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聖女に救われた少年は誓いを立てる  作者: たてみん
第1章 幼い少年は一人
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第5話 少年と女将さん

今回切れ目がなかったので少しだけ長めです。

冒険者見習い登録を終えた僕は受付をしてくれたおっちゃんにお礼を言いつつ、街の入り口で聞いた宿屋までの道を聞いておいた。

『春の水鳥亭』は表通りから2本奥に入ったところにあるらしい。

部屋も食事も申し分ないことから、知る人ぞ知る名宿として常連に親しまれていて、いつの間にか宿の情報を伝える相手は一定の審査をクリアしていないといけない事になっているという噂があるそうだ。


『つまりお前はガルダに気に入られたってことだな』


そんなことも言われたけど、多分今回のことはバーラさんの名前が効いたんだと思う。

まぁ折角だから好意に甘えさせてもらおう。


「えっと、ここだよね。多分」


扉に鳥の絵が彫られている以外、看板も何も出ていない1軒の建物。

周りに比べて敷地が広めなのと3階建てであること以外特に特徴はない。

予め教えてもらってなかったらちょっと裕福な民家と思うことだろう。


コンコンっ。

「…………」

コンコンっ。

「……ーい」


何度か扉をノックしてみたところ奥から返事が返ってきた。

しばらく待つと扉が開いて50前後の女性が出てきた。この宿の女将さんかな。

人当たりの良さそうな感じだけど、僕の顔を見て怪訝な表情を浮かべている。


「こんにちは。おや、見ない顔だね。うちに何か用かい?」

「こんにちは。こちらは『春の水鳥亭』で合っていますか?ガルダさんの紹介で来たんですけど」

「ガルダの……そうかい。まあ立ち話もなんだ。中にお入り」


扉をくぐると正面には廊下と階段があり左右と突き当たりに扉があった。

その中の右手前の部屋へと案内された。

部屋の中には6人掛けの大きめのテーブルがある。恐らく食堂なのだろう。

別の部屋へ続く扉もあるしあっちは厨房かな。


「適当にお座り」

「はい」


促されるままに席に着くと対面に女将さんが座った。

女将さんの目がじっと僕を見据える。


「私はスワンヌという。この『春の水鳥亭』の女将だよ」

「カイです」

「ふむ、小さいのに利口だね。さぞ良い両親だったんだろう」

「ありがとうございます」

「……さて、その様子だと家出をしてきたという事でもないのだろう?

それに街中ではあまり見ない格好だ。

こういうことを聞くのはマナー違反だっていうのは重々承知しているんだけどね。

なぜこの街に来たのか聞いてもいいかい?」

「はい。僕は数日前までこの街の近くの村に住んでいたんです。

もう10歳になるから、ということで一人で生きていくように言われて村を出ることになったんです。

僕の知っている中で、村以外で人が居るところってこの街しか知らなかったので来ました」

「それは変だね」


僕の話を静かに聞いていた女将さんがピシャリと言い放った。


「え、どこか」

「私は嘘を言う子供は嫌いだよ。この辺りで子供一人が歩いてこれる距離に村はないよ」

「嘘じゃありません。この街から西側に5日程行ったところに確かに村があります。僕は、6日掛かっちゃいましたけど」

「5日だって!?確かにそんだけ離れりゃ村もあるかもしれないけど。でもその間、食事はどうしたんだい?」

「え、森に入れば食べられる草は幾らでもあるし、今の季節なら角ウサギだって簡単に見つかりますよね」

「角ウサギは魔物だよ!!

はぁ……。私は驚きすぎて少し疲れたよ。

お茶を入れてくるからちょっと待ってな。あんたの分も用意してやるよ」


そう言って女将さんは立ち上がると隣の部屋に続く扉に向かって歩いていく。

ただずっと気にはなってたんだけどその歩き方がちょっと変だ。

最初玄関口から移動してた時も今も、左足を庇うように歩いている。

少ししてお茶を持って戻ってきた女将さんに思い切って聞いてみることにした。


「あの女将さん。左足を怪我しているんですか?」

「ん、ああ。半年前に階段から落ちてね。変にひねっちまったらしくて未だに痛むんだよ。

まぁ歩けない程じゃないし、この歳になって高い金払って治療院に行くのも憚られるしね」


治療院か。そう言えば大きい街には回復魔術を専門に扱う施設があるってバーラさんが教えてくれたけど、それの事だね。


「もし良かったら僕が診てみましょうか?」

「あんたが?もしかして治癒師だったのかい?」

「いえ。でも村ではよく怪我をした人達のお世話をしていましたから」

「ふぅん、じゃあちょっと診てもらおうかね」

「はい、じゃあ失礼しますね」


一言断ってから僕は女将さんの足元に膝をつき、怪我をしている左足の靴と靴下を脱がしてそっと触れた。

……これは、骨がちょっとずれちゃってるな。

外れたところを無理やり固定して治したのかな。

あとそのせいで血行とかも悪くなってるみたいだ。


「何か分ったかい?」

「はい。これなら簡単に治せそうです。ただ」

「なんだい?」

「治すときにコリって痛むのと、明日の朝まで安静にしておく必要があります」

「それくらいなら大丈夫さ。やっておくれ」

「はい」


よし、じゃあまずは背嚢から麻酔薬を取り出して足首に塗り込む。

更に「少し冷たいですよ」と声を掛けつつ生活魔法『氷冷』を使うことで氷水に長時間浸したように感覚を薄める。

続いて、まずは骨の接合を正常に戻すために一度外して。


コリッ

「ひぇっ」

「すみません、痛かったですか?」

「いや、びっくりしただけさ。続けておくれ」

「はい、もう少しですから」


外した骨を正常な位置に持って行って、コバコの葉で編んだ薬帯で留める。

コバコの葉には温めると体内に浸透して傷を早く治す効果があるので生活魔法『温熱』で温める。

ついでに凝り固まった血行も治しておく。

最後に薬帯を生活魔法『固定』で緩まないようにすれば完了だ。


「はい、終わりました。後は一晩安静にしてください」

「は~。すごいね。まさかこんな短時間で治療が済んじまうとは。

まるでバーラ様の治療を見ているみたいだったよ」

「え、バーラさん?」

「ん?」


僕らはお互いに頭にはてなマークを付けて見合わせる。


「女将さんはバーラさんの事を知ってるの?」

「そういうお前さんはバーラ様をさん付け呼ぶなんて。

……もしかして今の医術をお前さんに教えたのはバーラ様かい?」

「え、はい。5歳の時からバーラさんには色々と教えて貰ってました」

「はぁぁ。そういうことは先にお言い。

あとちょっとでとんだ不義理をするところだったよ。

そうかい。お前さんがバーラ様のお弟子さんかい。

ここへ来たのは宿を求めてだね?

なら3階の一番奥の部屋が空いているから、今日はそこに泊っておくれ」

「は、はい」


なぜだろう。話がトントン拍子で進んでしまった。

一体バーラさんはこの街で何をやっていたんだろう。


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