「ンむ?あなたの妹さんの名前も知ってるよ。」
「名前はオリン…だったっけ?」
ヴィオラと呼ばれた女は目を見開いた。得体の知らないヤツに自身の素性が知れ渡っているという恐怖に。
「貴様ッ何者だ!アキは…指先に溜めた無属性のようなエネルギーを見るに、スキルを学ぶために来た事は間違いない。だが…お前はなんなんだ!」
「何のためにここに来たッ!」
「盗まれた物を取り返しに来たって言う理由もあるけど…1番は…アキについて行く事かな?」
「全くわからん。全くわからんが…お前も殺す。」
ヴィオラはどこからか杖のような物を取り出した。それは懐かしきミロッド。白と黄色が混じった色が周りを漂っている。この雰囲気的に光属性が注ぎ込まれている事に違いない。
「ホーリーライト!」
その言葉と共にミロッドが明るく光り出す。視界が白色に染まったポロンは腕で目を覆う。その隙にヴィオラは走り出す。
「私も眩しいがこの家の間取りは把握しきっている。コチラが有利ッ!」
床に転がったナイフを拾い上げポロンの腹目掛け刺し掛かる。だが…
「居ないッ!?」
空振り。居るはずのポロンが居ない。光が収まり辺りを見渡すも姿無し。
「逃げたかッ?…いやそれは無理だ…それじゃあ隠れた?なら何処に!」
視線を部屋中グルリグルリと回すが隠れれる場所など無い。しかしヴィオラはひとつの違和感を感じた。
「この本…なぜ…これだけ閉じているんだ!私が全部開けた筈だ!ひとつだけ閉じているのはおかしい!」
本棚の下にある幾つもの開かれた本。その中にひとつだけ場違いな本があった。
「風の影響では無いッ…!」
恐る恐る本に手を近づけていく。
………
ボンッ!
本が高く舞い上がり多少の煙を立てポロンが現れるッ
「ナァニィィィ!本に化けていたッ!」
空中からナイフを構え壁を蹴り…突く。ヴィオラは咄嗟に同じくナイフでそれを受ける。とは言え空中に居るという体重プラス重力の重さに負け後ろに押し倒されてしまい、ポロンはそのまま馬乗りになる。
ポロンはまずの一手。分かりやすく真上から顔目掛け拳を下ろりした。ヴィオラは顔だけ動かしそれを避ける。ポロン。その隙にもう片方の手に握ったナイフは動かした頭の方向から突き進む。
「サンライトオープン」
握った拳は開かれ、寸前でナイフは落ちた。しかしポロンはそれを掴もうとする。
「させないよッ!」
取られる前にそのナイフを拾い上げ腹へと繰り出す。
ポロンは少しジャンプしてスキルの名を囁く。
「ミミクリーテクスチャ。」
ボンと音を立て変化した姿は鉄塊!当然鉄の塊にナイフは通じず。しかしそれどころでは無い。鉄塊がヴィオラの真上に有るッ!今にも落ちてくる。
その刹那ヴィオラはこう判断した。
「私の脚で蹴り飛ばしてやるッ」と。
直ぐさま下半身を上げ足裏を鉄塊に押し当てる。
「うおおおぉぉぉッ!」
雄叫びを上げ、気合いを込め、脚で跳ね返した。ドゴンと音を立て本棚に鉄塊はぶつかる。その衝撃で壁の一部や本棚は崩れた。ヴィオラは直ぐさま立ち上がりナイフを拾い上げる。自分の…1本だけ。そして軽いストレッチをする。
パラパラリと埃や木屑が舞う中から変化を解いたポロンが出てくる。その姿にいつもの幼さは感じない。まるで覚悟を決めた少年兵のような立ち姿。しばらくヴィオラを見つめた後にポロンは口を開く。
「ぼくのこれはなにかに変化する事が出来るんだよ。さっきやった本や鉄塊みたいにね。」
「けどこれってその対象全体を変えてる訳じゃん?でもさ、一部だけ変化出来たら最強じゃない?」
「………?」
ヴィオラは眉をひそめる。
「だから昔それを試そうとしたんだけど何故だかお父さんに止められちゃってね…できなかったの。理由は危ないからだって。」
「けどさ…今はそんな事言ってる暇は無いよね。仮に危ないとしても犯罪だとしても…ぼくとアキの身が危険な状況だからね。」
「許させると思うよ。」
ポロンは右腕を横に伸ばす。
「…。この技に名前をつけるとしたら…そうだねぇ…転換して武器にする訳だから…」
「シフトギア………。うん。いい名前だね。」
「それじゃあ…いくよ。シフトギアっ!」
そう叫ぶと腕先が細くも長い剣の様なものに変化した。色は灰色で剣と腕の堺はなんとも気持ち悪い。
「んっ……なんだか身体中が気持ち悪い…」
ポロンは右腕の剣を構える。それに答えるようにヴィオラもナイフを構える。
そして…動いた。
ポロンの斜め下からの切り上げにステップで避け、生まれた隙間にナイフを繰り出す。しかしポロンも負けじと寸前で避けて直ぐさま剣を突き出すも手馴れたナイフ捌きで流されてしまう。ヴィオラはその一連の動きの中でポロンを蹴飛ばした。
「すごいねおねーさん。手馴れって言うのかな?」
「私が凄いのは当然だが、お前も中々だな。気味が悪い。」
短い会話を交わした後、再び動きだす。今度はヴィオラから。お互いの剣とナイフがいくつもの音を立て交わった後ヴィオラは少し離れ、近くに転がっていたタンスの破片をポロンの脚目掛け蹴飛ばした。いきなりの事に避けきれず脛に激突。痛みに竦み隙が生まれてしまう。当然ヴィオラはその一瞬を逃さずナイフを繰り出す。剣で受けるも崩れた姿勢のためか、それとも身体の異変のせいか、流しきる事ができず床へ倒れ込んでしまう。
急いで立ち上がろうと上を見るも目の前には既にナイフの先っちょを向けられていた。
「…お前の負けだ。殺す前に聞くが何故、私と妹を知っている?」
「ただ街のヒトたちに聞いただけだよ。」
「は?それだけ?ただそれだけなのか?」
突如ポロンは何かを掴んだ左腕をヴィオラに見えるように出した。
それは意外。サクマのポーチだった。
「ポーチ?武器でも取り出すつもりか?ならその瞬間その手を切り落としてやる。」
「ううん。ちがうよ。取り出すんじゃあ無い。『射出』するんだよ…」
ポロンはグニッと!強く強く!ポーチを押し込んだ。その瞬間ポーチの口から硬貨が勢い凄まじく飛びだしヴィオラの左目に直撃。あまりの激痛にナイフと落としてしまう。そこにポロンは両足でヴィオラを蹴飛ばしてから立ち上がる。
「…あんな事言わずにさっさとトドメを刺しておけば良かったの_ゲホッゲホッ!」
突如として咳と共に口から血が吹き出してくる。
「おえぇっ…血だ…これ…ぼくの身体に何が起きてるんだ?………一応右腕のコレを解除しよう。」
剣となっている腕を元に戻し、サクマから貰ったナイフを右手で拾い上げた。ヴィオラにトドメを指す為、右腕を引く。
そして
突くその瞬間。
「待ってくれぇ」
誰かの声がポロンの手を止める。
声のした方向を見ると、扉の前でサクマに肩を預けた謎の老人が居た。
今から数分前、丁度サクマが穴に落ちた瞬間の時刻。
まずい!下が見えない!打ちどころが悪いと死ぬッ!
その時サクマはまるで身体に染み付いた条件反射かのように、見えない暗闇の奥底に向かってスタープローブを放った。
儚くとも暗闇を突き進むエネルギーの軌跡。それが遥か底で弾けた瞬間サクマは自然と計算を始めていた。
ぼくのスタープローブは秒速100m。この速度でエネルギー消失までの時間約0.15秒から考えるに距離はざっと…
15メートルッ!
そしてサクマは無意識にも両手を握り空気を圧縮させアボートスラストの構えをとった。
完璧なタイミングでアボートスラストを逆噴射のように放つ。速度を徐々に落とせる程長続きしないからだ。
12m
11m
10m
9m
8m
7m
6m
5m
4m
3m
今だ!
2m
ブォォン。
1m
今までサクマはアボートスラストを気付かないうちに制御していた。自身が衝撃によって飛ばないように。しかし今はそんな物は必要ない。自由落下の凄まじいGを強引にも相殺する為リミッターを無意識に解除していた。
その結果。
0m
この間、わずか1.7秒。サクマは15mの高さから落下して生き延びた。これは絶対に生きると言う生存本能がフル稼働したおかげか?。
ともかく生きるための最適解をサクマは全自動で完遂した。
「はぁ…はぁ…さすがに死んだと思った。」
〔凄いなサクマ。無意識レベルまでに計算が染み込んでいるぞ。〕
「なんだか…頭が回らんな…疲れた…」
鼓動がバクバクと鳴るも意識が朦朧とする。
「それに眠い…」
辺りを見回すと1箇所だけ少しの明かりが漏れ出ているように見えた。
〔あの光的に扉だ。扉の隙間から漏れている。行ってみろ。〕
うん。
近付くと、暗くて良く見えないがドアノブがあった。捻り扉を開けると真っ直ぐの廊下が続いている。とりあえず進んでみる。左右にはそれぞれ2つの扉があり、正面奥には上に昇る階段があった。
ポロンの元に帰らないといけない為、真っ直ぐ進んでみる。すると…
"ゲホッ…ゲホッ"
右奥の部屋から咳が聞こえてきた。
〔誰か居るぞ!〕
もしかしてアストロじゃあないかな?
サクマは扉に耳を当て部屋の音を盗み聞く。中は静かだが時折咳が聞こえる。
〔アストロっぽいな。どうする?サクマ?入るか?〕
……。いきなり入ったら驚かせちゃうだろうからなぁ…どうしよう…
そんな事を考えてると部屋の中から…
「誰か……居る…のか…?」
かすれに掠れ、途切れどきれの声が聞こえてきた。
〔気づかれたか!?〕
「ヴィオラ…では…無いな…盗っ人か?ならこの家には…もう…高価な物は無いぞ…」
………。サクマただ黙っている。
「しかし…どうやって…ヴィオラの目を…掻い潜った…んだ?あの子はかなり…勘が鋭いぞ…」
少しの沈黙ののちサクマは口を開く。
「ボクは…無属性スキルの為にここに来ました。」
その言葉にアストロらしき人物は明らかに驚いてる。
「なんと!…無属性スキルだと…!」
「そんな…無属性スキルなんて…ゲホッゲホッ」
「どこでそんなじょう_ゲホッ…情報を手に入れた…ゴホッゴホッ」
サクマはおもむろに扉を開け中に入る。そこにはベットに横たわっている老人が居た。見た目はそこまで老けていない。ゼプトよりも若干若いように見える。しかし、症状は深刻のようだ。痩せほった身体に、小刻みに震えている。目は虚ろで幾つもの謎の黒い斑点。
「貴方が…アストロフーさんですね?」
「そう…だが…何故私の名を…?」
「ゼプトさんが教えてくれました。」
「ゼプト………おお!ゼプトか…生きていたんだな…。ああそうだ…さっき…無属性スキルと…言ったな?」
「ゼプトから…ソレについてを研究していると…言われたんだな…だが悪いね…実験は失敗だ…そのおかげで私はこうなって…しまったし…協力者にも…酷い目に合わせてしまった…」
「だから…私は何も…キミにしてやれないよ…」
「そうですか…なら…少しこれを見て欲しいんです…」
サクマは拳を握り突き出す。そして
「マルチステージショット」
拳からエネルギーの塊が宙に浮かぶ。それを見たアストロは…
「ああ……あああッ…私の目が腐っていなければ…それは確かに無属性だぁッ…!」
「なんという事だ…キミ…どうやってそれを出したんだッ?」
アストロが質問を投げかけたその時上の方から大きな物音が響く。
「あ忘れていた!ポロンが戦っているッ!ヴィオラって言いましたかッ?貴方の知り合いなら止めてくださいッ」
「この事なら後で話しますからッ!」
「私も止めたいがこの身体は自由がきかなくてな…すまないが運んで欲しい。」
「わかりました!」
サクマはアストロを背負った。部屋を出て階段を登っていく。
そしてサクマはふたりのいる部屋に着き、ポロンかヴィオラにとどめを刺そうとしている瞬間に出会った。その光景を見てアストロは叫んだ。
「待ってくれぇ」
アストロの声にポロンは手を止める。
声のした方向を見ると、扉の前でサクマに肩を預けたアストロが立っていた。
続く―




